第126話 82層

 毎度の赤黒いモノが水のように床に広がっている。


 さて、この形状のスライムは何種かあるのでこれだけでは、どんなスライムかわからない。


 観察しているともそりと動いて盛り上がり、人の形をとろうとする。赤黒いスライムに色がついてゆく。


 これはもしかして冒険者の姿を写してパーティーを混乱させるという……? 相手がソロでは意味がないな?


 姿を写し盗る魔物は何種類かいる。その中でも『ストーカー』と呼ばれるリトルコアが有名どころ。何で有名かというと、氾濫を起こした時に人と入れ替わって外をうろつくせいで大惨事を起こしたことがあるのだ。


 一拍遅れて私と同じ構えをとるスライム。


 なんというか、姿を写す系統の魔物は人数が多い乱戦時が厄介なだけである。しかもこちらが先手を取れる場合が多い。


 そういうわけで80層のスライム終了。


 基礎能力なども揃いになっていたのかもしれんが、私は腕力でなく速さが本分であるし、こちらが先手ならば断然有利なのである。


 ……偶数層は同じ協力者であるテンコのダンジョンと魔物が共通している。テンコのダンジョンで80層の攻略をするイレイサーたちを思い浮かべて、ちょっと頭痛を感じた。絶対近づかないようにしよう。


 ドロップは『緋色の毒草』『南天玉』『青虎耳草』『黄の貢菊花』『哲学草』『白雲の翠蓬』――その他も見事に薬の材料。どんどん高ランク素材が溜まってゆく。


 生産の進捗度についてはテンコのほうが上だな。私の場合は【能力】が足りていないので、果たして向上するのかどうか。


 【正確】で手順を真似られても、素材から効果を引き出すことが難しい。ダンジョンの深い層に行けば行くほど、ドロップ品にダンジョンの影響が濃くなる。


 まだイレイサーに上級薬どころか、中級薬も希望されていないが、【生産】と【正確】でなんとかするのは流石に限界を感じている。


 気を取り直して81層。


 『若狭のグジ』『豊後の白甘鯛』『輪島の甘鯛』、ソーセージ類『ヴァイスヴルスト』『ビアヴルスト』『レバーケーゼ』、 『金沢の春菊』『小倉の大葉春菊』『大阪の春菊』『千葉の春菊』。『焙煎ごま油』『低温焙煎ごま油』『太白ごま油』――天ぷらを揚げろということだな?


 魔物は赤黒い猿のようなもの。【スキル奪取】で手に入れたのは、【盲目】【沈黙】【耳鳴り】のスキル。見猿、言わ猿、聞か猿? 


 80層のドロップの『南天玉』は声を戻すための薬の素材、『青虎耳草』は耳が入っているのでおそらく耳の異常を治す薬の素材。目の異常を治す薬の素材も混ざってそうだ。


 猿の使うスキルにかかるのは鬱陶しそうだ。感覚剥奪阻害系のスキルは魔物相手では効果が怪しいので不要なのだが、全部猿が使う前に奪ってしまおう。


 なお、魔物相手に効果がないのは、そもそも目口耳がないモノが多いからである。スライム相手に目潰ししてもな……。


 82層スライム。


 通常より小さく拳大のものが5、6匹くっついていて泡のように見える形状。くっついてはいるが別々な個体ではあるようで、それぞれ魔法と酸を使ってくる。


 大ダメージを食らうようなものではないのだが、数にものをいわせて絶え間なくスキルを使ってくるため、近づくことが難しい。


 私には『苦無』があるものの、くっついた5、6匹全てに攻撃を当てねばならず、だいぶ面倒である。魔法職向けの魔物だな。


 ……。


 『新潟の地ビール』『高知の地ビール』『沖縄の地ビール』、『デンマークのアクアビット』『スウェーデンのアクアビット』『ノルウェーのアクアビット』『ドイツのアクアビット』、『ボルドーのワイン』『ブルゴーニュのワイン』『シャンパーニュのワイン』『山梨のワイン』――フランスに急に混ざる山梨。


 アクアビットは確かジャガイモから作った度数の強い酒だったはず。飲んだことがないがどのようなものか? 


 ビール、アクアビット、ワイン。ドロップが酒、そして全部数字付きである。


 ビールは自宅で緩く違いを楽しむとして、ワインはフランス料理系の『ODA』に持ち込むかイタリアンの『HAYASE』に持ち込むか。両方でもいいのだが――鷹見さんに相談しよう。


 そして82層をくまなく回ることが確定した。やや面倒なスライムだが、問題ない。スライム大歓迎だ。


 魔物から奪った能力カードを【収納】から出す。私の体より、少し離れたところに浮いた魔物の能力カードを【開封】する。


 できれば対象の真上か真横にカードを出現させたいのだが、まだ無理だ。カードが出るのは私の手の届く範囲。


 魔法を封じたカードなので問題ないが。


 カードから魔法が放たれ、スライムを焼く。使用済みのカードはすぐに光の粒になって消えた。


 54層、56層のスライム、もう少し真面目に『スキル奪取』しておくべきだった。そう強くはないが、攻撃範囲の広い魔法の能力。なるべくスライムをまとめて、能力を発動させよう。


 1枚では足りないので、重ねて2枚。属性の相性で倒しきれずに残るスライムが時々。それは苦無を投げて処分する。


 さくさく行こう、さくさく。

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