Episode05-03 通信販売
「フンフンフン――♪」
自然と鼻歌が出てしまう。顔もちょっとニヤけ顔だろう。彩音が見ていたら「キモ~」とか言うかもしれないが、あいにく彼女は学校だ。なので、俺は誰の目を
中には目一杯詰められた緩衝材によって厳重に守られた大小2つの白い色の化粧箱。どちらの箱も上蓋には銀色のエンボス印刷でセンス良く「ATC」と会社のロゴが刻まれている。
「お、おぉ~」
特に意味のない感嘆の声を上げつつ、俺は大小2つの化粧箱を取り出すとテーブルの上に置く。そして、
「では――」
揉み手をしつつ、まずは大きい方の箱に取り掛かる。そして、
「おお、こんなのかぁ~」
言いつつ取り出したのは、湾曲した透明な強化プラスチックにスポーツタイプのイヤホンを組み合わせたような
「……軽いんだな」
実際に着けてみると、感想はそんな感じ。
強めに頭を振ったり、左右に横跳びした程度ではズレる感じは全くない。ただ、左目の前を覆う透明な強化プラスチックグラスには保護シールが貼られたままなので、視界の確認は後回し。
「次はこっちな――」
お得意の独り言が出まくっているが、気にすることなく俺は小さいほうの箱を開ける。こちらの中身は左右の手首に装着する一対のリングだ。同じような弾性のある素材で、手首に回してパチリと留めるとしっかりと密着する。
「う~ん……」
俺は、アプリに収納してある「アームプロテクトホルダ」を取り出し、手首にリングを嵌めた状態で上から装備してみる。
「なるほど……大丈夫だ」
さすがに、セット装備を想定された品なので、腕や手首の動きを妨げる感じは全くない。
「さて……取説でも読むか」
普段は余り「取扱説明書」を読むタイプではないが、今回ばかりはじっくり確認することにした。
******************
俺が買った
イヤーマウントアナライザ(EMA-VerⅡ.05) 4,800宝珠
*両耳懸架式のARグラス。アプリとペアリングする事で視界内の怪異の名称や、オートマップ情報を表示させることが出来る。また、アプリ画面そのものを視界に投影することが可能になる。従来品「EMA」の改良モデルチェンジバージョン。高性能CPU搭載により処理速度を最大15倍向上させることに成功。また片耳懸架を両耳懸架に改めることで装着感を向上させ、新たに後頭部支持方式を採用することで、長時間の使用でも使用者の負担感を軽減させた。(ANGL―TEC社製)
ファントムタッチコントローラ(PTC-02) 4,500宝珠
*手首に装着する筋電センサーリング。イヤーマウントアナライザと併用する事で視界内に表示された情報を直感的に操作できる。新型の筋電感応センサを採用したことにより、動作分解能が向上。動作追随性を向上させた改良モデル。(ANGL―TEC社製)
の2つ。
「
9月のアップデートの際にバージョンが更新されており、それに伴い価格が上がってしまった(お陰でリアルマネー換算で100万円くらいになった)が、俺は日々の出費や貯蓄の合間にコツコツと宝珠を貯め、先月の下旬にようやく「ポチる」ことができた。
ただ、他の宝珠ショップで買えるアイテムは(例えば、折れてしまった「
――発送元が海外のため、アイテム内に転送できません――
そんな理由で国際郵便貨物による配送の一択だった。
俺としては、ちょっと違和感があったのは確かだが、それよりも「欲しい!」という欲求が勝ってしまい、購入を決断。結果として今日まで通信販売特有の「ドキドキ・ワクワク感」を味わう事ができた。
「う~ん……」
俺はARグラスとセンサーリングにアームプロテクトホルダを加えた装備で姿見(最近彩音が購入した物)の前に立つ。イメージは、商品説明欄にあった「装着例」の写真 ――イケメン外国人男性がモデルだった―― なのだが、果たして現実は……
「……まぁ……まぁ、いいか」
といった感じ。姿見に映ったのは、実に見慣れた「目付きの悪いおっさん予備軍」の俺。左目をカバーするクリアな強化プラスチックサイトを掛けている以外は、実に代わり映えしない。いや、上下が部屋着のスウェットだから、むしろ「変てこ」な感じさえする。
(黒っぽい服装に寄せたら、ちょっとはマシになるか)
そんな無駄な足掻きを考えつつ、アームプロテクトホルダに収まったスマホを指で操作し、「
――ペアリング可能な装備があります。ペアリングしますか?_(Y/N)――
早速、そんなメッセージがポップしたので、俺は迷わずに「YES」を選択。すると、
「おお!」
思わず驚きの声が漏れた。
この瞬間、俺の視界に重なるように目の前に緑色の文字列が浮かび上がったからだ。ただ、ちょっとピントがズレているようで、ぼやけて読めない。なので、左目を瞑り再度スマホをのぞき込むと、
――焦点調整中。目を瞑らないでください――
と出ていた(ので、慌てて左目を開ける)。
その後、30秒くらいで視界がすっきりとし、目の前に浮かんだ文字を問題なく読めるようになる。そこには、
――Welcome user! Start set-up wizard――
という文字列。どうやら設定モードに進むらしいが、それよりも、
(マジか……英語なのかよ)
一瞬うんざりするような気持ちになったが、気を取り直して再度取説を読むと「言語設定」の変更方法がちゃんと記載されていた。なので、俺は(目の前に浮かんだ文字列が鬱陶しかったが)スマホ側から操作して言語を「日本語化」する。そして、設定ウィザードに従いつつ、順を追って設定していった。
******************
ARグラスの設定は、搭載されたカメラセンサーの視野角や、視野の隅を取り囲む「枠」の有無、メッセージフォントの大きさや色、透過具合の選択といった基本設定がメインだった。
それが済むと、今度は「
ちなみに、俺は「
それらが終わると、次はARグラスを「
「
そのうち「
ちなみに、姿見に映った俺自身を見たところ、アプリのメインページに表示されるような「概略情報」が俺の頭上辺りに表示されているのを確認する事ができた。これが「怪異」の場合はどうなのか? 人間相手ならどうなのか? その辺の確認は後回しになる。
次に「
使いこなせば、これまでの戦闘が刷新されるような便利機能だろう。
ただ、俺の場合は「ショートカットボックス」に設定できるスキルがなかった。理由はよく分からないが、俺が持っている「呪符術」「結界術」「使鬼召喚」「霊剣技」などは、スキル発動の際にスマホを操作する必要がないので、たぶん該当しないのだろう。
(もしかしたら、外国製のガジェットだから和職クラスが持っているスキルと相性が悪いのかな?)
とも思うが、とにかく手持ちのスキルでショートカットは使えない。なので、10個のショートカットボックスはすべてアイテムに割り当てることになる。
ちなみに、ショートカットボックスに設定したいアイテムといえば「無地の呪符」「手製の呪符」の他には「癒しのお札(小)」くらい。説明書によると「武器や防具を設定すれば切り替え可能」と出ていたが、あいにく持ち替えるような武器も防具も持っていない。
なので、とりあえず
Sc1:無地の呪符
Sc2:破魔符(初心者レベル)
Sc3:無地の呪符3枚
Sc4:無地の符冊
Sc5:癒しのお札(小)
と設定してみた。ちなみにSc2にある「破魔符」は自作の呪符だ。以前は「落書きレベル」の評価だったが、今は「初心者レベル」にレベルアップ(?)している。
ただ、そうやって「使いそうなもの」を設定してみたが、それでも残り半分のボックスは空っぽ。ちょっと寂しいのでアイテム欄を漁ってみて、
Sc6:泣き石
Sc7:オサキの短刀
賑やかし程度に設定してみる。
ちなみに「泣き石」は、以前「八等穢界・生成り」で彩音を救出する際に買った「微妙な石3点セット」の残りだったりする。
後は、とにかく
「実戦で使ってみるか」
ということで、俺は午後の穢界に向かうことにした。
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