Episode03-23 好敵手と書いて鬼と読む
(相変わらず……スゴイ威圧感だな)
俺は対峙した目の前の「鬼」を見て思う。
鬼の名は「
ちなみに、この「白羅鬼」の強さについて、以前俺が諏訪さんに尋ねたところ、その答えは、
――強さの尺度などに
とのこと。「
それでも、「三等穢界」なんて入った事も無ければ、見かけた事もない。つまり、全く「想像もつかない強さ」ということ。
ちなみに「ヤト」「
「ぐおぉ……」
と、そんな事を考えていると、目の前の白羅鬼は「集中しろ」とでも言いたげに唸り声を上げる。
そう、この「白羅鬼」は滅茶苦茶強いのだが、どうやら中身は結構「良いヤツ」なんだ。素手で相撲を取っていた時から感じていたことだが、身振り手振りで色々教えてくれることがある。最初の頃は明らかに手加減をしてくれていた(それでもペシャンコに潰されたけど)。
その白羅鬼が、今度は何か言いたそうに諏訪さんの方を見る。それで、
「ん? ああ、そうだった……よし迅、エハミ様の分霊、童女エミの加護も返してやろう。それでお前の全力だ」
諏訪さんはそういうと、実は神界の修行初日からずっと取り上げられていたスマホを俺に投げて寄越す。
そして同時に、
「っ!」
俺は、不意に自分の身体が軽くなったのを感じた。
「神界の修行」初日に取り去られた「エミの加護」が戻って来たのだろう。ただし、神界で100日近く鍛えた後の身体に戻って来た力だ。以前よりも数段強く感じられる。
「後は、遊戯のような法術の真似事……スキルだったか? それも使って良い」
一方、諏訪さんは続けてそう言う。どうやら「
(だったら――)
俺は久々に「
(まぁ、アイツの攻撃力の前だと防具としては全く無意味だろうけどな)
そんな事を考えつつ、俺はスマホをアームプロテクトホルダに取り付ける。そして、本当は成長度合いを「ステータス画面」で確認したかったが、それは後のお楽しみとして、抜き身の「
「ぐおぉ……」
対して白羅鬼は「それで良い」と言わんばかりに唸る。そして、自身も2メートル近くある「金棒」を片手で肩に担ぐスタイルで構えた。
「はじめ――」
諏訪さんの声が掛かる。その瞬間、俺と白羅鬼は一気に間合いを詰めた。
*******************
――ブォッ!
風を捲いて迫る金棒の一撃を俺は身を屈めて避ける。
ちなみにこの金棒の一撃は、まともに喰らうと俺自身が「潰れたトマト」のように飛び散ってしまう威力がある。なので、何が何でも絶対に「貰う」訳にはいかない攻撃だ。
だから以前は後ろに飛び退いて躱すしか手が無かった。しかし、今は「鬼眼」の働きによって攻撃の軌道が「視える」。だから、今のように紙一重で躱す事も……ちょっと
「うらぁ!」
一撃を躱した俺は、お返しに剣を振るう。
――キンッ!
残念ながら、俺の一撃は白羅鬼の金棒によって弾かれた。
「グオォッ!」
対する白羅鬼は「やるな!」的な声を発すると、巨大な金棒を振り回す連続攻撃に入った。
「これは――っ」
一撃必殺の金棒が扇風機の羽のように回り、流石に「紙一重」で躱す隙間が無い。俺は渋々後ろへ下がりつつ、
「破魔符!」
諏訪さん曰く「遊戯のような法術の真似事」を放つ。狙いは白羅鬼の顔面。結果、
「グオ――」
俺が放った破魔符の呪符を、白羅鬼は少ない動きで完全に回避。しかし、その一瞬だけ金棒の連続攻撃が止まった。その隙に俺は、
「っ!」
一気に懐へ飛び込み、白羅鬼の膝の辺りに「
しかし、いくら「エミの加護」で力が戻ったと言っても、流石に巨躯の鬼との力比べは分が悪すぎる。だから俺は、次の一瞬で金棒を後ろへ
(――やべっ!)
同時に、白羅鬼の木の幹のような足が回し蹴りとなって真横から襲う
――ゴウッ!
という風圧を鼻先に感じつつ、間一髪、後ろに飛び退いて蹴りを躱す俺。そこに白羅鬼の連続攻撃が襲う。そして、
――ドンッ!
遂に、俺は視えていても躱せない金棒の突きを受けて、5,6メートル吹っ飛ばされた。
「ゲホッ、グホッ――」
突きの瞬間、後ろに跳んで威力を減衰させたが、それでも俺の肺は空気を全部吐き出して咳き込む。口の中に鉄臭い血の味が広がった。
「グォオッン!」
視界の先では白羅鬼が金棒を大上段に構えて、6メートル強の間合いを一気に詰めようと駆け出すのが見える。流石に今突っ込まれるのはマズイ――
(――
そこで俺は「単結界」で榊の生垣と柊の生垣を目の前に作り出す。そこへ白羅鬼が真正面から突っ込み、
「グオオオッ!」
一瞬だけ勢いを削がれた白羅鬼が鬱陶しそうに金棒を振り払う。その一撃で2種類の生垣による結界は跡形もなく吹き飛ばされ、榊や柊の枝葉が土埃と共に粉々になって宙を舞う。
その一瞬、俺には白羅鬼の注意が視界を邪魔する枝葉や土埃へと逸れたのが分かった。
「っ!」
本当ならば、「癒しのお札」を取り出して胸の打撲を治したいところだが、それをやると折角の好機を逃すことになる。俺は他念を排して、白羅鬼の元へ再度飛び込むことを決める。そして、
「ぅっ!」
やっとの思いで肺が吸い込んだ僅かな空気を気合として吐き出しながら、距離を詰めると、剣を上段に構えつつ跳躍。その瞬間――
(っ! 違う?)
俺の目には白羅鬼の動きが幻影となって視えた。それは、俺の一撃を待ち構えていたかのように金棒で受け止め、姿勢が崩れた俺へ前蹴りを叩き込む一連の動作。つまり、あの一瞬で注意を逸らしたように見えていたのは、白羅鬼が仕掛けたフェイントだった。
(クソ!)
既に飛び込んでしまった俺は、もう動きを止めることも変えることも出来ない。しかし、咄嗟に視えた光景を現実にさせないため、振り下ろそうとしていた剣を無理やり抱え込むようにして止める事はできた。
――ブンッ
そして、俺はそのまま剣を振る事をせずに、白羅鬼が繰り出した金棒の下を潜り抜けると、
「っ!」
目の前に現れた
「グオオオッォォッ!」
白羅鬼が絶叫を上げる。
俺は「勝った」と思う。しかし、
――ゴンッ!
次の瞬間、頭上から物凄い一撃を喰らい、俺は地面にめり込む感覚を覚えながら意識を手放していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます