第127話 83層

 ずっと回っていたいが魔物の数には限りがあり、82層終了。


 テンションが上がっていて、気力体力ともに削れ気味なことに周り終えた今気づいた。戦闘に影響があるほどではないが、83層に降りる階段前で休憩。


 【収納】からタンブラーを出して、コーヒーを飲む。コーヒーを淹れる道具を一式持ち込みたいところだが、流石に【収納】を圧迫するので自重している。


 コーヒー豆は高いが、ダンジョン内で過ごす気分転換にいい。大事にしすぎて、古くなると味が落ちる。さすがに酒を飲むわけにもいかんし。


 手元に本もなければタブレットもない。焚き火をするほど長くとどまるわけでもないので、なんとなく手持ち無沙汰になる時間。


 『回復薬』は飲んだ。薬で上限いっぱいまで回復すると、次に飲んだ時に少し減った状態までしか回復しなくなる。


 まあ、上級の薬ならばそんなことはないのだが。


 自作は中級程度まで。一応、上級の薬も購入して保険で持ってはいるが、使用期限があることだし、少量しか買っていない。


 戦闘中でもない限り、残りわずかの減りは自然回復をさせたほうがいい。今もわざと上限まで少し足りない回復具合の、自作の薬を選んで回復したのだ。


 なので自然回復待ちはしょうがないのだが、少々暇である。今後の計画でも考えようか。計画といっても気ままなものだが。


 まず、このダンジョン。


 100層へは、ツツジさんとアイラさんに依頼している装備ができてからが望ましい。


 『運命の選択』で入手したコートはともかく、他の防具は一般的――ツツジさんとアイラさんの作なので、市のダンジョンで選べる中ではいいものだが、そもそも深層へ行くための装備ができるまでの繋ぎのようなもの。


 『迦具夜』共々特務の防具を、忘れたフリして持ち出せばよかったろうか。返却したリトルコアの勲章分くらいは、協力者としてのレベルアップで補強されそうだが、防御がこころもとない現在。


 『銀の腕輪』の能力、【隠形】があるが、こちらは攻撃をくわえると解けてしまう。ドロップ目当てなので当然魔物は倒す。一撃で仕留められるのならともかく、ダンジョンのソロ攻略にはあまり向いていない。


 二人には素材の供給を増やして、生産者のスキルを上げてもらおう。鷹見さんが市のダンジョンに留めておきたいだけあって、二人とも政府からもスカウトが来るくらいの実力者である。


 50層の火炎鹿の素材も珍しさに喜ばれたが、ツツジさんは扱えないとは一言も言わなかった。アイラさんも同じく。


 問題は、仕事の依頼が詰まっていてなかなか順番が回ってこないこと。優先されていた特務時代とは違う。優先というか、滅多に大破させないので手入れ時間が短かったとも言う。


 暗殺や姿を隠しての支援任務で大破させていたらアホだしな。私の用途的にダンジョン攻略のほうで無茶振りされたこともなかったので。


 布はスライムが時々落とすのだが、食材メインにドロップするせいで革や毛糸系で提供できるものが少ない。


 確保したい素材が色々あって、ままならないものである。全部素材を自前で揃えようとしているのが悪いのだが。


 イレイサーの方は、冷静に考えれば「五年で対象を倒せるところまで強くなれ」だろう。100層に行っている対象は、一般的に考えてレベルアップも頭打ち、相手が止まっているのならば追いつくどころか、イレイサーの能力的に追い越すことも可能。


 私が色々急いていただけで、イレイサーの進行度が遅いというわけではないのだ。さっさと進めろとはつい思うが。


 さて、回復した。


 83層の魔物は、軋むような大きな鳴き声をあげ、棘を飛ばしてくる中空を泳ぐ魚、同じくいななくような声と共に突進してくる魔物。天井から音を立てずに伸びてくる蔦の魔物。


 偶然か否か、三匹が連携するような相手だ。二匹を避けることに集中していると、天井から蔦が忍び寄る。


 先に苦無で天井の敵を倒し、他を処理する。絶え間なく棘を飛ばす魚はこちらを認識して飛ばし始める前に苦無で能力を奪い、突進してきた魔物は刀で斬る。


 能力を奪い損ね、棘と突進が重なると斬ることより避けることを優先するしかなく、ちょっと面倒だ。【幻影回避】を使ってはいるが、棘の飛んでくる範囲が広い。


 棘を飛ばす能力発動のタイミングを見極めるのが難しい。こちらを認識する前に倒してしまえばいいのだが、能力奪取のタイミングを図っておくことは、私の戦い方では重要なことだ。


 ドロップは『北海道のマダラ』『宮城の真鱈』『アラスカのギンダラ』『北海道のスケトウダラ』、『チェダー』『ゴーダ』『エダム』、『福岡の地酒』『北海道の地酒』『栃木の地酒』。


 ここも隈なく回ることが決定した。


 『マダラ』には白子を持つものもあるだろうか、日本酒を飲みながらポン酢で食いたい。『スケトウダラ』の卵は確かタラコになる。作り方を調べねば……っ!

 

 などと思っていたら、『虎杖浜こじょうはまのたらこ』『福岡の明太子』がドロップした。レアらしく、ドロップ数は少ないが現物ドロップである。


 初めての層を隅々まで回ったせいで、すでに昼だ。


 クロワッサンのような絵のカードを【開封】。……チョコレート入りクロワッサンだった。絵で見分けは無理である。


 無難そうな『カマンベール』チーズと、『長野の生ハム』を【開封】。日本酒と明太子を【開封】してはだめだろうか……。


 弁当ではないことの弊害、誘惑がひどいが我慢する。

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