プライベートダンジョン

第119話 分岐の進化素材

　日本刀の【魔月神（まがつかみ）】の分岐で使う素材は、『銀』『魔石』。銀の腕輪の【隠形（おんぎょう）】で使う素材は『黒い実』『魔石』。

　協力者として貰った武器防具は共通して『魔石』を使う。たしか、イレイサーのものも同じだったはず。

　因みに苦無の【正確】は、『黒い金属』『血』。

　最初の分岐で使う素材は５０層以上のものが良いとされている。５０層より浅い層のものは少し成長率が悪い。ただ、５０層を超えると１００層のものを使っても成長率は大してかわらんとのこと。

　対応する素材がないと、１００層以上まで行く羽目になるだろうが、５０層で揃うなら５０層のものでいい。

　５度目の分岐に使う素材は１００層以上――５度目の分岐出現までの強化は、自力でドロップを集めた『強化』のカードだけでは到底無理。『強化』のカードの買取りでアホほど金がかかる。

　そして１００層以降の素材はさらに高い、１００層到達者は稀なのである。

　分岐素材の話は政府調べ。公開されている情報なので、５０層からのドロップは値段が跳ね上がる。そもそも行ける冒険者がこちらも少ないしな。

　私の苦無とコートは、政府支給の素材で最初の分岐はクリアしている。確か、５５層前後の素材だったはず。５０層に行けるようになったら、指定の素材を２００集めてくるというノルマがついてきたが――まあ、初期投資は大事だ。

　政府の仕事――私のような裏の仕事ではなく、公表されている仕事だ――を一定期間受けることを条件に、素材を支給する制度もある。

　適正素材を使ったからといって、必ずよい結果がでるとは限らないのだが、確率は上がる。

　イレイサーと協力者の武器防具に一般と同じ条件が適用になるかどうかは、謎と言いたいところだが、おそらく同じだ。

　何故なら、日本刀に１５０層以降のドロップ物を突っ込んでも、能力強化の度合いが、苦無の第一段階とほぼ一緒だったからである。きっちり数値にできるものでもないので、体感だが。

　実験も兼ねてはいたが、単に日本刀の分岐に対応する素材がそれしかなかった。流石に予想外に手に入れた武器防具に対応する準備はしていない。

　そんなことを考えつつ、スライムの答え合わせをし、新たに遭遇する奇数層の魔物を覚えながらダンジョンを進む。

　『白地図』の上位に、倒した魔物とそのドロップを記録するアイテムがあるのだが、そこまで真面目に対応するつもりはない。

　人のダンジョンだしな、面倒な魔物と、欲しいものを落とす魔物を覚える程度だ。さっさと通過する。

　擬態系の魔物もいるが、私のダンジョンと違って虫系が多い。蜘蛛はともかく、毛虫などは殺意が湧くからやめろ。

　羊が出た時は肉を期待したが、『毛糸』や『フェルト』などだった。ドロップにブレがないのは、イレイサーが協力者（テンコ）に望んだことと、テンコが生産者として望んだ事が合致しているからだ。

　食材と酒を望んだ私とは違い、真面目である。そもそも私は生産者ではないが。

　順調に進み、予定通り昼過ぎに４９層にある５０層への下り口に到着。

　道がわからんので時間がかかる。全部回っていないとはいえ、袋小路に入ったり、遠回りをしていたり。

　初めて遭遇する魔物？　来る機会が頻繁にあるとも思えんし、魔物の能力を奪い悪戯にカードを増やしてもしょうがないので、さっさと倒しているので問題ない。

　色がついていると魔物の持つ属性もわかりやすいしな。擬態する魔物の相手は多少面倒になったが。

　擬態する魔物の相手は、【天地合一】の範囲が広がれば楽になりそうな気はする。効果の説明が『己れを天地と一体化させ、気配を探る』だしな。今のところ５０センチ先しかわからんので、視覚情報と音、大気の揺らぎで普通に気配を感じているだけな気がする。

　【天地合一】と【生産】は、リトルコアのドロップカードからなので、進化の選択肢はほぼ出ないと思っている。【生産】は扱える素材が増えるだけ――生産成功するとは言っていない――、【天地合一】は強化しても感知できる距離が広がるだけだろうが、それで充分である。

　あわよくば昼前につきたかったのだが、予測通りに落ち着いた。５０層のスライムを倒したら、昼飯にするつもりだ。

　――５０層？

　……。

　テンコの能力カードが出る場所だな？　

　５０層のリトルコアは鹿型のスライム。スライムが姿を奪った『火炎鹿』を、まるまる一頭ドロップしてきて私を困惑させたヤツである。

　スライムのリトルコアはほぼ無視なのだが、『火炎鹿の皮』の加工はツツジさんのレベルアップにちょうどいいらしいので偶に倒している。

　魔物を直接倒した方がもちろん効率がいいのだが、自分より強い魔物素材の加工を成功させると、その素材から経験値を手に入れられるらしい。ほんの少しなので、数をこなさねばならないようだが。

　経験値とゲームのように呼んでいるが、実際にはダンジョンの力のカケラのようなもの。魔物を倒すと光の粒に変わり、その光が収束してカードとなるが、その光がダンジョンの力のカケラで、倒した時に一定量『化身』に取り込まれて、ダンジョンに適合するという理屈だ。

　なお、取り込める量は倒した時点で確定するらしく、散る光を沢山浴びても無意味なようだ。

　それはそれとして、５０層。さて、どうするか。

　テンコの能力の底上げは、宝石の付与を依頼している身としては歓迎したい。私が単独で５０層まで進めることをばらせば、このダンジョンに今後も入室させてくれる可能性も高い。

　その場合はおそらく、ドロップカード、特に宝石類の買取を申し出られるだろう。高いものなので全部ではないだろうが。