Episode03-06 やっぱりオカシイ「スーパーバリューショップ・与野店」


 その後、俺は順当にトイレの「八等穢界」を浄化し、次いでに生鮮食品売り場に出来ていた「九等穢界」も浄化。その後、一旦アパートに戻って、午後の4時前に再び「スーパーバリューショップ・与野店」を訪れると、「八等穢界」(日用品売り場)、「九等穢界」(使っていないレジの横)を浄化した。


 深夜の時間帯と異なり、店内には買い物客が(極少数、本当に数人程度)居たが、「穢界」に出入りする俺を見咎みとがめる人は居なかった。この辺はスクにゃんの「チュウとリアル」で語られていた通り、穢界へ入る直前と出た直後の俺の姿は一般の人の注意を惹かない模様(しくもこんなところで確認する事になった)。


 結局、俺は午前と午後で合計4つの穢界を浄化したことになる。結構なハイペースだ。


 ちなみに、八等と九等を浄化すると「穢れポイント」は正味合計で60ポイントほど溜まる(浄化ポイントとほぼイコール・・・・・・になる)。ただ、この「穢れポイント」は穢界の中で時間を過ごしていても普通に減っていく。だから、いつもよりもちょっと長めに穢界の中に留まる事で(その間は暇だけど)調整は可能。穢界の中と現実世界で時間の流れが10倍違うからこそできる芸当だ。


 とにかく、これで午後4時半の時点で「スーパーバリューショップ・与野店」に存在する穢界は「九等」「八等」「七等」が1つずつの合計3つ。それを確認して、俺はもう一度自宅アパートに帰宅した。


 そういえば、少しだけ心配……というほどでもないが、気がかりな事があった。それは1日の間に何度も店を訪れる俺を、店側が「不審者」だと疑わないかどうか? ということ。


 ただ、あの店はどうも店員の意識レベルが低いらしく、とにかく余り売り場の状況に注意を払っていない感じに見えた。アルバイトなのかパートなのか知らないが、手元の仕事や自分の持ち場以外に注意が向かない感じだ。だから、店内は薄汚れた感じのままだし、棚の品出しも不完全だし、賞味期限切れのパンが平気で置いてあったりするのだろう。


 それでも、まぁ、変に目立って「顔を覚えられる」ことは避けた方が良さそうだと思った。


*******************


 夜の10時過ぎ。俺はバイト終わりの彩音をコンビニの駐車場でピックアップする。そして今夜も「野菜が食べたい」と言う彩音の要望リクエストで近くのファミレスへ。


 ちなみに、ここ数日間、夜ご飯は同じファミレスで2人揃って同じ(一番安い)セットメニューだ。それをもう4,5日続けている感じだが、彩音は


「なんかね~、アタシって、同じ物が続いても気にならないのよね~」


 との事。奇遇な事に俺も「そのタイプ」だ。大学生時代の昼飯は学食の「白身魚フライ定食」をほぼ4年間毎日食べていた気がする(ちなみにフライにも醤油派だ)。ただ、俺の場合は単なる偏食だが、彩音の場合は、


「そういう食生活だったし?」


 半疑問形で薄まっているけど、理由が重たい。なので、


「あ~、明日は回転寿司でもどう?」

「バイトひと段落記念だね、オッケー」


 自分で言って彩音にそう返されて思い出した。明日は3件中2件のバイトが終わる日だった。そうだったら、回転寿司はちょっとケチ臭い――


(焼肉とかのほうが良かったかな?)


 と今更思うが、


「アタシ、マヨコーン軍艦が好き~」


 ニコニコしながら塩味のアスパラガスを咥えている彩音を見ると、


(ああ、誕生日ももう直ぐだったな。じゃぁ焼肉はその時で――)


 と思い直した。


「ところでさ~、本当にあのスーパー、穢界が復活してたの? そんな事ってある?」


 とここで彩音は話題を「スーパーバリューショップ・与野店」の穢界の件に切り替えて来た。


「本当だって。まぁ午前と午後で八等と九等を2個づつ浄化したから、今残っているのは八等と九等とあと七等だけど」

「ふ~ん……やっぱりさぁ、あのお店、なんかあるんじゃない?」


 この後、彩音は独特の推理を披露してくれた。曰く、


――ライバル店が仕掛けた呪いだったりして――


 とか


――昔アルバイトの人が冷蔵庫に閉じ込められて凍死した。その怨霊が――


 とか、


――お店の場所が昔、処刑場だった――


 とか、果ては


――店長が浮気癖のある男で、棄てられた元カノが恨んで――


 など。まぁ……色々出て来た。


 ちなみに、彩音は色々言っている内にワル乗りしだして、結局、店長(名前も顔も知らない)を「浮気癖のある悪い男」という設定にしてしまった。冗談にしても、酷い話だ。


「じゃぁ、その店長の顔を見に行こ~」

「……」


 そんな感じで俺達はファミレスを後にすると、「スーパーバリューショップ・与野店」へ向かった。


*******************


「……ねぇ迅さん」

「いや、本当に4つ浄化したんだ」

「じゃぁ、この数は何?」


 店に着いて(正確にはバイクを停められる駐輪場で)スマホの「EFWアプリ」を立ち上げた俺と彩音は、お互いの「マップ」表示に映った穢界を示すアイコンを見てそんな言葉を言い合う事になった。


 というのも、


「八等が2つ、九等が3つ、七等が1つ……」

「アタシ的には、昨日の夜より多いんですけど?」


 という状況だったから。


「不思議だな」

「うん……不思議」


 ただ、この時点で俺も彩音もこの現象を「不思議」とは思っているが、そこまで深刻に受け止めている訳じゃない。寧ろ、


「でも、帰り道にあるから」

「便利、って感じ?」


 そんな感じの受け取り方だった。それで、


「行くか」

「オッケー」


 となった。


 この後、俺と彩音は問題なく「八等穢界」と「九等穢界」を一つずつ浄化。


 夜の穢界では、主に彩音がメインになるが、俺は今日の昼に習得した「柊垣ひいらぎかき」を使った新しい戦術を試してみた。まぁ、戦術というと烏滸おこがましいが、「柊垣」は「榊垣」よりも背丈が低い。なので、怪異と彩音の間に「柊垣」を展開し、彩音が持つ「桃の六尺棒」の長さを利用し、垣根越しに怪異を殴ってもらう、という戦い方だ。


 八等穢界の怪異には「柊垣」を乗り越える力は無いらしく、それでも彩音目掛けて突っ込んで来るので、奴らは勝手に傷だらけになった。そして、柊に絡まった状態で彩音にボコボコと一方的に殴られていたので……ほんのちょっとだけ「気の毒」に感じたものだ。


――これ、超ラクショーなんですけど!――


 絶好調な彩音は、本日最後の九等穢界でレベル9に上がった。


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