第88話 強化の方向

 只今75層、リトルコアと交戦中。


 蛇っぽいミミズというか、ミミズっぽい蛇というか。鱗はあるが粘液に覆われ、目はないが口があって牙がある。


 別ににょろにょろしたモノが苦手というわけではないのだが、あの粘液には触りたくないので攻めあぐねている。【鑑定】系の能力は持っていないが、大抵このパターンは触ると武器が腐食するとか、毒か。


 状態異常が付加されなくとも触りたくはないが。蛇もどきは、この粘液を自身のスピードを増すことに使っているらしく、ダンジョンの通路を滑ってくる。スライムより水っぽいというか――壁面や床に銀色の跡が残るのは、ナメクジの粘液に似ている。


 あの害虫の。


 ちょっとイラッときた。


 蛇もどきがスピードに乗り、大口を開けて真っ直ぐ襲ってくる。


 【幻影回避】。


 残した私の幻影に重ねて、カードを残す。大口を開けて、を飲み込んだタイミングで【開封】。


 【毒】、【溶解液】。


 粘液で滑る蛇もどきは、自身のスピードを制御できず、止まることができない。おそらく違和感があっても攻撃をやめることができないタイプ。私の幻影ごと二つを丸呑みし滑ってゆく。


 スピードはあるが、動きが直線的なので避けやすい。滑っていった先でのたうっている。外からではなく、内から食う【溶解液】はきつかろう。【毒】の吸収もいいはずだ。


 私にナメクジを思い出させたのがいかんのだ。私のレタスを舐めおって。いや、舐めたのはこのリトルコアではなくナメクジだが。ナメクジは葉や茎を食うのも許せんが、寄生虫も怖いからな。


 【火球】や【光弾】を【開封】して終了。アホのように浴びせたが、真面目に魔物から収集しすぎて【収納】を圧迫しているのでいいとする。


 私のレベルはすでに上がりづらい。狭いながらも楽しい自宅ダンジョン、ちょっと通いすぎた。いや、ダンジョン日参は珍しいことではないのだが、私の場合、食材につられて深い層をやりすぎた。


 来ることができるんだからしょうがない。酒という餌もあるので、まんまと深層を目指している。


 おかしいな? 生産もどきでだらだら生活しようとしていたのだが。その前の自給自足はたけの失敗がいけなかったのだろうか。何か現役時代より真面目に魔物を倒している気がする。


 蛇もどきのドロップは『オルリヌスの鱗』『オルリヌス粘液』――オルリヌスという名だったのか、蛇もどき。鱗やら粘液やら牙やらはどうでもいい。


 『奈良県の苺』『栃木県の苺』『福岡の苺』『昔の苺』。お前やっぱりナメクジじゃないのか? 苺食うよな? それは置いておいて、『昔の苺』って何だ? 品種改良前か?


 苺なら700前後あっても市のダンジョンで【開封】できるだろうか? 人にちょっとしたお礼として贈るには手頃な果物だ。初夏には露路ものが出回るし、ドロップするダンジョンもそこそこある。バナナのように高級すぎず、かと言って安いというほどでもない。


 なにより市のダンジョンや、この近辺のダンジョンでは出ない。魚のように貰って処理に困るようなこともないだろうし。


 ……これで、道中の魔物が落としてくれたら扱い易いのに。リトルコアより道中の魔物の種類を増やしてもらった方がよかっただろうかと、今更後悔している。


 とりあえず本日はここで終了。


 75層の魔物のドロップは『氷見の寒ぶり』『羅臼の鰤』『淡路の鰤』と鰤食べ比べ。チーズ食べ比べ。そして謎の『久寿』『金兵衛』『藤九郎』。


 絵からして恐らく銀杏? まったく自信がないが、一つ【開封】してみればわかる。


 73層でアイナメ、お高いだろう地名のついた牛、松茸が出ている。牛は解体してもらわんことにはどうしようもないが。


 スダチとカボスはあるので松茸を焼こう。アイナメは甘めの煮付けにでもして、日本酒を――いや、飲みすぎたばかりだった。いかん、いかん。


 一部屋目に戻って、ドロップカードの整理。浅い層も回るのは、食材のドロップ補充のためでもあるが、『強化』カードの収集のため。


 【収納】をメインに強化。どうも私は溜め込んでしまう癖があり、収納枠が増えた分だけ詰めてしまう。荷物がぎりぎりなのはこの先も変わらんだろう。なにせ、魔物から奪った能力を封じたカードは攻撃手段でもあるわけだから。


 いえ、嘘です。整理整頓が苦手なだけです。一度に回りすぎてドロップ品でぎゅうぎゅうになってるんです。


 真面目な話、【収納】を強化のメインにしたのは収納量を増やすためだけでなく、出し入れできる範囲が広がる分岐を選んだからだ。距離を置いたまま、魔物の頭上にカードを出せれば、攻撃手段として大変便利になる。


 怠惰な戦闘スタイルになりそうだが。


 ……日本刀を強化。あ、【魔月神まがつかみ】の分岐来た。

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