第128話 牛

 84層はスライム。


 酒を出すこともあるので、新天地の偶数層も楽しみにしている。が、今回は薬の素材。私の手に負えない素材である。


 手に入れたこれらの素材を売って、薬を買うのでもいいか。割高だが時間的節約にはなる。


 その決定はもう少しイレイサーが育った後となるので、84層ここは殲滅せずに階段を見つけたら下へ進む。85層はリトルコアが出るので、やや面倒だ。


 スライム以外のリトルコアを望んだのは私だ。リトルコアがスライムだらけというのも単調になるので願ったのだが、交互は交互でも末尾5層に追加されるとは思わなかった。


 ドロップカードは楽しみにしていたが、実際は封入される数が個人用としては多すぎて扱いに困ることの方が多い。むしろスライムのリトルコアから薬と弾丸の素材が大量に手に入るのが便利なように感じてきた。


 いざ生産となると、【正確】の特性上、慣れるまで作らねばならず、大量に素材が必要になるのだ。


 薬や弾丸の種類について、イレイサーが細かいことを言ってこないので、様々な素材を揃える必要がないことが大きい。素材を揃えるため道中のスライムを倒すなどのノルマがないので、気兼ねなくスルーできる。


 道中の牛というか牛のような魔物の角を躱し、日本刀を振るう。予想はしていたがドロップカードに牛の、丸々一頭の牛の絵が描いてあり、少し途方にくれる。


 なお、『キアニーナ』『ファッソーネ』『ロマニョーラ』など、呪文のような文字も一緒なので、海外の牛なのだろう。『ODA』と『HAYASE』のシェフには喜ばれそうである。


 ……牛は2種類いたようで、ヨーグルトも落とした。ついでに『火牛かぎゅう』『地牛ちぎゅう』というカードも3枚ほど。『火炎鹿』の時と同じ魔物丸ごとドロップの気配がする。


 ダンジョン内で解体加工すれば、肉も皮素材も取れるのか……。もう諦めて、鷹見さんに相談するか。魔物肉も皮も普通のダンジョンでドロップするものであるし、問題はないようなあるような。


 銀色の苦無のような高速で飛んでくる魔物からは、『鵡川むかわのシシャモ』『釧路のシシャモ』『ノルウェーのカラフトシシャモ』。帰って晩酌がしたいのだが、だめだろうか。


 80層以降に来るために準備をしたのだ、ダメだろう。


 一歩二歩進むと4、5匹のシシャモが飛んでくる。形は別にシシャモではないのだが、小さくて銀色の金属質のものだ。これは日本刀でさばく。力の入れ方、返し――日本刀の扱いもだいぶ思い出してきた、ような気がする。


 最初は『迦具夜』のつもり、自身も付与ありのつもりで振るってひどい目にあったが。もし装備も能力も戻ったとして、その時も横着せずに柔らかいところや継ぎ目を狙い、太刀筋を乱さんよう振るうことにしよう。


 この層にはまだどのような魔物かわからないリトルコアが出るので、後方くらいは安全を確保しておきたい。修練も兼ねて、脇道を覗きながらなるべく多くを倒す。

 

 そうして遭遇した85層のリトルコアは、ひと組の蝶。


 片方は銀色の鱗粉の帯を引く硬質なはね、片方は金色の鱗粉の帯を引く花粉が集まったような翅を持つ。


 鱗粉はおそらく状態異常を引き起こす毒、銀色の方は蝶の癖に速い。狭い洞穴のような通路いっぱいに広がる鱗粉に触れぬよう、後ろに飛びながら苦無を投げる。


 金色が蝶だというのに糸を吐く。――べたついていようと止められるほど苦無に威力がないわけではない。あっさり糸を破って蝶の体に届く。


 嫌な鳴き声を上げながらバタつく蝶、そして撒き散らされる鱗粉。また後ろに飛ぶ私。道中の魔物を面倒がらずに倒してきて正解である。


 風の魔法があれば便利そうだが、それに相当する魔物のスキルカードはあったろうか? 54層のスライムの魔法がある。


 状態異常さえくらわなければ弱いという魔物は多く、このリトルコアも苦無と風魔法で倒すことが可能だった。流石に生命力が多く、単調な作業をしばらく続けたが。


 リトルコアの名前は『紋月白蝶もんつきしろちょう』『紋月黄蝶もんつききちょう』。ドロップカードに『紋月白蝶の銀糸』『紋月黄蝶の錦糸』があった。鱗粉もでているが、何に使うか謎。


 リトルコアのコアやら、だいたい固定で出るものの他に、落としたのはキャベツである。『信州のキャベツ』『岩手のキャベツ』『横須賀のキャベツ』『鹿嶋のキャベツ』、487個から878個の表示が付いている。


 キャベツを消費する店というと――。美味いとんかつ屋を鷹見さんは知っているだろうか。

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