第125話 80層へ

 しょうがないので黒猫分のオムレツその他も作る。ここは黒猫のテリトリー、借りている身としては多少の便宜もやむをえない。


 たとえ黒猫分は戸棚にだといいつつ、冷蔵庫を漁られても。盗み食いという言葉が頭に浮かんだのも確かだが、この台所と海へと続くテラスのような場所は黒猫に権限がある。


 幸いダンジョンに潜って留守にするため、冷蔵庫に生肉や生魚は置いていなかったはず。これから弁当に詰めようと思っていた惣菜は綺麗になくなっていたが。


 一応【収納】の中におにぎりはある。弁当らしい弁当は諦めて、他はクロワッサンぽいパンの絵が描かれたカードと、チーズのカードでも持っていこう。これからの予定に支障はないはず。


 今後、自分で使う予定のものは一部屋目に移動させることにしよう。冷蔵庫の中身は食われてもいいものと調味料だな。


「一応伝えておくが、冷蔵庫では肉や魚の熟成のため、調理前の状態で入れる場合がある。勢いで食って、不味いと言われても苦情は受け付けん」


 聖獣が腹を壊すかどうかは知らん。


「うう。食い物の判定難しいぜ……」

「……」

一体どういう食生活をしてきたのか。


 ゴミでもあさっていたのか? 野良猫か?


「棚の中のものだけ食えばいいだろう」

使うものはこの部屋から引き上げることにしたので、どうでもいいが。


 80層に進む前に、棚の中に料理を詰めるべきだろうか。黒猫に今出す分として作ったオムレツを戸棚に収める。


 オムライスではないので作るのに時間はかからない。いくつか作って詰めておこう。ベーコンとソーセージも焼いておく。面倒なのでソーセージの下茹はパスで。


 レタスとサニーレタスを出し、こちらも千切ってボウルのまま戸棚に。いささか乱暴にちぎったが問題ないだろう。ドレッシングはオリーブオイルに酢、塩胡椒の簡単なもの。


 そのまま食ってもいいチーズをいくつか【開封】し、戸棚に詰めて完了。手抜きである。


 海を眺めながらテラスで朝飯を食う。海というか、私は300層相当の魔物がこないかの警戒なのだが。


「いいな、ふんわりたまご。黄色が綺麗だ」

黒猫はご機嫌。


「ベーコン美味い!!」

どこまでもご機嫌。


 そういえばベーコンも余ったものが冷蔵庫に置いてあったな。塩の強いもので、数日でダメになるようなものではなかった――そのまま食ったのか。


「ダメ元で聞くが、このダンジョンに即死スキルを使ってくる魔物は出るのか?」

「200層までは出ない。協力者は簡単に殺せないからな」

軽く言ってくる黒猫。


「なるほど」

復活するイレイサーの方は気軽に殺せるというより、冒険者全般を気軽に殺せると思っている印象。


 まあ、聖獣からしたら人間なぞ、どこからか山ほど湧いてくる何かだろう。むしろ多すぎて邪魔くらい思っていそうだ。


 その辺はお互い様なので別に構わない。200層まで即死スキルがこないことが確定したことが大きい。


「戻ったら少し手間のかかる料理をしよう」

あっさり教えてもらえたことに、そのくらいの感謝を表してもいい。


「……!!」

黒猫のしっぽがぴんとたつ。


 手間をかけたからといって美味しくなるとは限らんが、ワンパターン防止にはなる。


 上機嫌な黒猫に見送られ、70層へ。40層までの魔物が復活しているはずだが、かまっていると今度は帰りに70層までの魔物と鉢合わせすることになる。


 今更おくれをとるような相手ではないが、未知の領域からの帰り道にぶつかることになる。テンコのダンジョンに行く前は、40層までの魔物も行きに綺麗にしておくつもりでいたのだが、さすがに調整がつかない。


 楔を打ち込んだ70層から開始し、帰りに遭遇する40層より浅い層の魔物はその時倒す方向で。疲労でどうしようもない場合は、もう一泊してもいい。最悪は『帰還の翼』の使用だが、そこまでにはならないだろう。


 79層までの魔物は掃討済み、復活まで3日ほど。90層のリトルコアをやるかどうかは85層のリトルコアの強さ次第。


 時間が惜しいので走り降り、80層のリトルコア前。スライムなことは確定しているが、果たして。


 さっさと扉を開ける。75層の蛇のようなリトルコアは苺を出したが――ではなく、何度か倒して危なげがない。リトルコアを含む魔物が急に強くなるのは、スキルを使い出す30層あたり、50層、100層。攻撃方法や属性によって相性はあるものの、他は緩やかな変化。


 ただ即死スキルを使う魔物の報告が、80層から上がったことがあるので、警戒していただけである。

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