第20話 スーツ
「アイラ、すごいわ! 完璧なインテリメガネスーツ……っ!」
涙を浮かべてぷるぷるしているツツジさん。
「アタシは、丸メガネにして印象を柔らかくして、華やかなかんじの銀タイピンとかも好みだわ。髪を少しエアリーにして……、まつげ長そうだし、ちょっと巻かせて欲しいくらいよ」
「ああ、ファンタジー要素で麗しい系」
いや、やめろ。なんの話だ。
私の種族はダンピール。人間よりで、見た目も赤い目が少し目立つくらいで、少し肌が青白いような気がする、犬歯が尖っている気がする、その程度だ。種族的に顔は整っていることは認める。
だがそれは『化身』は多かれ少なかれみんな似たようなもの。皆が美形というわけではないが、物語のようなステレオタイプの外見が多い。
種族は基礎能力などにも影響がある。
ダンピールの能力は、人によって吸血鬼よりか人間よりかが出る。私は人間とほぼ変わらない。基礎ステータスの気力が普通より10多く、回復魔法の効果が少し薄いくらいか? そもそも回復魔法は持っていないし、パーティーを組んでおらんしで、自前の回復薬で事足りている。
これがヴァンパイアならば、気力・魔力・速さの基礎ステータスが高い代わりに、光属性がつくと体力の減りが激しくなる。怖くて【菊】のカード――光属性が出る可能性がある――が引けなくなるそうだ。大体種族は一長一短だ。
ちなみに2つの属性が10以上になると様々な効果が現れる。例えば光と火が10以上になると体力の回復が早くなり、ヴァンパイアの中にはそうして光を克服した者もいる。光を10上げるまでだいぶキツかったらしいが。
「コートもたまには白とか灰色にしてみたいけど、そのコートがまた格好いいからずっと着てて欲しい……」
ぷるぷる継続中のツツジさん。
【収納】便利だし、『運命の選択』で与えられた防具を脱ぐという選択はない。いや、腕輪はバレるのがあれなんで、このダンジョンでは外しているが。
「裏地の色はバーガンディーかしら? 布のような革のような素材も気になるんだけど、『運命の選択』の武器防具って、素材が何なのかわからないものも多いのよね」
アイラさんは生産者視点。
私的には桑の実を潰した時の色です、裏地。
「一応、聞くけれど、引き攣れるところとかあるかしら?」
「問題ない」
スーツのジャケットを着ると、肩がこることがあるが、アイラさんの服は形が綺麗なのに動いてもほんの少しも邪魔されない。
「一応、言っておくが靴も問題ない」
詳細に測ったり、腕を上げさせられたりしたのは最初の時だけだ。それでも2人の腕は素晴らしく、寸分の狂いもないようで一着目と同じ着心地。多少ならサイズの自動調整がダンジョンによって起こるのだが、その必要もないくらい。
アイラさんが一応と言ったのも、それだけ腕に自信があるからだろう。私が一応とつけたのも、ツツジさんが一流の腕を持っているからだ。
運動靴やサンダルより快適な革靴って、他では遭遇したことがないぞ。なんというか、個性的すぎる2人だが、その仕事ぶりは尊敬する。
「麻が大量に入荷したみたいで、ストックしたから、生産装備の着替え用にシャツを後でおまけに渡すわ」
アイラさんが言う。
それはもしかしなくても私が持ち込んだカードのような気がする。
「いくらだ?」
「いいわよ、付き合わせてるんだから」
「なおさら払う。付き合いのコツは、金銭面では甘えないことだ」
それにエアリーだか巻き爪だかにされては困る。
「律儀ねぇ」
「そのうちもう少し上の装備を、正式に依頼するかもしれないしな」
上のランクの装備を依頼する時、なんと理由をつけて依頼しようか。素直に深層に行くというのも微妙だ。防御力は流石に落ちるが、鎧系より布系の方が音が出ないので私の好み。
それに装備品の重さや可動域が大きく変わると【正確】に蓄積してある動きと、ズレる可能性がある。
料金については押し問答の末、一着目と同じく実費プラスアルファの金額と気力用の回復薬で合意した。
なおツツジさんはずっと恍惚としていたので、まともな会話をしていない。アイラさんにツツジさんの分も渡して終了した。
これでリトルコアに挑める。ここに来た一番の目的を果たし、上機嫌で生産の続きをする。通常番のギルド職員の終業時間に合わせて切り上げ、買取カウンターを覗く。
ギルドは24時間営業のため、職員は部署によるが交代制だ。私は昼間しか来たことがないが。
藤田さんと話していたキツメの美女がこちらに気づいてやってくる。この美女が鷹見さん、ただし生身は男。
生身と化身は輪郭やそのほか、似ているタイプなのだが、生身の方は糸目。鷹見さん曰く、『化身』は若い頃の「化粧をした」母親に似ているらしい。
「私の『化身』は普通に目が大きいですが」とも。後から思うに、御母堂も糸目で、化粧で目を大きく見せていたのだろう。まあ、なんだ。目を見開くとツリ目の美形です、なので御母堂もすっぴんでも美人の類だと思う。会ったことないが。
生身同士で付き合いがあるというか、1人で行けない飯屋に連れて行ってくれる人だ。1名での来店お断りな店多すぎじゃないか? テーブルの効率的に仕方がないのだろうが、不満だ。
そういうわけで飯屋に移動。
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