第98話 テンコのダンジョン

「がんばる!」

レンが張り切っている。


 そしてその様子を見て、テンコの狐耳が若干倒れている。


 不安が膨れるのだが、いったい何が? ……大体予想は出来るが、そんなにひどいのか?


「……頑張ります」

こちらはユキ。


 ニュアンス的にダンジョン攻略より「レンの制御を頑張る」と聞こえる。


 不安を覚えつつ、テンコ側のダンジョンに移動。テンコのダンジョンは華やかだ。


 造りは一緒なのだが、床には畳と一部緋毛氈、帯や反物が掛けられ、花まで生けられている。


「また増えてる?」

「一段と華やかですね」

レンとユキは何度か来ているらしい反応。


 この二人に手伝ってもらうダンジョン……。いや、生産職であるのならば、リトルコアを一人で超えるのは至難か。


「せっかく飾っても布が傷まない空間なのよ? しまっておくのはもったいないでしょう」


 そう言いながら、棚からケースを持ち出し、私の渡したターフェアイトを納めるテンコ。


 ガラスの蓋越しに、すでに裸石ルースがいくつか並んでいるのが見える。おそらく付与を頼まれている石なのだろう。


「ではさっそくお願いしようかしら?」

私の渡した布をしまい、振り返りながら言うテンコ。


「はーい」

「はい」

元気よく返事をするレンと、ユキ。


 そして私に渡されるリード。


「本当に買ったのか……」

リードの先はレンの背中、ハーネスである。


 絵面的にどうなのか。なんで私は踏まされたり、リードを持たされたりするのだろうか? 首輪でないだけマシか?


「10層のリトルコアは復活してるかな?」

自分にハーネスがついていることに頓着ない様子のレン。


「……日数的に復活しているわ。そこへ至るまでの敵はいないはずよ」

レンに答えつつ、視線を私に向けてくるテンコ。


「替わるか?」

リードを差し出す私。


「いいえ」

ふいっと体ごとダンジョン通路へと向き直り、拒否の姿勢を示すテンコ。


 つっこみどころがすでに満載なのだが、心の中でつっこむだけの人種だな、テンコ。私もだが。


 どう考えても関わりたくない様子である。貴様がダンジョンの攻略をこの二人に依頼したのだからな? 責任を持て。


 機嫌良さげなレンと、その隣を歩くユキ。間にテンコがいて、リードを持つ私は最後尾。テンコの言った通り、魔物は現れない。


 犬の散歩かな?


 テンコのダンジョンも、基本的な通路の作りは私の方と一緒だ。床はほぼ平ら、左右の壁は岩壁で、時々平らな天井もあるが、基本左右の壁がくっついたような――岩の裂け目のような通路。


 1層ごとの広さも同じくらいのようで、テンコの案内ですぐにリトルコアの元に辿り着いた。


 ――5層のリトルコアはおらんのだろうな。私のダンジョンも最初はいなかったのだから、いないほうが通常運転だ。


「ついたー! グローブよーし! 銃もおっけー!」

大きな扉の前で、身振りを加えて装備の確認をするレン。


「僕も……」

そう言って手の中に武器を出すユキ。


 漆黒の槍。……『化身』は指輪で魔法、『イレイサーの化身』は槍か。


「開けるわ」

扉に手をつくテンコに倣い、全員が大きな扉に触れる。


 リトルコアのいる部屋の扉は多くが石だ。厚みもあり、とても人の力では開けられそうもないのだが、触れるだけで勝手に開く。


 開いたと認識したが最後、触れた者はリトルコアの部屋の中にいる。背中には固く閉じられた扉――どうも短い転移が発動するらしい。


 この辺の仕組みはよくわからんが、必ず同じことが起きるので問題ない。


 テンコのダンジョン、10層リトルコアはスライム。


「テンコの方もスライムなのか」

色がついている。


 半透明でメロンソーダみたいな色をしたスライム。よくいるタイプなのだが、同じ『協力者』のダンジョンなのに色が普通だ。


「いっくぞ〜っ!」

レンが飛び出そうとしたのでリードを軽く引く。


 飛び出してゆくレン。


「えええっ! レン! 待って!」

慌てて追いかけるユキ。


「……外の物か?」

「そのようね……」

手に残ったリードを見る私。


 リードの先は金具がふき飛んで地面に落ちている。丈夫に作られてはいても外の物、20層リトルコアをクリアできる『化身』の勢いに耐えられるわけもない。


 ユキに頑張ってもらおう。


 レンはスライムに飛びかかっていって、0距離射撃よりマシな距離から射撃し、そのままの勢いで殴りにかかる。


 ユキはレンの方に伸びるスライムを、槍を突き出し払い、寄せ付けない。


 攻撃の衝撃に震えるスライム。


「力は足りているのだから、核を狙えばすぐ終わるのでは?」

言いながら、とりあえず反撃をくらったレンに回復薬を投げる。


 力が不足していれば、絡め取られ、弾き返されているはずだが、レンの弾丸はスライムの体に飲み込まれ、体内で速度を遅くし、その後ぽいっと押し出されて排出されている。


 すぐ戻ってしまうが、体表を覆う膜をユキの槍は突き破っている。


 レンの打撃グローブとの相性は良くないが、それとて連打による衝撃でスライムの形を変え、核のそばまで迫っている。


「私に言わず、二人に言ってあげてちょうだい」

ため息をつきそうな顔のテンコ。


「よーし! 撃破ーーーー!!!」


 言う前に力技で倒したらしい。


 まあ、ツバキとカズマのフォローもあったが、市のダンジョンの20層を普通の『化身』で突破しとるからな。イレイサーの分、基礎能力が上乗せされている今の二人には、楽勝だろう。


 楽勝な故に学習しないまま進んでいる気がするが。黒猫が用意した50層リトルコアの能力カードは手に入れたのだろうか? 


 イレイサーのダンジョンは死に戻りができると聞くが、いったい普段どんな攻略をしているのか。


 まさか力技で行って、死に戻っては突撃してるわけではない、はず?

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