第87話 酒器

 酒の翌日の朝食はビスケットと牛乳。


 だいたいこれが定番である。決めておけば悩むこともないし、胃の方も準備ができるようで、しっくりくる。


 朝の白い陽が射す中、風呂に入って朝寝。一人暮らしの気楽さよ。


 関前さんがあそこまで酒に強いとは思わなかった。鷹見さんは大丈夫だろうか? 市のダンジョン、生産ブースをもう少し居心地良く整えるか。だが、さすがに風呂はつけられないし、家で寝たい。


 少し冷んやりしたシーツが、風呂上がりの体温で暖まってゆくのが気持ちいい。


 ――朝寝を決めて、ずいぶん陽が高くなってから起きる。昼時を少し過ぎたあたり。起きぬけなので、胃に優しいものを食おう。昨夜は飲んだのも飲んだが、食べたことも食べた。


 とっくに消化はしているが、気分的に食事は控えめに。今日は沢歩きしてないしな。


 玉ねぎをバターで炒める。水を加えてベーコンと半分に切ったジャガイモを追加して煮る。塩胡椒で味を整えて、ゴーダチーズを散らす。ジャガイモは例によって柊さんからの頂き物である。


 イモ類はなんとなく秋のイメージだったのだが、春植えと秋植えがあるらしく、年二回の収穫だった。あとこいつら、油断するとすぐ芽をだしたりしおしおしたりするんだが、どうしたものか。


 紙袋に入れて土間に置いておくのだが、ちょっと気温が高くなると芽が出てソラニンどく生成、低温になるとアクリルアミドどく生成。保存が簡単なようでいて我儘である。


 まあだが、チーズとバターが使い放題なので勝利……! 大変よろしい。


 本を読みながら食休して、掃除。その後、運動。外は暑いので出る気はないが、真面目に腕立てと腹筋。そして再びシャワー。


 メールのチェック。


 鷹見さんから、昨日の酒の話。直接話したことの要点のまとめと、ごちそうさまの挨拶。


 よかった、メールを送ってくるくらいには元気だ。


 要点のまとめは、酒の種類の検証と取扱方法。飲食店にギルドを通して売ることと、優先的に回して欲しい店のリストなど。酔わないうちに話し合ったことの確認と補足。


 昨夜の醜態の詫びが少々。少し支えて歩いただけで、たいして迷惑はかけられておらんのだが。からみ酒でもないし、脱ぎ出すわけでもないし、踏んでくださいとにじり寄ってくるわけでもなく、眠そうで足元がおぼつかなくなる至って平和な酔っ払いである。


 別なフリーメールのチェック。


 スズカから、次に集まる候補日がいくつかと、公開前の動画アドレス。とりあえず見たが、なんか執拗に手が映ってるシーンが多い気がするのだが、私がスズカのフェチを知っているから気になるだけだろうか。


 まあ、私は手しか映っていないのでよしとする。レンの服の一部リードを途中から持ってるのが間抜けだが。


 次は、レンとユキから。


 ……ハーネスの写真を送ってくるな。私にどうしろというんだ! 一馬あたりに選んでもらえ。画面映りを気にするならスズカとか。


 双子の中でもうハーネスが決定したのか。いや、冗談……か? 若者の感性はわからんので勘弁していただきたい。


 メール、諾否以外も書かねばならんのか。みんな何を書いてるんだ? 挨拶と要件だけではダメだろうか。 


 それぞれにメールを返し、チェックを終える。ハーネスについては「私に聞くな」の一言である。双子からのメールの内容、一言で返すことに罪悪感がないことだけは評価する。


 気を取り直してオークションで酒器を見る。


 関前さん曰く、酒器で味の感じ方が違うという。


 筒型のような口が閉じている物は甘味と凝縮感、平盃のような口が広がっている物は酸味と爽やかさ。昼間のお椀型はどちらもバランスよくほどほど。大きさも、大きいと香りが立ってスッキリする、小ぶりだと凝縮感がある。


 陶器と磁器で茶の味も違って感じるのだから、酒の味が変わるのも当然といえば当然か。いかん、うっかりコレクションし始めてしまいそうだ。


 納屋にある食器を売り払っている店、酒器も扱っておらんかな? 明日あたり何点か売りに行きながら見てこよう。


 というか、今まで納屋に詰め込まれた食器、酒器は漆器しか見たことがない。一点ものっぽい陶器もあったが、大体5客組の揃いの皿や、ティーカップ、コーヒーカップあたりだ。


 ぐい呑みやら猪口やらが欲しいところだが、個人ではなく家宛に贈るとそうなるか。飲まない家族も使えるように。大体何かの引き出物でもらった物のようだし。


 夕方、家庭菜園と庭に水を撒く。夕立を期待していたのだが、降ってくれなかった。


 夕食後はダンジョン。魔物が復活した浅い層を適当に流して、本日は終了。


 おやすみなさい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る