第81話 過保護?
「レン! 突っ込む癖、本当なんとかしろ!」
慌ててレンの狙った魔物とは別の魔物との間に、体をねじ入れ一撃で斬り捨てるカズマ。
そこはレンに向かっていく魔物を普通に斬った方が早かった気がするのだが、わざわざ回り込んで盾になるのは何故だ、草取りマスター。ホームのダンジョンなのだから、
「ごめんなさい!」
いい笑顔で魔物に弾を叩き込むレン。
1匹目に入れたら他は目に入らないのか? あんなにでかいものなのに何故だ。あと、そこまで近づいたらいっそ殴ってもらった方がスッキリするのだが。
隊列は当初はカズマに続きレン、ユキ、ツバキ、そしてスズカ。私が最後尾だったのだが、今はレンに続きカズマ、取り残された4人という風情。
「見た目だけなら儚げ可憐な少女ですのに……」
斜め前のスズカが、レンにカメラを向けながら言う。
……。
ラベンダー色のゆるく波打つ髪、持つ者の視界が阻害されそうな胸、柔らかく体のラインに沿って流れる白いローブ。
黙って立っていれば庇護欲旺盛だか、容姿で自分でも
「集まる前にも注意はしたんですが、すみません」
ユキが困った顔で謝る。
「ユキのせいではない」
ツバキが薄く笑みを浮かべ言う。
刀も抜かず、ただ姿勢良く佇む。11層程度ではカズマ一人で事足りる。
戦闘スキルに恵まれてもリトルコアとの対峙に尻込むか、レベルアップでの運がどうしようもなく悪ければ20層が壁。10層のリトルコアはそう大きくないが、20層のリトルコアは人間より大きいことが多いので、萎縮してしまうようだ。
次の壁は30層。魔物が使ってくるスキルに対応できるようなら、さらに先に進める。ツバキたちは何層まで到達しているんだったか。まあ、ツバキとカズマで11層程度ならばどうとでもなるということだ。
「あ、豚発見!」
「あーっ! だから行くな!!」
カズマが大変そうだ。
「レンは訳あってダンジョンに入れぬ日々を送り、ようやく今望む日々をおくっている。レベルが上がりやすい時期でもあるね。しばらく浮かれる様子を愛でるのも悪くはない」
ツバキが二人を見ながら、レンのフォローだか事情説明だかをしている。おそらくレンと初めてダンジョン攻略を共にするのは私だけなので、私向けの言葉だろう。
放し飼い宣言に聞こえるが。
「ハーネスでもつけとけ」
「……カズマに持たせるか」
かすかに疲れを滲ませる声でツバキ。
なんでもないような顔をして実は困ってたのか。
魔物の姿はまばら、10層を越える者はそれなりにいる。特に今は10層のリトルコアが倒されているので、生産者の一部も来ているのではないだろうか。
「豚!」
「あーっ!!」
獲物が少ないせいで、動くモノを見るとずっとレンがこんな感じだ。もういっそさっさと20層に行ってしまった方がいいのではないだろうか。
「レンに今のうちに少し痛い思いをしてもらいたいのだが、カズマが張り切っているのと、レンも身体能力というか勘が鋭い」
ツバキ。
確かにレンは紙一重で躱すというか、危ないと思う寸前に躱す。そこに安心感は全くない。
「レンは昔から妙に運が良くて」
ユキが言う。
レンよりカズマの方がもらい事故しそうに見える。いっそカズマの方を止めた方が早い気がしてきた。
「この配信は何向けなんだ?」
「ツバキさんとカズマさんが出ていれば、それだけで数は稼げます」
私の疑問にスズカが答える。
答えなのか?
確かに真面目な攻略の方ですでに顔が売れていて、しかも顔が整っている。あまり表情を変えないツバキはスレンダー美女でしかもセーラー服っぽい防具とあって、女性にも人気がある。
カズマは豪快な性格と、筋肉質で大柄な見た目とで女性にモテるし、ああ在りたいと憧れる男も多いらしい。
姉に使われている姿と、今現在の様子を見る限り、豪快なのか疑問なのだが。だが、草取りマスターの行き届いた庭の手入れスキルには感心するし、私も目指したい。
「ツバキさんの手は綺麗ですし、カズマさんの手も大きくて節が目立って男らしくて。ユキさんとレンさんの手もなかなかです。それにオオツキさんの手が加われば……っ」
手フェチ向けか!!!!!!
ちなみにスズカの発言は録音されない。黒子に徹するためとかなんとか言っていたが、おそらくカットインしてくる変態主張を編集で消すのが面倒だからだな?
発言もだが、画面外ではぁはぁ荒い呼吸が聞こえてくる実況なんて嫌だ。もちろん緊迫感を演出しているわけではない。
最短で19層。誰も大した怪我をしておらんが、レンは実弾の使用を抑えているのか、気力が減っていて、カズマも無駄に気力を消耗している模様。
とりあえず気力を回復させる薬を投げる。レンに投げつける勢いが少し強かったかもしれんが、気のせいである。
できればスズカに投げつけるチャンスがないか窺っている私だ。
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