第129話 宝箱
牛の扱いに悩みつつ、86層スライム。
ここのスライムはカタツムリのように遅い。遅いが、這った場所がどうやらダメージ床と化す。床だけでなく壁や天井もなのだが、歩ける床面積がどんどん狭くなる。
ダンジョンでたまにあるタイムアタック的な層である。進めなくなる原因は溶岩だったり、毒の草原だったりさまざまだが、やることは進める床が残っているうちに、次層への階段を見つけること。そして、同じ層のどこかに宝箱が必ずある。
一度くらい宝箱を開けてみたい気もする。
魔物が原因である場合、手前に出る魔物を倒すと、道が塞がるまでの時間が長くなるらしいが、大抵倒すことが面倒というか時間がかかるようだ。
現にここのスライムもあまりダメージが通らない。
例えるならばどんな攻撃も与えられるダメージは1、どうやら手数で倒すしかない魔物のようだ。マダラの『棘』はどうだろうか? いや、マダラをドロップしただけで、マダラと似た魔物というわけではないのだが。
やはり手数の問題だったらしく、一度で幾つもの棘が刺さるマダラの『棘』が効果的。楽に倒す方法はわかったが、今回は諦めよう。
進む通路の当たり外れは、進んでみないと分からないのだ。宝箱はこの層に入るたび場所が変わるらしいので、マップも無効。運によって、宝箱のある場所に辿り着くまでの時間が変わる。
マダラの『棘』は単純に考えてここに出るスライムの三分の一しか量がない。宝箱どころか階段を探しているうちに尽きる可能性も高い。
階段を探す間に宝箱も見つかったら幸運だと思う方がいい。深追いは禁物である。
そう決めて走る。遭うスライム全てを相手にしていると、マダラの『棘』が前半で足りなくなるだろうし、時間がかかる。避けやすいスライムは避け、狙いやすいスライムを倒し、間引いてゆく。
行き止まりを1度、遠回りを2度して階段に到着。マダラの『棘』は残っており、階段周辺の通路もまだ確保されている。
マップで自分の位置を確認、マダラの『棘』分だけ探索を続けることにする。宝箱の中身は値段的な価値に当たりはずれはあるものの、珍しいものが出る。
酒や食材のドロップ以外で心が弾むのは珍しい。年を重ねるとあまり心が動かなくなる――いや、もともとこんなものだな?
通路を進み、スライムを倒す。マップを見ながら、なるべく行き止まりそうな通路へ。
宝箱は通路のどん詰まりにあるイメージである。少なくとも私のイメージはそうだ。が、ここの宝箱は通路の途中に鎮座していた。
こんな道の真ん中に? ミミックじゃないだろうな?
ミミックは宝箱に「擬態」する魔物。が、ミミックにしては小さい。100層前の宝箱としては妥当なサイズではある。
話に聞く限り、入っているものにかかわらず、ダンジョンごとに箱の大きさ――100層以降が少し大きくなるようだが――や装飾は一律らしい。
中身はカードであったり、現物であったり。大抵金貨と時々少量の宝石の現物が伴う。
そもそも黒くない時点で魔物ではないな。そう思いつつも、少し距離をとりつつ苦無の先で金具を跳ね上げるようにして宝箱を開く。
あっさり蓋が開き、動き出す様子もない。そして金貨が見えるのでよし!
安心して中身を確認すると、金貨の他に真珠のネックレス、ルビーの指輪というベタなものが見える。
真珠に傷がつくのではないかと思うのだが、もともとこの状態で出現するものなので、
かなり慎重さを要する気がするが、私の場合は【収納】一択なので問題ない。そして、真ん中あたりにあったメインはカード。
……。
……絨毯? 房のついた黒い長方形の絵、『絨毯』の文字。絨毯だな?
時々家具そのものも出るが、家具用の素材を中心にドロップするダンジョンは福岡をはじめ6県判明している。絨毯もでるのか。
確かに珍しいが……。玄関にでも敷くか?
いや待て。説明文がある――どうやら、上に乗っていると生命が回復するらしい。ただし、回復はかなり少量ずつとのこと。
深層攻略中、寝ている間の回復用などで需要はありそうか? 戦闘ごとに必ずダメージを負うようなスタイルの攻略者も多い。主にパーティーで、前衛後衛が別れ、前衛が魔物の攻撃を引き受ける場合などだ。
それに、稀にだが生命を減らしていた方が、攻撃力やスキルの効果が上がる能力というものも存在する。
私の場合、戦い方とソロのせいで、ほぼ生命を減らすことはないというか、減らしたらお終いというか。
次回は対応できるようなことで負った怪我でない限り、生命を減らした場合は先に進まず諦めることを選ぶ。そして怪我は薬で治す。
気力か体力の回復であったら大歓迎だったのだが、次回に期待しよう。宝箱の中身は毎回変わるし、同じところには出ない上、復活時期もランダムなのだが、このダンジョンに入るのは私だけである。回っていればそのうちまた遭遇するだろう。
……81層以降、全部回る場所が多くないか?
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