第124話 オムレツ
付与した宝石が私の手元に来るのはずいぶん先、理解した。予定が狂う事態だが仕方があるまい。
50層の『オパール』をどうするか。……市のダンジョン、突出しているパーティーがほぼいない代わり、50層まで届いている冒険者の数は他のダンジョンと比べて多め。
出現する魔物に面倒なくせがないのと、過去の攻略者が後進の育成を図ったためと言われる。
私が『回復薬』の生産を田舎暮らしの保険として採用したのも、50層まで行く人数と比例して需要が多いからだ。
なのでおそらく、私の組むパーティーメンバーを特定するのは不可能。それ以前に単独だが。
自宅ダンジョンをパーティーで攻略していると思われているメリットに、イレイサーが私側に予告なくこないという、とても大きなメリットがあるので、今後も誤解を解くつもりはない。
50層で手に入れた『オパール』を渡しても、私がソロで手に入れたという結論には至らず、パーティー説が補強されるはず。
なお、協力者とイレイサー、カードは全て黒猫模様。外に持ち出した時に初めて持ち出したダンジョンの絵柄に変わる――らしい。
私のダンジョンから出したカードは市のダンジョンでは黒猫とは別の模様になっている。イレイサーから薬の素材にと渡されたカードも同様の模様に。
私のカードと同じ模様のものを持ち込んだという話は聞かんし、以前レンがカードの模様がハスキーっぽいとか言っていたので。
持ち出したダンジョンの模様に変わるのは、おそらくドロップカードの販売代行対策なのだと思われる。
なのでテンコの50層からのドロップカードではなく、うちのダンジョンのものだと思わせることは可能なのだ。
まあだが、明日は予定通り自分のダンジョンの80層以降の攻略にかかろう。準備が無駄になってしまう前に滑り込めた。
風呂に入って、誘惑に負けて酒を少し。アテはない、何せダンジョンで二泊するつもりで冷蔵庫の整理済み、うっかり料理をしてダメになるものを生み出したくはない。
テンコのダンジョンと合わせると四泊することになるが、そのあたりは一人暮らしと自由業の気楽さだ。
朝飯は一部屋目の黒猫キッチンで作って、残りは置いてゆけば問題ない。寝酒を飲んで冷房の効いた部屋で心地いい気分で眠る。
眠りに落ちるのは一瞬で、目覚めるのも早い。――ただし、目覚めがいいのは夏場のみ。他は布団ラブである。
ダンジョンに降り、メニューを考え、使う食材のカードを黒猫キッチンに持ち込んで【開封】する。
カツオの塩カルパッチョ、ホタテのタルタル――いかん、昨日欲しかったアテだなこれ。
早くダンジョンを進まねばならんし、手の込んだ料理をしている暇が惜しい。チーズオムレツでいいか。
ドロップカードから出したパンが再び4斤なわけだが、まあ仕方あるまい。これも黒猫の戸棚行きだ。
戸棚を開けると空っぽ。おい、あの量をすでに食い切ったのか? 黒猫の胃袋は異次元だろうか?
「おかず……おかずも!」
黒猫が現れて文句を言ってきた!
「牛乳も入れておこう」
本日の朝食はチーズオムレツ、ベーコン、トースト、サラダ、牛乳の予定である。
「おかずじゃないよね!? というか生パン1斤もなんか違う! 絶対違うだろ!?」
そう言えばそのまま突っ込んでいたが、黒猫は料理をしない。それこそ切って焼くということもしない、もしくはできないようだ。
なるほど? 以前突っ込んだパンは長方形のあの形状のまま齧った、と。シュールなことになっていたようだ。デニッシュはともかく、食パンはきつかったのではないだろうか。
パンを突っ込む時は、バターも一緒に突っ込んでおこう。
「……一応、スライサーもあったなそう言えば」
自分の分だけパンナイフで切っていたのだが、電動スライサーを使えば楽だ。
だがしかし、肉用のような気もしなくもない。説明書を読むのが面倒で確認を怠っている。
とりあえず適当にパンを切り、戸棚に入れ直す。焼くのは面倒なので、そのままだが。
レタスとサニーレタスを混ぜただけのサラダを一旦冷蔵庫へ。冷やすと歯触りがいい。
「おい、ここのドレッシングはどうした?」
作って冷蔵庫に入れておいたドレッシングがない。
「飲んだ!」
いい笑顔の黒猫。
「……」
レモンを多めに、塩分を控えて作ったとはいえ、体に悪そうである。聖獣は腹を壊したり、腎臓を悪くしたりせんのだろうか。
「……さては飲み物じゃない?」
「サラダにかける調味料だな。そのまま飲むことはない」
察しがいいようで何よりである。
「うなぁ……」
しっぽを下げる黒猫。
でもだって、イレイサーに出されたのより美味しかったとか、色も綺麗だったしとか、ぶつぶつ言う黒猫。
そんな黒猫に構わず料理を続ける。オリーブオイルも塩もあるし、ドレッシングはどうとでもなる。
ソーセージを茹で、ベーコンと一緒に焦げ目がつくまで焼く。卵料理用のフライパンは分けたい派、隣のコンロでチーズオムレツをつくる。
「は〜。なんか美味そうだな」
黒猫が覗き込んでくる。
復活早いな?
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