Episode07-37 マカミ山鼬⑩ 「三死陣」発動!
後から聞いた話によると、俺とオヤジが斜面の上でマカミ山鼬と戦っている間、彩音や爺ちゃん、白絹嬢は、斜面の下の方で「結界陣」を張っていたとのこと。
結界陣の名前は「
元々、今のように苦戦する状況を想定していなかったから、そこまで必要な備えではなかったが、それでも「念のため」として作ろうとしていた結界陣になる。
ただ、実際は結界陣を準備する前に「マカミ山鼬」が待ち伏せ的に仕掛けてきたため、その対応に追われて完成が遅れてしまったとの事。
これは爺ちゃんの言葉だが、
――初手で後手に回ったから、急いで賢や迅の加勢に回るべきとも考えたのだが――
爺ちゃんに言わせると、マカミ山鼬は「外部から力を足されていた」ように見えたという。真偽のほどは確かではないが、まぁ、式者としては一枚も二枚も経験が優っている爺ちゃんの言う事なのだから「そう」なのだろう。
とにかく、
――真正面から仕掛けても苦戦すると思ってな――
時間は掛かるが、最初の予定通りに「三死陣」を張る事にしたという。文字通りの「急がば回れ」だ。
ちなみに、「三死陣」は本来地形等を利用して対立相手を長期的に衰えさせていく結界陣とのこと。なので、即効性が求められる場面では「無いよりはマシ」程度の効果しか期待できないようだが、
――白絹さんが「竜柱」を作る方法を知っていたのでな――
「竜柱」というのは、地脈の力(?)を強引に吸い上げる作用を持つ柱状の構造物で一種の呪具のようなモノ。日本由来の法術ではないが、勉強家で努力家な白絹嬢は、その作成方法を知っていたという(すごいな)。
爺ちゃんは、その「竜柱」を起点として本来遅効性の「三死陣」の効果に「ブーストを掛けて発動させる」というのを思い付いたとの事。この辺の発想は長年の経験に裏打ちされたものだろう。まさに「亀の甲より年の功」というやつだ。
一方、そんな事は露とも知らない俺とオヤジは、その一瞬前まで「特攻」的な攻撃に打って出ようとしていた。そんな俺の元にテレパシー的な方法で「待て」と言葉を掛けて来たエミはというと……
――つまんない――
エミの性格やこれまでの行動パターンから考えるに、真っ先に状況に介入してきそうだけど、何故かこの時は「つまらない」と不満を言いつつも観戦モードだった模様。どういった心境の変化なのか分からないが、まぁ、こちらはこちらでエミの存在をすっかり忘れていたので、あまり追及できる雰囲気ではなかったもの。
とにかく、俺は特攻を仕掛ける一歩手前で制止され、その直後に爺ちゃんが「亀の甲より年の功」的な発想で思い付いた「竜柱・三死陣」が発動。そして――
******************
「迅さん、大丈夫!?」
そんな声と共に、彩音、爺ちゃん、白絹嬢の3人が斜面の下から
「よいしょっと!」
完全に姿を現した3人は、三者三様に足元の
(なんだ、あれ……亀?)
3人を斜面の上まで運んだのは、あの亀の甲羅の足場だろう。どうやら、本体は泥の中に潜っているようだが……爺ちゃんが呼び出した式神か何かだろうか?
「む、賢! 大丈夫か?」
とここで爺ちゃんが、俺の隣に倒れ込んでいるオヤジに気が付く。
ただ、それと同時にマカミ山鼬も、
――ギュィイィッィィ
と咆哮を上げる。先に動いたのはマカミ山鼬。例によって例の如く、泥弾の弾幕を此方目掛けて撃ち放ってくる。ただ、その密度は最初の頃と比べると随分と疎ら。しかも、
「
鋭い爺ちゃんの指示と共に、足元の泥の中から「ズンッ」と亀の甲羅が2枚飛び出して、その内1枚は俺とオヤジと爺ちゃんを庇う盾になる(もう1枚は彩音と白絹嬢の処に出現していた)。そして、
――ドババババ
泥弾が甲羅を打ち付ける音が続く間に、
「迅、どんな具合だ?」
爺ちゃんはかなりざっくりとした問い掛けを発するが、答える俺も
「どれだけ削っても再生するんだ」
とザックリした返事。しかし、
「うむ、おそらくそういう力が外から与えられたのだろう」
これで通じるのだから、血のつながりを感じざるを得ない。
「三死陣で力を削いだ、今なら大丈夫だろう」
ちなみに、この時の俺はその辺の事情をじっくりと聴いていない。しかし、直感的に「力を削いだ」という言葉と、この直前に起こった「周囲の空気が軽くなるような変化」を即座に頭の中で結び付ける事は出来た。だから、
「じゃぁ、今なら?」
「うむ、試してみよう」
となる。そして、
「どころで、賢はどうしたのだ?」
という爺ちゃんの問いを敢えて無視して、
「彩音! 舞ってくれ!」
少し離れた場所で別の甲羅の陰に隠れている彩音に、援護の「神楽舞」を頼むのだった。
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