第89話【魔月神】の分岐。
【魔月神】は
現れた分岐は、その放つものの物理攻撃力強化、状態異常の強化、刀そのものの斬撃属性の強化の三つ。
『強化』のカードである程度全体的に上がるのだが、分岐で選んだ能力が突出する。
斬撃属性の強化。
私が刀に求めているものは、道中の魔物を倒すさいの気力消費の軽減である。大技は求めていない。大技は魔物の能力カードを使えばいいので。気力をあまり消費しない、通常攻撃の強化になるのでこれでいい。
他は次に分岐が出たら考える方向で。通常強化を選んだので、残りの二つはまた出るだろう。どちらかを選んでいたら、もう片方はなかなか出て来なくなるパターンなのだが。
使いやすくなるとは思うが、このダンジョンではスライムが多いので少し微妙かもしれない。やつらあまり斬撃は関係ないからな。スライム相手の物理攻撃は打撃だろうか刺突だろうが関係なく、核を狙えるかどうかだ。
ドロップカードの整理を終え、ダンジョンから出て本日の飯を考える。結局『久寿』『金兵衛』『藤九郎』はやはり銀杏だった。【開封】後も3つの違いはよく観察せんとわからんかったが。
松茸も出ているし、土瓶蒸しだろうか? いや、どう考えても日本酒を飲みたくなる。
カワハギの刺身、肝醤油つき。日本酒が出てすぐ作ったホタルイカの沖漬け。塩を振った車海老の串焼き。シロギス、アスパラガス、
松茸の茶碗蒸し。
よく考えたら土瓶がなかったのである。小丼サイズの茶碗蒸しに薄切りにした松茸を数枚、銀杏を3つ、小エビと地鶏の肉を少々、ミツバを上に。
茶碗蒸しは自分で作ると好みの固さに作れるのでいい。うちにある蒸し器は、ちょうど小丼が入るサイズ。時々じゃがいもをはじめ野菜を蒸している。
少々時間はかかるが放っておけばいいし、健康的に野菜を摂っていると主張ができる。柊さんにキャベツをもらった直後は、キャベツを蒸してゴマダレで食べていた。
蒸し器は仕舞ってしまうと途端に面倒になる魔法がかかっているので、見えるところに置いてある。
色々食材が手に入るようになったし、野菜だけではなく今度シュウマイや肉まんあたりも作ってみよう。
魚を捌くのはすっかりダンジョン内になってしまった。臭いが残らないことが素晴らしい。
魚を捌くのもすっかり慣れた、と言いたいところだが、外の魚と比べて血がないことで私でも何とかなっている感じだ。
寄生虫の心配もないので、チェックもゆるい。ホタルイカも当然冷凍ではなく生の沖漬け、ただし生きてはいないのでホタルイカが醤油を口から吸い込むことはない。踊り食いの類はできないのである。
まだどの日本酒がいいか自分の好みが把握できていないので、適当に一本選ぶ。正しくはすでに茶碗蒸しを作る時点で開けているのだが。
大丈夫、すでに減っているから飲みすぎることはないはず。
夏場に茶碗蒸しは暑かったかなと思ったが、つるんと口に運び、冷えた日本酒を飲む至福。同じ酒を使ったせいか、よく合う。
香り松茸味しめじと言われるが、私は松茸の歯応えが結構好きだ。香りは――正直三つ葉の方がいいと思うが。食い慣れていないせいなのか、まだ松茸の香りの良さを理解するまでたどり着いていない。
私、クルマエビもパサパサになるまで焼いたものが好きなんだよな。『翠』の中心が半生でエビの甘さが強いものも嫌いではないのだが。――人の好みはそれぞれ。決してお子様舌ではない、お子様は酒は飲まない。
カワハギのタンパクな身に肝の濃厚さ。口に残る濃厚さを酒で流す幸せ。シロギスはふわりと柔らかく、ホタルイカは目玉も軟骨も骨抜きで抜いているので、口当たりがいい。
堕落である。
おかしいな? 断然ダンジョンを攻略している時間が現役時代より長いのに、堕落している自覚があるぞ?
まあいい、健康で金も稼いでいるわけだし。一人暮らしで友人もおらんが、飲み友達はいるし、ご近所との淡い交流もある。
スローライフは失敗したが、自由気ままに生きることには成功している。うまく黒猫にのせられている気はするが、私の望みが叶えられているのだからいいだろう。
うむ、もう少しイレイサーに協力してやってもいいくらいには待遇に満足している。日本酒でたしな。
薬も弾丸も、イレイサーに供給しているものはしばらく同じもの。おそらく魔物が能力を使い出したあたりで躓いているのだろう。道中の魔物に少し手こずって、次のリトルコアの相手をすることに躊躇っている、くらいか?
イレイサーが足踏みしている間、ツバキとカズマが二人に基礎を教えるだろうし、そう悪いことではない。だが、どうせなら能力を使って来る魔物の層に放り込んで教えてほしい。
若者にはリミットの5年などあっという間だ。ちょっとスパルタで頼む。
あれか、配信での攻略を進めればいいのか。
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