第83話 ドロップカード
2頭のビッグボアが縦横無尽に走る。
分かりやすくスキルを使った者目掛けて走っていってるだけなのだが、レンは実弾が惜しいのか、弾なしスキル対処のようだし、ユキは魔法だし。
いや、レンの気力消費の攻撃はわざとか? ユキに向かわないようにするためのようだな? そして、レンが轢かれそうになるとカズマがスキルを使う。
ツバキのレンかユキに向かうビッグボアを狙う位置取りを無効にする所業が3人の間で行われている。強さは十分なのに連携が最悪である。むしろ、ソロか2人で来た方が戦闘が早く終わる気がする。
たたらを踏むツバキが可哀想半分、コントか? という気が半分。いつもクールにスカしてるのに。
「カオスだな」
4人とも怪我はほとんどないが、気力を無駄に減らしているので、回復薬を投げる。
「スキルも無しに正確に当てますね。その迷いのない指先、美しい……」
「……」
他の条件はクリアだったのに、手を映さないことは却下された。手袋はしているのだが、これはこれでいいらしい。
いつも苦無を投げてるので、薬を当てるくらいは楽勝だ。
ツバキはビッグボアの移動方向を予測し最小限で攻撃を叩き込もうとしているし、他の3人は基本、ビッグボアからそれぞれを庇っている。
ビッグボアを見ていれば4人がだいたいどう動くか、もしくは動かないか分かるので、当てやすい。状況はカオスだが、規則的なのだ。
――戦闘は、ツバキが一度攻撃を当てた後、すぐに終了した。
本来ツバキとカズマがいれば倒せるリトルコアであるし、ユキの魔法とレンの攻撃も当たっていて生命を減らした状態だったので、4人の動きがなんとなく噛み合った後はあっという間だった。
ちなみにツバキとレンは仲がいい。ツバキはレンをけしかけ、カズマが困って右往左往するのを眺めるのが好きなようだが、ダンジョンでの戦闘は自分も右往左往するハメになっている様だ。
「お疲れ様! 20層クリアだね!」
いい笑顔のレン。
「お疲れ様でした」
ほっとした顔のユキ。
「おめでとうございます」
スズカが2人に祝いの言葉をかける。
「お疲れ。怪我はないよな?」
心配顔のカズマ。
ちょっとくらい怪我したほうがいいぞ。特にレン。
「お疲れ、カードの分配をしようか。配信用に手に入れたカードは個人カードを含めて公開してもらうが、そのまま自分のものにして構わない」
浮かんでいるリトルコアのドロップカードを背にツバキが言う。リトルコアが倒れた周囲には15枚のカードが、私の周囲に5枚のカードが浮いている。
見えないが、他の5人の周りにもそれぞれ5枚のカードが浮いているはずだ。
「はーい! まずここをショートカットする『鍵』! 討伐した証!」
ユキが嬉しそうに告げる。
自分の周囲に現れる、自分にしか見えない5枚のドロップカードは個人カードと呼ばれ、1度目の討伐では、リトルコアがいる部屋を無視できる扉の『鍵』が必ず入る。
リトルコアの討伐の証でもあるので、『鍵』を見えるように身につけて自慢する冒険者もいる。
『覚えの
「『青い薬草』『鉛』『銅』」
鍵と楔は口にするのを省略、5枚を開いて見せる。
リトルコアの討伐の参加人数が5人を超えると能力カードなど、レアなものの出る確率ががくっと下がる。私やスズカを入れて6人なので、このパーティーは最初からレア狙いではない。
そういうわけで、出たものは私も無難なもの。共通で触れられる15枚のカードは6人で分けるには数が半端だが、選ばれず残った3枚は売って活動資金としてプールすることで決着がついている。
どうしても欲しい場合は、ギルドへの売値と同じ額を払って買うこと、となっている。変に融通しあうとトラブルの元になるので、はっきりしているのはいいことだ。
この市のダンジョンで、欲しいものがあまりないので実はどうでもいいのだが。肉は買えるし。
順番にカードに触れてゆき、2枚のカードをもらう。『ビッグボアの牙』『猪の薬草』――『猪の薬草』は体力回復の効果。
同系統の『赤い薬草』よりちょっとだけ効果が高いが、私の能力的に生産素材としては使いづらい。『赤い薬草』より少しだけ高く売れるので、売り払おう。
今回『ビッグボアのコア』はカズマの手に。よかったな草取りマスター、出た中では一番高いぞ。労力にあってるかどうかは知らんが。
「――このような感じだがどうだ? こちらは、的確で安定した回復で助かった」
ツバキが私に顔を向けて聞いてくる。
レンたちはスズカを含めて4人で話している、私は初参加なので聞かれているのだろう。とりあえず回復役としては合格らしい。
だが、どうだと言われても困る。
「配信のジャンルはコントか?」
手フェチとどっちだ?
「……肩肘張らないダンジョンの攻略だ」
視線を逸らしてツバキ。
ものは言い様である。
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