第100話 知らないこと
とりあえずテンコのダンジョン攻略は、イレイサーたちの戦闘がもう少し危なげなくなってから、ということになった。
「まあ、ツバキたちに早く強くなりたいと真面目に伝えるところからだな。強くなりたい理由や期限があることを正直に伝えるか、曖昧にして伝えるかは自由だが、
あれらは幼馴染同士の遊びの延長線上、もう少し実践を積み重ね、先に進めばまた違うのかもしれんが、なまじツバキとカズマに余裕があるせいで20層でも遊びのままだ。その分、到達速度も早かったが。
黒猫に告げられた期限さえなければ、レンもユキもダンジョンに入ったばかりではしゃいでいるのは普通だろう。
テンコ的にはさっさと自分のダンジョンの攻略をしたいだろうし、期限までに対象よりイレイサーが強くならんと困るのだろうが。
対象についてはどうとでもなるが、私もテンコに付与アイテムを作って欲しいので、ダンジョンの攻略を進めてほしい。
「うーん」
「ツバキとカズマには、青葉兄妹のストーカーの事は最初に相談しているので、アレより早く強くなりたいという方向で話してみます」
「ああ、それなら!」
気乗りしない顔で唸っていたレンが、ユキの言葉にほっとした顔に変わる。
「あら、ストーカーの話はしてるのね」
テンコがイレイサーたちを見る。
「ええ。黒猫が言っていた、レンから『奪う』ことが『そばにいなければできないこと』だとしたら、そのうち絶対来るでしょうし」
「外でもダンジョンの中でも、そばにいると迷惑かけるかもしれないしね!」
ユキとレンが言う。
……何か初聞きのことがあるような?
「『奪う』?」
「黒猫が言うには、オレから何かを奪って青葉兄妹が強くなってたんだって! で、今までオレがずっと『化身』になれなかったのもそのせいだって!」
聞き返すとレンが半分怒りながら答えてくる。
「ただのストーカーではなかったのか」
レンの様子からして、ふんわりしたことしかわかっていないな? 黒猫がわざと濁したのか、聞かれなかったから答えなかったのか、どっちだかは知らんが。
「青葉の親はダンジョン素材を研究する大手会社、ダンジョン&ダイブの研究員です。よからぬことを主導していたのは年齢的にそちらでしょう。母も同じ会社でしたので、僕たちが今住んでいる場所なんて最初から見当がついていても可笑しくないんです」
青葉の親とイレイサーたちの親の勤め先も、青葉の通うダンジョンの持ち主も同じなので、企業ぐるみでやらかしてるのだろうとは思っていた。が、ダンジョンの禁忌に、レンが関わっている?
なるほど。ここでない場所に隠れたとしても、居場所の特定など簡単だろうし、企業対個人ならば、配信で多くの人を巻き込んでおいた方が安全な気はする。
「誘拐されるなよ? ストーカー以外の人間にも」
『何かを奪い続ける』ことが目的ならば、殺されることはなさそうだが。殺される以外でも最悪なことは色々ある。
黒猫、途中でイレイサーが廃人になった場合はどういうカウントになるんだ?
「お祖父ちゃんとツバキたちに、町に見慣れない人が入ってきたら、教えてもらえるように頼んである。田舎の情報網と、人気のダンジョン攻略者の人望!」
レンが笑う。
車の長距離移動はコアの問題で、利用できる道が限られる。輸送以外で長距離の移動をする車は少ないので目立つと言えば目立つ。
「流石にずっと隠れて生活するわけにもいきませんし、隠れていて人知れず攫われるのも不安ですから……」
ユキが困ったように笑う。
「今からでも、政府の助けを求めた方がいいんじゃないかしら?」
テンコが言う。
黒猫が言っていた政府のサポート機関。……まあ、イレイサーが役にたつ間は? 半分お役所仕事だが。
「国の機関にはあまりいい印象がないんで、ちょっと……」
「『化身』になれなかったことで、色々実験動物みたいな扱いされたからね! なんかダンジョン&ダイブの研究が良さそうって思ったら、手のひら返しそう」
そういう部署もあるな。過去のダンジョン崩落の件があるので、内部でもおおっぴらではないが。
「住んでいる周囲は安全なの?」
「オレたちが子供の頃から知ってる人ばっかりだよ! 一人だけ知らない人が越してきてたけど」
テンコの問いにレンが答える。
「僕たちが幾度か他の場所に引っ越ししている間に、越して来た人なので少し疑いましたが……」
「スローライフに憧れて越してきたけど、田舎暮らしの現実に打ちのめされてる人!」
私か!
「あの人がダンジョン&ダイブの関係者だったらちょっと可哀想ですね。蜘蛛とか虫とか苦手そうなのに……」
私だな!?
同情はいらん! 蜘蛛自体は益虫なので構わんが、顔の位置に巣を張るのは許せん。苦手なのは葉物に集ったアブラムシだ。外で見る分には憎しみしかないが、汁物に浮いていたら心の中で悲鳴を上げるのは否定せん。
あれを撲滅してくれたら、攻略のサポートでもなんでもしてやるぞ!
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