Episode08-11 現場急行
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俊也からの電話は、「特事センター」として「七曜会」会員に出動を要請するものだった。そして、その電話を受けた俺は、起こった事件事象に彩音が絡んでいる可能性を考慮して直ぐに行動に移った。
電話を受けた場所が駅前近くだったので、迷わず電車に乗って八王子駅を目指す事に。
ちなみにこの間、(マナー違反だが、電車の車内から)俺は彩音に電話をかけ続けたが「5回コールすると留守電に切り替わる」というのを繰り返すばかりになっている。
「なんで出ないんだよ……」
普段の彩音は、まぁあんまり俺から電話を掛ける事はないけど、割と直ぐに電話に出るタイプだ。電話に出ない時も、直ぐにコールバックしてくるのが彼女の常。それが、何度掛けても一向に出ないしコールバックもない。
流石に状況と相まってイライラよりも不安が大きくなるが、遂には
『お掛けになった電話は、現在電波の届かいない場所か――』
という自動音声が流れて来て彩音の電話は不通に。
(……やっぱり、巻き込まれているな)
今更ながらそう確信した。そうと分かった以上は、逆に俺からの電話の着信が邪魔になるかもしれない。
そう考えが至った後は、まぁ結構な「イライラ・ジリジリ」の時間となる。そして、電車が八王子駅の2つ手前の駅で停車した時、
(ん? なんで発車しないんだ?)
普通なら1分ほどでドアが閉まって動き出す電車が、一向に動く気配を見せない。そして、
『えー、ただいま八王子駅内の構内設備点検のため停車しております、お急ぎのところ誠に申し訳――』
その車内アナウンスを全部聞き終える前に、俺は停車していた電車からホームに駆け出したのだった。
******************
あの後、俺は駅を出てタクシーを拾い、八王子駅にたどり着いた。駅前に降りて直ぐ、普段とは違う雰囲気を察知する。
雑然と駅前ロータリーに停車したパトカーと消防車と救急車の群れ。その向こうには、駅ビルの入り口に黄色の非常線テープを張ろうとしている制服警官と、手持無沙汰に駅ビルを見上げる消防隊員の姿。そして、ビルの中から避難してきたと思しき人々の中から負傷者を収容しようとする救急隊員の姿が見えた。
駅ビルの入り口にはスマホ片手の人達が「何事か?」と集まっていて、既に大きな
明らかに「何か事件が起きた現場」という雰囲気だから、俺はちょっと気後れ的なモノを感じたが、
(そうは言ってられない)
と自分を鼓舞して人ゴミに割って入る。そして、
「あの、七曜会の者なんですが」
人々が非常線に近づき過ぎないように規制していた警官の1人に声を掛ける俺。
「え? 今ちょっと近づかないでください」
「あ、いや、そうじゃなくて七曜会の」
「近づかないで」
「だから――」
「離れてください!」
「七曜会だって言ってんだろ!」
「え?」
「……え?」
この後、ちょっと時間が掛かったが、何とか俺は非常線テープの内側に入ることが出来た。
******************
「真正面から入ってこようとするなよ」と俊也。
「じゃ、どうすりゃいいんだよ」と俺。
「オレに電話すればいいだろ?」と俊也。
「……で、状況は?」ともっともな指摘をサラッと流す俺。
実は、俊也は既に現場入りしていた。その俊也に見つけてもらう事で、非常線の内側に入ることが出来たのだけど、別に感謝するような話ではない。寧ろ、あのまま押し問答していたら、たぶん俺は非常線を警官共々突破していただろう。だから、話がややこしならなくて感謝するのは俊也の方……
「……ったく、まぁいいや。それでビルは全部で11階建で、8階から10階が六等穢界の開になっている。だから未だ中には――」
お互いに「物言いた気」な視線を交わし合った後、状況説明を始める俊也。どうやら、電話で聴いた通りの状況で、11階に人が取り残されているらしい。
その11階に取り残された人々の中に彩音が混ざっている可能性は高い。だから俺は、今すぐにでもビルの中に入ろうとするが、
「……って、どうしたんだ? 何を焦ってるんだよ……」
流石に
「マジかよ……」
俊也にとっても彩音は知り合い。まぁ、彼からすると「親友の彼女」という事になるが、巻き込まれている可能性は流石に予想外だったらしく、ちょっと顔色が変わる。そんな俊也は、
「いま、青田丸さんが
先行している七曜会の会員からの連絡では、穢界が出来たのは8~10階だが、怪異は既に6階辺りまで降りてきているとのこと。穢界という境界を跨いで現実世界にも進出することが可能なのは「開いた穢界」特有の現象だ。そして、下の階に移動できるという事は、上の階にも移動できるということ。
つまり、彩音が居ると思しき最上階、11階はそれ以上の逃げ場所が無い、非常に危険な状況だと言える。
「とにかく、青田丸さんを待つか、それとも――」
「待つ訳ないだろ。俺は行くからな」
「あ、ちょっと待て」
「なんだよ!」
「オレも行く」
「……分かった」
そんな会話を経て、俺と俊也は駅ビルの方へ足を向けるのだった。
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