第99話 ドロップ
20層のひどいリトルコア戦を終える。
「どうでしょう?」
ユキが聞いてくる。
「世の中のダンジョン攻略の配信者と比べて、
「だろう?」
素晴らしくいい笑顔を向けてくるレン。
「本音は?」
テンコが横から聞いてくる。
「無謀で無鉄砲、無駄撃ち無計画。ユキを危険にさらしている」
「えっ! ユキを……」
レンが絶句する。
おそらく死に戻りできるせいもあって、レンは自分の命を軽く考えている――が、ユキは違う。様子から見て、死ぬのも痛みも避けたいタイプ。レンはユキに痛いことはさせたくない。
「命を」ではなく「ユキを」と言った方がよく効くようだ。
ユキよりレンの方が道中で見た身体能力的にレベルが上がっている。コイツ、絶対ソロで死に戻っているだろう? それなりに痛いはずなんだがな。
まあ、深い層から戻るのはとても面倒くさいので気持ちはわかる。一瞬で一部屋目に戻れるのは手間がない。
「もう少し周りを見て、丁寧に戦え。余裕があるレベル帯での戦いは、深い層で魔物を倒すための練習だ」
これはサービス。
レンへというか、どちらかというと黒猫へのだが。
「う。がんばる」
レンが言う。
「……よかった」
ユキがホッとした顔をする。
「ユキは慎重すぎて出が遅い。出遅れているのにレンを庇おうと距離を詰めるせいで間が悪い」
邪魔だ。
……とまでは言わずに一応言葉を止める。
「う……。すみません」
自覚があるのかバツの悪そうな顔をするユキ。
「同意見でよかった。2人を見ていると、こっちの心臓にも悪いのよ」
「本音か?」
念押しするようにテンコに聞き返す私。
心配するような間柄だったろうか? テンコにはもっとドライな印象を持っているのだが。
「これに命を預けて深層を目指すかと思うと……」
袖で口元を隠して顔を逸らすテンコ。
……ダンジョンをもらっても、生産者は攻略が大変である。引きこもって生産をするには便利だが。
「ううう」
「すみません」
小さくなる2人。
「ダンジョンの攻略を始めて日が浅いのだろう? 敵の攻撃を受けても大したダメージがない場合にやりがちなことだ」
主に『運命の選択』をしたばかりの子供がだが。
ああ。
『レンは『化身』になると、少し思考が幼くなるようです。そしてイレイサーの『化身』になると、生身での記憶が曖昧になるようです』
――だったな。『
「子供返りか」
落ち着いているというか、おとなしいので気づかなかったが、冷静に見るとユキも。
というか、付き合いがなさすぎて気づかん。
「……それ、大人がなるなんて聞かないわよ?」
「子供がなるものではなく、ダンジョンに入りたてがなるもののようだぞ」
私の呟きを拾ったテンコに返す。
長くても半年ほどで落ち着くので、ダンジョンに入りたてがテンション上がっているね、で済んでしまう――なにせ入りたては大抵子供だし――現象なのだが。
「ダンジョンによる『動くものを殺す罪悪感の軽減効果』ですね」
ユキも知っているようだ。というか、レンのために調べたのだろう。
「え? オレ?」
レンが目を白黒させている。
大丈夫、ユキとセットでだと思うぞ。
子供のように無邪気に、魔物を殺す。子供返りが終わった頃には、魔物を倒すことに慣れている。
「じゃあ、落ち着くのを少し待てばいいのね。5年の期間では、3ヶ月でも長いこと」
テンコため息をつく。
テンコの言う3ヶ月は大体子供返りが治る平均である。
……が、イレイサーになってから発症したものは、治るかどうかがまず半々。罪悪感なく対象を殺すために、わざとそうなっているのだろうと言われる。
言われているのが政府の某所なので、口にできんのだが。
「治ろうが治らまいが、戦闘の仕方は覚えられる。ツバキやカズマがどう戦っているか、見せてもらったらどうだ?」
そっと2人におしつける。
今まで一緒にいて、見てなかった訳ではないと思うが、戦闘技術を盗むつもりで観察して欲しいところ。ツバキとカズマ2人とも初心者2人に戦闘させて、フォローに回っていたようなところもあるので、次回はガッツリ戦闘をしてもらうといい。
「うん」
「はい」
素直でよろしい。
「私はどうも人付き合いが苦手で、物言いがキツくなる。最初に謝っておいて許されるものではないが――すまんな」
本当に何を話していいか間がもたん、多分相手に興味がないせいなんだが。
いや、興味を持ったところで、仕事や話すべきこと以外は何を話題にしていいかわからんな?
がんばれ、私!
「そういえば、テンコのダンジョンはリトルコアのドロップは魔法石系が多いのか?」
先ほどのリトルコアのドロップを見る限り、聞くまでもないのだが。話題をですね?
「『協力者』のダンジョン偶数層は、『イレイサー』の必要とするもの、『イレイサー』のダンジョンでドロップするもの、が優先だもの」
テンコが分かっているでしょう? という雰囲気で話出す。
「だからリトルコアは、ユキの望んだ付与のための素材を中心にドロップするわ。あとは植物系のドロップね」
私のダンジョンのスライム、薬の素材や鉱物――弾丸の素材――も出るが、割とカオスなんだが。あれに規則性があったとは。酒が出たこともあるんでいいんだが。
「ちょっと動物を狩り続ける自信がなかったので、ダンジョンの魔物は植物系にしてもらいました」
恥ずかしそうに答えるユキ。
「オレは強いやつ色々!!」
元気よく答えるレン。
私のスライムのドロップがカオスなのは貴様のせいか!!
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