第123話 攻略進行度

 諦めて自分のダンジョンに帰ってきた。


 そうだな、政府や企業がバックにいるならともかく、個人に100層より深い層の素材を潤沢に手に入れることは難しいな。


 『変転』後の『化身』では殺すことへの抵抗は少なくなる。レンのように記憶や社会的制約が曖昧になり、昆虫の羽をむしる子供の無邪気さと残酷さでダンジョンを進む者も多いため、9層までは大抵の者がソロで進める。


 10層のリトルコアからはパーティーを組む。ドロップカードの問題で、大抵は5人。最大は15人。


 10層のリトルコアは攻略に向いた特性が出た者ならばすぐに超えられる。生産特性のスキルしか持たない者も、時間をかけてレベルを上げてからならば生産者だけでの5人パーティーでもなんとかなる。


 ――生産特性スキル持ちについては、大抵戦闘に時間を掛けることなく生産に回って、生産の腕がある程度上がって、いつの間にか10層にも行けるようになっていたパターンが多いようだが。


 20層は生産系は攻撃力不足もだが、防御力の問題が出てくるので、攻略特性――物理攻撃系・魔法系・回復系など――持ちがパーティーに半数以上いないとキツくなる。


 一応20層のリトルコアを倒した先で稼げる者は攻略者と呼ばれる。


 31層を超えたあたりから能力を使う魔物が出てくる。この辺で必要となる装備の値段が跳ね上がる。30層にリトルコアがいるので、実質30層から装備は整えねばならんため、攻略に向くスキル保持者であっても、29層までという者は多い。


 出現する魔物との相性にもよるが、レベルアップ時のカードの選択結果が思うようにいかず、能力が偏った場合、大抵29層から39層あたりで止まる。


 そして40層のリトルコアはどちらともいえないが、50層のリトルコアは確実に能力を使ってくる。レベルアップも頭打ちになってくる頃合いで、50層を5人で超えることは稀になってくる。リトルコアのエリアに入れる15人の上限で進む者が多い。


 攻略配信を見ると、撮影・移動・野営・戦闘サポート兼務が10名いて、目立つのは代表の5名みたいなのが多い印象だ。


 イレイサーの抹殺対象者の、配信というかダンジョンの攻略方法もこのパターンだ。攻略層は100だか、110層だか。


 テンコは、対象者がホームにしているダンジョンがある隣の市に住んでいる。聞いたわけではないが、配信で隠してもいないので。


 黒猫からの最初の説明のニュアンスから、外かダンジョンで、イレイサーたちか、対象者たちか、どちらかに何かの関わりを持っているのではないかと思っている。


 それが分かればもう少しテンコにイレイサーを押せる気がするのだが、何もわからんので気がするだけである。


 第一の押し付け先、カズマたちは80層のリトルコアを倒したところ。配信だけの印象だが、対象者たちよりカズマたちのパーティーの方が強い。


 対象者たちはやたら運が良い印象、それも過去の配信ではであって、今の配信ではパッとしない。


 運で乗り切ってゆくのは見ていて夢があるらしく、配信のコメントはやたら盛り上がっていた。なので下げておいてまた上げる、運の良さを装った演出なのかもしれんが。


 ちなみに政府からリトルコア上陸時などに派遣される者は、5人パーティーで100層越えが基本。その中でもナンバー持ちと呼ばれる10名はソロで100層を越えることが基本。――回復特性では攻撃する者が一緒であることが必須になるので、例外はある。


 一般にはナンバー持ちだけが『政府の勇者』と認識されているが、リトルコア上陸時に派遣される者たちは、地元で『勇者』と呼ばれる者たちより大抵強い。勇者と呼ばれるのは強いだけが理由でないことがよくわかる現象である。


 なお、『政府の勇者』のナンバーは、勇者の強さの順番ではなく、武器に割り振られたナンバーである。


 ナンバーが若いほど強力な武器で、それを持つ資格を得る者もそれに見合う強さが求められるため、強さの順と言っても間違いではないのだが。


 幾つか扱いにくい武器があって、ナンバーがつけられた10の武器は人前に出せる武器というか、素直な武器というか……。その時々の持ち主が武器の『強化』を行うので、ナンバー付きが強いことは間違いない。


 そしてナンバー付きの武器を持った者は、政府の勇者として顔出しで広報に努めることが慣例だ。


 ――私の武器だった『迦具夜かぐや』は、ナンバーがついていない。暴れ者なので使い手がずっとおらず、倉庫で眠っていた一振りである。暴れ者なところが可愛いのに。まだ次の持ち主は決まっていないらしい。


 政府のお抱え付与持ちは優秀だ。その仕事の中に、ダンジョンから持ち帰ったリトルコアの魔石への付与がある。


 基本、リトルコアの魔石は冒険者ギルドで回収なので、民間は手を出してはダメなやつである。生産レシピも秘匿されている。


 宝石のように小さく加工され、さまざまな効果が付与された魔石を、任務達成や貢献度によって勲章として胸に連ねる。即死防止、腕力強化、魔法防御向上――私もいくつか持っていた。


 政府の付与持ちは機密事項が多すぎて、民間人になった今は接触できないのである。しようとすればできるだろうが、無駄な揉め事を起こす。 


 情報のない深層に進むには、即死防止は持っておきたい――。黒猫に聞けば、即死スキル使ってくる敵が出るか教えてくれるだろうか?

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