第132話 我慢大会
焼けた黒鮑にナイフを入れる。殻に溜まった溶けたバターを肝に混ぜ、それをたっぷりつけて食べる。
美味しい。日本酒が欲しいと思いながらおにぎりを齧る。
灰の中に半分埋もれさせたじゃがいもも、もういいだろうか。流石に早いか。
次回から、塩胡椒などの調味料も持ってくるべきだな。いや、イレギュラーなことがなければ弁当なので必要はない。
ナイフは予備武器としてベルトの背中側に着けていたものだが、特務時代にもらったものなので、いいものである。ただ、戦闘で使ったことはついぞなかったが。
日本酒かビールが欲しい。
焚き火を眺めつつ酒の誘惑と戦っていると、じゃがいももいい具合。ラクレットチーズを温め始める。独特な匂いが強くなったが、これをいい匂いととるか臭いととるかは個人差がありそうだ。
じゃがいもにナイフで十字に切れ込みを入れる。
ラクレットチーズをじゃがいもの上に削ぎ落とすこの料理は、スイスの家庭料理。有名なアニメではチーズを暖炉で炙っていたらしいが。
ナイフを温めて柔らかくなったラクレットチーズの表面をゆっくりなぞると、ほくほくのジャガイモに落ちてゆく。
ほくりとしたじゃがいも、鼻腔に抜ける少しクセのあるラクレットチーズの匂い。白ワインだろうか――これもまた酒が欲しくなる。
何か自分で自分の忍耐を試している気がしてきた。自主的に禁じているだけで、別にダンジョンでの飲酒がダメというわけではないのだが。ないのだが、ここで呑んだら本当にダメな人間になりそうで堪えている。
弱くなった火がちろちろと燃えるのを眺めながら横になる。燃える炭のオレンジ色は綺麗だ。
91層、ウナギと生クリーム、地酒、ハモ。ウナギもハモも産地明記。私では違いがわからんが、食べて好みなのを探せばいいだろう。丸っと隈なく回った。
92層、世界のブランデー各種。丸っと隈なく回った。
93層、魚のクログチとシロモチ、大豆と小豆、こんにゃく類、豆腐や湯葉。産地明記。隈なくとは言わんが回った。
94層、薬の材料。階段を見つけるまで時間がかかり、結果的にほぼ回った。
95層、産地明記の竹輪、かまぼこ類。聞いたことのない名前のチーズ各種。キクラゲとエノキ。
リトルコアは荊を生やした鳥。棘のある蔓を伸ばし、拘束、吸血などの攻撃をしてくる。通常攻撃でも蔓を伸ばし、ふるってくるので【スキル奪取】の使い所の判別が付かず、少々苦戦。
絡め取られることはなかったが、蔓は切れるものの本体の防御力は高めで弱点らしい弱点がない魔物。倒すことに時間がかかった。私の戦い方はこういう敵には向いていない。
ドロップカードは『ラズベリー』『ブラックベリー』『カシス』など。そして能力カードが一枚。
【革製品】、生産能力系のカードなわけだが、ツツジさんに頼んだ方が早いので、パスである。使わずにこの場に放置する、能力系のカードは【収納】して持ち出しは不可なので。
消耗品を生産する能力カードの方が出やすいと聞くのだが、残念。調薬系のカードならば能力を得てもよかったのだが。
後先考えずに能力を取得すると、『変転具』に属する能力が増えすぎて、スキルレベルが上がらんので、欲張らないのが鉄則。『強化』カードが通常より多く落ちるとはいえ、全部を満足いくまで強化するのは無理である。
酒の誘惑と戦いながら、99層までクリア。
私は能力的に勝てる勝てないがはっきりしている。『苦無』で傷がつけられない相手には絶対勝てないし、自分より速かったり立ち回りが上手い相手にもダメ。
ようするに力、耐久、体力、防御が低い。正面切って戦うことにも向いていないのだが、ソロなので仕方がない。
スメラギに「涼しい顔をしていないで、一度ぐらい血を吐きながら戦え!」のようなことを言われたことがあるが、能力的に無理なだけである。血を吐くような攻撃を食うようでは、確実に負ける。
熱血は耐久と体力が高い者に任せる。パーティーを組むのも面倒なので、ソロ専門。誰に迷惑をかけるわけでもないし、気楽でいい。
それでも協力者特典のレベルアップで、心許なかった基礎能力を少し補強した。中でも刀のために力には多めに。
基本は速さと【能力奪取】のスキルを使うための気力、苦無の強化だ。苦無は特務時代に大分強化したので、このダンジョンの攻略を始めた時は優先順位を下げた。
外のリトルコアの対処のおかげで、240層相当までは傷がつけられることを知っているからである。240層まで辿り着くことはソロでは無理だろうという判断もある。
が、黒猫のダイニングで300層の魔物を見せられたら強化せざるを得まい。300層の魔物のスキルが手に入れば、攻略は楽になる。
黒猫、強化カードが足りないぞ。
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