第82話 ビッグボア
「さて。20層ボスに来てしまったが、レンは今度こそ突っ込んでいかないと約束できるかい?」
ツバキがレンに微笑みを向ける。
「う……。がんばる」
一瞬言葉に詰まるレン。
今か。早くから圧をかけておけばいいものを。そしてがんばらないとできないことなのか……。
「……」
途方に暮れたようなレンと目があった。
そしてそっと差し出されるリード。いや、ローブの肩から伸びている装飾の布だが。
「ユキのほうがいいだろう」
手をのばすことなく答える。
心情的にはカズマといいたいところだが、カズマとツバキは武器持ちなので除外。刀を握りながらではリードを引くことは困難だろう。
私も苦無を持っているが、この配信で使う予定はない。『運命の選択』で私に与えられた
で、ユキの武器は指輪だ。レンのリードは余裕で持てる。
「ユキも魔法を使うし?」
こてんと首を傾げ、見上げてくるレン。
「……」
目を逸らす私。
「すみません」
ユキが申し訳なさそうに言う。
謝り癖がついとるな? どうせユキが持っていても振り切られるんじゃないか? 力の問題ではなく、気合の問題で。
「う……っ。可愛い……俺が渡されたかった……」
草取りマスターが、喜びながらがっくりきている。
器用だな。
魔法職は――いや、魔法職に限らず、遠距離職は一番先に攻撃をする。味方に攻撃を当てんようまだ味方が離れているうちに、敵に向かってゆく味方のための牽制に。
要するに開戦開幕やることがある。というか、レンも本来ならその役なんだが。
スズカはずっとカメラを操作しているし、「やること」を考えればリードを持つのは私一択だ。回復は、誰かが怪我をした後に仕事が回ってくる。真面目な回復役は補助も兼ねて、色々するのだろうがパス。
認めたくはないが、立場的に私が適任である。
「決まったところで行こうか」
ツバキが言い、リトルコアへの扉に手をかける。
私は返事をしておらんのに決定した。業務外手当を要求したい気分だ。
市のダンジョンの20層リトルコアは、確かビッグボア。牛より少し大きいくらいのイノシシが2頭、こちらに気づいていつでも走りだせるよう体勢を低くしている。
「うぐ……っ」
とりあえずリードを引く仕事は果たした。カズマは心配そうに見るんじゃない、見る暇があるならいっそこの仕事を替われ。
「『凍てつく氷柱』!」
ビッグボアが走り出す寸前、ユキが魔法を使う。
氷系か。もう一属性あるかもしれんが、攻撃系は氷がメインなのだろう。氷系は攻撃力も高いが、凍結などで敵の動きを鈍らせる効果などがあり便利だ。
ただし、気力の消費は多め。イレイサーの方ならともかく、普通の『
氷柱は片方のビッグボアに当たり、ダメージ与え、足を鈍らせる。もう片方は勢いを変えぬまま、こちら――前に出ているカズマに突っ込んでくる。
諦めたのか、切り替えたのか、私にリードを握られたまま、銃を撃ち始めるレン。いや、狙え。勘で撃つな。
様子を見ているようで、ツバキとカズマは手を抜いている。さっさと仕留めて終えばいいものを。
まあ、この配信のダンジョン攻略は、おそらくレンとユキの育成でもあるのだろう。ツバキとカズマが参戦したら、レンとユキが何かする前に20層のリトルコアはすぐ終わる。
ビッグボアは走り出し、縦横無尽である。
「もう放していいだろうか?」
リードが短いのでお互い不便だ。
「おう! 突っ込むなよ、レン!」
「はーい!」
嬉しそうに
いや、何故移動する? そこはカズマを囮に安全なところから狙うんじゃないのか?
0距離とはいかないまでも、突っ込んでくるビッグボア相手にかなり近い距離で銃を使うレン。マタドールの様に避けながら。
「やはり狙うより、反射で撃った方が的確なのだな……」
ツバキが何か言っている。
「どうして心臓に悪いことするのかな……」
ユキが疲れた顔で言う。
「もう諦めてはどうだ? もうアレはああいう近接職だと思って。レンを囮に、ユキが魔法を使えばいいだろう」
レンのイレイサーとしての武器はグローブだし、ユキが開き直った方が簡単な気がする。幸いレンは、避けるのは上手いようだし。
「……」
困った様に見上げてくるユキ。
さすが双子、レンとよく似ている。
それはともかくとして、諦めたくない理由、言えないことがある、のか。言えないとうならばイレイサー関係か。
もしかしてユキのイレイサーとしての武器は、剣や斧とか? レンは性格的に遠距離職が無理そうだが、ユキはユキで性格的に近接職無理そうな気がするんだが。
大丈夫なのかイレイサー?
とりあえず、また魔法を使ったユキに気力の回復薬をぶつけておく。
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