第133話 無限湧き

 ダンジョンから戻り、荷物の整理。


 ダンジョンドロップは、カードに表記された名前だけで想像がつかないものもあり、名前で想像がつくものもある。地域によって細かく分類された形でドロップしたり、大雑把だったりすることも。


 家のこのダンジョンも多分にその傾向が見られる。もしかしたら、あちこちのダンジョンのドロップカードを適当に寄せ集めて設定されているのかもしれない。


 だがあえて言わせろ。


 なんだこの98層の、『手帳の黒革』って。『椅子の赤革』『財布の青革』『靴の黒革』『靴の白革』、用途も色も限定しすぎではないか?


 どんな条件でこんなことになったのか、黒猫に質したい。


 色々腑に落ちないこともあるカードの整理もそこそこに、風呂に入る。酒を飲みたい気もするが、流石に気疲れしたのでそのまま布団に潜り込む。


 バタバタしたが予定通りやり切った充実感がある。


 そして朝。


 炊き立てのごはんに83層『福岡の明太子』。黒猫キッチンの乾燥用プレートで簡単一夜干し状態にした『鵡川のシシャモ』。味噌汁、漬物、味海苔。


 一夜干しを焼いたシシャモ。身だけならば雄、卵を抱いているなら雌だな。そのまま食べて味を確かめ、次はマヨネーズをつけて食べる。


 炊き立てごはんに明太子も美味かったが、朝から日本酒も開けた。昨日までダンジョン内では飲まず、頑張って攻略を進めたので良いのだ。昼は外食するつもりなので、少しだけ。幸せである。


 食べた後は空と陽が恋しくなって、ここ数日は運動の日課をできずにいるな、そう思いながら外に出た。


 すみません。


 勘弁してくれませんか? なんだこの草。夏草といえど、元気すぎないか? 流石に草刈り機を持ち出すほどではないが、何がどうしたというくらい草が元気だ。


 戦うべき敵の存在を忘れていた。しかも無限湧きの強敵。負け確定ではないだろうか? 草取りマスターにパーティーをお願いしたい、この相手はソロでは無理だ。


 途方に暮れながら暑さに負けるまで草取り。いつかは終わると思っていた時期もあったが、端から端まで取り終えた後、最初に草を取った場所に生え始めているのを発見してくず折れた記憶。


 田舎の家は庭広い、それに山や畑との境界が曖昧。私の家は傾斜があるため畑との境は石垣で段差があり境界がはっきりしているが、北と東は山中との境界は微妙だ。


 虫や草、害獣が山側からやってくるので困る。本当は山の中ももう少し手入れをせねばならないのだろう。


 そういえば、柊さんの家に最近門がついた。門というか、道路側に低い塀を作り、電動の跳ね上げゲートがついた。


 私は梅畑を通って歩いて行くし、佐々木さんの家へも畑を通って行くことがほとんどだ。豆腐屋のお遣いの帰りは車で寄るが、それは頼まれてのこと。


 なので、私に勝手に入ってくるな! という主張ではないはず。何かあったのだろうか? 


 ――蓮と雪のストーカー対策か。塀は低いし、他の場所からも入り放題なのだが、入った後の扱いのためだな。塀とゲートがあるのに無視して入れば、間違えて入りましたとかいう言い訳はきかず、不法侵入が問えたはずだ。


 私が車で行って何かにぶつけたとか轢いたとか、粗相してしまったとかではないはず。蓮と雪の二人も、対象二人に何か対処はしていると思っておこう。人付き合いに慣れていないので、無駄にドキドキして困る。


 それにしても草、そして家庭菜園。トマトの脇芽も元気である、摘みどきを逸した感。本当は小さなうちに摘み取って、枝の選別をしなくてはいけないのだが。


 トマトと一緒に植えていたバジル、コンパニオンプランツの仕事はしなかったが、わさわさと茂った。これは適当に摘んでバジルペーストにでもしておこう。


 昼は『翠』の予定で、市のダンジョンに車を止めがてら早めにいくつもりだったのだが、朝酒を飲んでしまったので予定変更。


 庭を見て色々疎かにしていた自覚が出たので、家の掃除と洗濯、空っぽだった冷蔵庫に食材の補充など、家事を済ませる。


 余った時間はカードの整理、販売するために市のダンジョンに持ってゆくものを選びだす。


 入札者制限、売る先がほぼ決まっている食材カード――面倒なので冒険者ギルドで妥当な値段をつけてもらっている。


 通常オークションに出す、珍しめの食材カード。ツツジさんアイラさんが興味を持ちそうな素材。差し入れはどうするか。


 ダンジョン素材は一定の金額を超えると譲渡に税金がかかる。かかるのはこの際いいのだが、いちいち申請を出さねばならないのが煩わしい。


 飲食物に関しては、外の食材を混ぜた加工品というか手料理ならば許容範囲が広いんだが。今度は手料理というハードルがだな……。手料理ということは私が気にしているだけで、あまり気にされていないようではあるが。


 初夏に摘んだ木苺のジャムがある。ナワシロイチゴとかいって、日当たりのいい場所に生えるよくある木苺のものだ。


 今回ドロップしたベリーと合わせて、ゼリーで固めてしまおう。夏らしくていい、……ような気がするしな。


 甘いものは積極的に食いたいと思わないのだが、果物をもらうと消費しきれずにジャムにしたりコンポートにしたりする。


 木苺はつい摘みすぎた自業自得だが、基本瓶詰めが余っているのである。

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