第118話 保険
テンコのダンジョンには、20層までレンにハーネスをつけて来ているので、2度目。21層から30層までは初めて足を踏み入れた。
事前に30層までの地図の写しはメールしてもらっているので、最短で来ている。どうやらイレイサーたちのテンコのダンジョン進行度は30層のようだ。
そして、イレイサーたちと来た時は、リトルコアまで最短ルートではなかったことに気づいた。
さすがに大きく外れることはないが、どうやら戦いやすい地形を選んで進んでいたらしい。
個人でも地形や場所の広さの得意不得意はあるが、二人だと確かに狭い場所は難しいだろう。片方が倒せばいいだけだと思わんでもないが、ユキが槍に魔法と広い場所向きだからな。
偶数層のスライムは、うちのダンジョンと違って色があるが、同じ種類のスライム。戦い方も気をつける点も一緒なので面倒がない。
黒猫の気まぐれで違うスライムが出現する可能性もあるので、層を移動した後の最初の3、4匹は慎重に倒すつもりでいるが、問題なさそうだ。
ダンジョン29層までは、道中にスキルを使う魔物は出ない。ごく稀に29層以前からスキルを使う魔物が出るダンジョンがあることはあるが、その場合は1層目からスキルを使う魔物が出現する。
で、31層目。ここからは道中の魔物もスキルを使ってくる可能性が高くなる。レベル的に大丈夫だとは思うが、気をつけよう。
31層はところどころ濃い緑の苔に覆われた赤茶色した洞窟――いや、このツタが魔物か?
苦無を投げる。当たった苔が、ギャッと鳴き声を上げて壁から落ち、消えてゆく。苔というよりは、なんだろう? ナマコっぽいな?
ドロップは『綿糸1』『綿糸2』。
……綿糸に種類があることを初めて知った。いや、種類というより太さか? よく分からん。
私が分からなくても問題ない。カードのままアイラさんのところに持ち込めばいいだろう。
魔物を殲滅してきたわけではないので、テンコが単独でここまでくると言うことはない。来るとしたらイレイサーなのだが、そっちも心配いらないだろう。ダンジョン内は複雑に入り組んでいるので、同じ層にいても気づかずすれ違うことがままある。
10層か20層を起点に、浅い層だけ回ったような偽装は可能。
テンコも一部屋目にずっといるわけではないので、私がずれた時間に一部屋目に戻ってきているという判断をするだろう。もしくは時間をかけて安全に戦っていると判断するか。
とりあえず、いざとなったら――死にそうになったら、黒猫便で帰る話はしてあるので、しばらく放置方向なことは確かだ。死にそうにないが。
全て回らず、下へ降りる階段を見つけたらさっさと移動する。
布やら革やら糸やら、私に必要のないもののドロップが続く。スライムから落ちるので、イレイサーの補修用だろう。スライム以外からも落ちるが。
少し違うものを願ってもよかったのではないか? テンコ。いや、もしや宝石のドロップ率が低いせいで、スライムの他のドロップも布やら革やらになったのか?
私はいらんし、アイラさんやツツジさんに譲渡するとなるとある程度数が必要になるので微妙だ。半端な数であっても珍しければ喜ぶのだろうが……。
なにせ布や革についての知識がない。知っているのは有名どころや、政府から取って来いと投げられた仕事の対象だったものくらいか? あとは深い層で出た物ならば希少価値があるだろう程度だ。
私がテンコのダンジョンに来た目的は、宝石と皮。
コートについている【収納】の強化先の分岐で使う素材が『黒い宝石』と『黒い皮』なので。
許容範囲が広いので、特に詳しくなくとも大丈夫なのである。『黒真珠』と『ブラックドラゴンの皮』は確保してあるのだが、『強化』カードを沢山手に入れられる状況になるとは予想していなかったので、不足する可能性が出て来た。
分岐を選ぶ強化で使う素材が、よりダンジョンの深層のものであるだけ、能力が跳ね上がる可能性が高い。
今の装備では『黒真珠』クラスまでたどり着くことは難しい。が、もしかしたら2度目、3度目とダンジョン攻略の許可がテンコからでるかもしれない。なるべく進んで、リトルコアの部屋に楔を残しておきたい。
黒猫便で『黒真珠』が出たダンジョンに移動したとして、宝石のドロップ率は低いのだ。装備が整った後で行ったとして、出るまで通うというのはなかなかハードルが高い。
決まった宝石を高確率でドロップするリトルコアもいるのだが、残念ながら『黒い宝石』を落とすものは浅い層にいる。
深層にもいるのだろうが、生憎データーベースがない。40層くらいまでは、よほど人気のないダンジョンや、新しいダンジョンでない限り、どこで何が出るかというのは調べればわかる。
私のダンジョン、あんなにくるくるしているのに未だ宝石のドロップは4つである。通常はそんなものなのだ。
その点、テンコのダンジョンは既に体感で宝石のドロップ率が高いことが窺える。
保険はかけるタイプです。
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