Episode03-22 須波羽奔剣(すわのはばしりのけん)
残ったもう1体のハニ〇君との戦いは、終始「俺が押す」形で推移して、ものの1~2分で決着がついた。
ちなみに「1対1」状態になってからは、スローモーション感や相手の攻撃の先読みといった「鬼眼」の効果は発動しなかった。どうやら「本格的にヤバイ」状況にならないと「鬼眼」は発動しないらしい。つまり、俺は「素」の状態でも「ハニ〇君」を(1体なら)斃すことが出来る程度に成長したということ。やれば出来るじゃないか、俺!
これについて諏訪さんは、
「一体斃すことでひと皮剥けたな。鬼眼の方は使い慣れて行けば自分の意思で発動を制御できる」
と教えてくれた。それで、
「ほれ、練習相手は沢山おるぞ」
と言いながら、今度は3体の「ハニ〇君」を呼び出した。
この後、「ハニ〇君」こと「埴輪の
ちなみに、いくら「鬼眼」の効果で相手の攻撃を先読みできるといっても、6体も相手にしたら肝心の反撃機会が見つけられない。その結果、俺は6本の素焼きの剣を躱すことに精一杯になって……遂に躱しきれずにザックザクに斬られることになってしまった。
「ふむ、6体あたりが丁度良いな」
(どこが丁度良いんだよ!)
全身を駆けまわる焼け付く痛みに耐えながら傷の回復を待ちつつ、俺は無駄だと分かっている「ツッコミ」を心の中で叫んでいた。
*******************
「鬼眼」の力を戻して貰った後も「神界の修行」は続いたが、内容は変化した。
まず、今回の「3度目の50日神界修行」で、俺は初日から10日目まで、ほぼぶっ通しで「ハニ〇君」達と戦っていたが、その内容が変化した。具体的には神界を取り囲む巨木の森で「ヤト」と「
ただ、この「鬼ごっこ」は、今回から「ヤト」「鵺」「白羅鬼」の固定メンバーから「白羅鬼」が脱退し、その代わりに「
――あの3匹を斃すまで終わらんぞ――
といういつも通りの無茶振りと、武器として「木剣」を諏訪さんから貰い、森の中に放り出された。
ちなみに、この森での「鬼ごっこ」については、前回の時点で既に「ヤト」や「鵺」の単体であれば丸太を武器に「襲われても反撃して追い払う」ことは出来るようになっていた(ただし白羅鬼を除く)。ただ、あくまで「襲われて」からの反撃だ。逆にこちらが相手を探すとなると随分と勝手が異なった。
単純に森の中を歩き回るだけでは、相手を見つけられない。そうかといって、一計を案じて「待ち」に徹すると、今度は「ヤト」「鵺」「狒々」の3匹が一斉に襲ってくる。どうやら、今回から加わった「狒々」が他の2匹に指示を出しているらしい。見たまんま「大猿」という姿の化け物だが、猿なだけあって頭が良いらしい。実に厄介な猿知恵だ。
ただ、そうやって探し回ったり、奇襲を受けたりしつつ1日ほど森の中で過ごした辺りで、ちょっとした変化が俺の身に起こった。それは、
「ん? ……なんだこれ」
と言ったもの。四方を巨木に囲まれた状態で腰丈の下草の中に立っていた俺は、なかなか相手を見付けられない状況に少しイライラして自然に周囲を睨むような目つきになっていた。すると、不思議な事に森の風景を映している俺の視界に、オレンジ色っぽい何かの輪郭が浮かびあがったのだ。それは……人が屈んだような格好で少し上の方……多分、木の上に居る。
「
浮かび上がった輪郭の大きさからいって、少し離れた場所の木の上に居るのだろう。もしかしたら、そこから俺の様子を
それで俺は「睨む視線」を保ったまま周囲を見る。すると、
「っ!」
背後(狒々が居る方とは反対側)のすぐ近くに、今度は4本足の獣の輪郭を見つけた。どう考えても「鵺」だ。その直ぐ近くには
(それで俺が逃げる方向に「狒々」が待ち構えている……くそ、猿知恵め)
なんとなく、相手の意図まで分かった俺は……しかし、嬉々としてその瞬間を待つ。そして――
――ガサガサッ
背後の茂みで物音が鳴り、角を生やした大蛇(ヤト)が飛び出して来る。針のような牙をビッシリ生やした大口を開けて、だ。
ただ、それは俺には予想済みの展開。なので、余裕をもってヤトの噛み付きを躱す。すると、
――ドバァッ
という勢いで、今度は「鵺」が木の陰から飛び出して来る。だが、これも想定内。なんだか良く分からない獣の造形をした鵺の前足には鋭い鉤爪があるが、その一閃を、これまた余裕をもって躱す。そして、
「うわっ!」
白々しく驚いて見せながら、俺は反対側 ――つまり「狒々」が木の上で待ち構えている方―― へ走って逃げる。
勿論、背中には追いかけて来る「ヤト」と「鵺」の殺気を感じるが、今の俺の狙いはこの2匹ではない。俺の狙いは――
「イヒヒヒヒヒッ!」
引き攣ったような大笑いを上げて木の枝から飛び降り
多分「狒々」は完全に俺の不意を突いたと確信していたのだろう。なので、枝の上から俺を踏み潰す勢いで飛び降りてきた。しかし、俺からすれば全て想定内。しかも、この瞬間には木の上から飛び降りて来る狒々の幻影がスローモーションで「視えて」いる。なので、
「っ!」
走る勢いを一気に殺して、その場で軽く横っ飛びに狒々の攻撃を避ける。そして、
「うりゃぁっ!」
着地と同時に驚いた顔を俺へ向ける「狒々」の喉元に、真正面から渾身の木剣の切っ先を突き込んだ。
「ヒギィッ!」
その一撃で「狒々」は首から赤い血を吹き出して仰け反り倒れる。そしてフッと姿が消えた。一方、背後に迫っていた「ヤト」と「鵺」は司令塔役の「狒々」が今まさに死んだ事に気付きもせずに俺の背中へ跳び掛かって来るが……結局、その攻撃も「視えて」いた。
この後、2匹同時だったので少し時間が掛かったが、結局俺は「鵺」「ヤト」の順に2匹の化け物を斃す事が出来た。
*******************
森での「鬼ごっこ」をクリアした後の日々は、ハニ〇君達との「1対6」の戦いが終われば、そのまま森で化け物どもとの追いかけっこ、という感じになった。
森での追いかけっこ(もはや一方的に逃げるだけの「鬼ごっこ」ではない)では、あの後、大蜘蛛の化け物(
一方、ハニ〇君達との「1対6」の戦いは、しばらく「集団リンチ」のような状況が続いたが、徐々に状況が良くなり、ついに俺は反撃する糸口を掴むことに成功。結果、6体いる内の1つでも斃すと「力の均衡」が崩れて戦いが楽になる展開になった。
そんなこんなで、俺は数十日間エハミ様の「神界」で修業に明け暮れ、50日修行の期間も残り数日となった時、再び諏訪さんが
「なんじゃ、『ややこしい事』呼ばわりしおって……まぁいい。それよりも迅、今日からこの剣を使え」
言いつつ、諏訪さんはひと振りの剣を投げよこす。
「うおっ?」
受け取った俺は少し驚いた。というのも、その剣が木剣ではなく「本物を感じさせる質感」のある剣だったから。ちゃんとした鞘に収まっている。
「抜いてみろ」
そう言われて、俺は剣を鞘から引き抜く。
――シャンッ
という清冽な鞘鳴りを響かせて姿を現した刀身は、神界の空に掛かる大きな月の明かりを受けて濡れたような光を放つ。何と言うか、「御池」に湛えられた清らかな水面を連想させる静かな美しさがある(ような気がする)。
「剣」の長さはこれまで使って来た「木剣」と比べて握り拳半分ほど長いくらいでほぼ同じ。重さも片手で振り回すのに丁度良い重さだ。切っ先が両刃で、それ以外は片刃の直刀という造りは「木剣」の形と同じに見える。しかし、そんな事よりも、
「……うわぁ……」
抜いた瞬間に分かったが、この剣、絶対「ただの剣」ではない。刀身から噴き出すように霊気のような力を感じる。
「
そんな俺に諏訪さんはそういうと、
「では、最後の仕上げとして……
言いつつ腕を薙ぎ払うように振る。そして、
「グォォオオオォン!」
久しぶりに見る巨大な白い鬼 ――白羅鬼―― が姿を現した。最初から金棒を持っているって事は……
「コレと仕合え」
ということだった。
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