第50話 弁当

 47層は『イベリコ豚』『マンガリッツァ豚』『バスク豚』『金華豚』『三元豚』……、『マカジキ』『クロカジキ』……、という重量級だった。


 さすがに倒すのは道中だけでいい、となって、見つけた階段をすぐに降りた。


 出現した魔物はイノシシにツノが生えたような、赤黒い炎をまとった姿をしていた。


 おそらくまとっていたのは闇と光と炎の3種類、攻撃方法的に。闇と炎は突進してくるタイプ、おそらく触れるとそれぞれの属性ダメージ。光は光弾を飛ばしてくる。


 おそらくだらけだが、攻撃は避けているし、魔物本体も光弾も含めて全部赤黒いんで、まとったものの形というか、ゆらぎの様子から推測しとるだけなので。あ、光弾は能力を収集したので確実だ。


 スライムはどうでもいい。ドロップが薬草系や鉱石系であまり大きくないものなので、リトルコアのドロップに期待。道中に期待する食材ドロップとは正反対だな。


 スライムの持つ能力は多彩なので、ある程度は能力を奪ってストックしておきたい気持ちはある。具体的にいうと、【収納】のひと枠分、99枚のカードをストックしたい。


 これは始めてしまうと、つい集めるのに夢中になってしまうので、自重。


 新しく出会った敵の、能力を確認するために少しだけ奪って、確認してさっさと使ってしまう。でないと半端な能力カードで【収納】が埋まる。


 次に来た49層は、『オニオコゼ』をはじめとしたオコゼ類、キチジ類。そしてタコ! 『マダコ』『イイダコ』『ミズダコ』。


 オコゼを出す魔物も、キチジを出す魔物も、タコを出す魔物も、おそらく色と模様を周囲に合わせて変わる擬態系。近づくと毒針を飛ばしてきたり、吸盤のついた足で絡めとろうとしてくる。


 オコゼは煮魚だろうか、唐揚げだろうか。タコ料理も調べねば。キチジはキンキか? 海辺に派遣されていた時に、蒲鉾を作るのに使われていたような?


 私、イレイサー関係以外は、海から上がってきたリトルコア討伐の補助に駆り出されることも多かったので、魚系は少し調べているのだが、まだまだだ。魚ももっと、さらに肉系も学習せねば。


 ――ちゃんと仕事もこなしたぞ? 名物を食ったり、【収納】する食材の吟味をしたりの方が長かったのは認めるが。


 リトルコアのスキルを、隠れて止める簡単なお仕事だったしな。倒すのは地元の勇者たち、その方がそこに住む人が安心して地方が安定する。


 魚は関前さんに回したいのだが、ここは堪えて先に進もう。せめて50層をクリアしてからだ。


 そう思って足を進めると、ダチョウのような孔雀のようなモノが走ってきた。地を蹴る爪は鋭く、口から火の玉を吐き、それを追うように走り込んでくる。


 火の玉で、私が避ける場所を制限したのか。ダンジョンには広間と呼ばれる広い場所もあるが、大抵の場所は洞窟というか通路というか、狭い。狭く、動ける場所が限られる。


 苦無で首を落としても、絶対コイツはそのまま走ってくるんだろう? 知ってる。なのでまず足を壊し、ふらつき狙いが定まらないまま突っ込んできたところを、日本刀で首を斬る。


 牛よりは細いのもあって、今度はきちんと斬り落とすことができた。それでも2、3歩走っていったが。


 鶏肉系かな? 回収したらさっさと進むつもりでドロップカードを見る。

 『ターキー』――七面鳥か。このカードを落とした、先ほどの魔物とは似ていないシルエット。食ったことはないが、丸焼きのイメージはある。他のカードも七面鳥類か?


 『ワイルド・ターキー』――野生の七面鳥……にしてはイラストは瓶? 『ワイルド・ターキー8年』『ワイルド・ターキー樽』。酒、酒だなこれ!?


 ちょっと待て、黒猫! ターキーの単語がかぶってるだけだろうが! いい加減な! 大変ありがとうございます! いや、違う! ドロップがおかしい!


 混乱気味に鳥の魔物を探して、自ら突進する私。好みの酒ではないかもしれんが、ガラス瓶入りの酒なら棚に並べたいよな?


 

 そんなこんなで、50層リトルコア前で休憩中。階段を見て、正気に戻って大人しくリトルコアだ。回るのは、黒猫の言っていた能力カードを手に入れてから!


 1層あたり1時間と少し、相変わらずスライムは走り抜け、他は欲望に負けてウロウロしそうになりながらなので、ずいぶん時間に偏りがあるのだが、平均するとそれくらいだ。


 休憩して体力を回復させたら50層のリトルコアだ。スライムなのは確定として、50層からは敵もまた強くなる。赤黒いと、見ただけではどんなスライムなのか判別がつかんので、どうしても最初は様子見になる。


 なかなか面倒だが仕方がない、そう思いながら弁当を出す。スライムはドロップが楽しくないから、相手にするのが少し面倒臭いのだ。いや、イレイサーへ回す薬や弾丸の素材が結構な数で出るので、助かっている。


 白いご飯に心持ち濃い目に味をつけた鶏の照り焼きが載る。他のおかずとの境界に青紫蘇の緑、オレンジで味付けしたニンジンのサラダ、シシトウと茄子のピリ辛炒め、半分に切った茹で卵の白と黄色。


 大き目の木の弁当箱である。スライム製品――昔のプラスチックの代用――と比べて汁垂れしやすいのだが、【収納】してしまえば問題ない。木は、炊きたてのごはんに含まれる水分をほど良く吸収してくれる。


 ウレタン塗装は手入れがしやすいが、だったら最初からスライム製品でいい。弁当のふっくらごはんのためなら、手入れの手間くらいなんでもない。


 そういうわけで、白木のまげわっぱと、漆塗りのまげわっぱが手元にある。オークションで買った、どちらも同じ製作者のものだ。今日は漆塗りの方。


 照り焼きの甘辛。この場合の辛いは「しょっぱい」だ、とてもごはんに合う。この照り焼きも、次回は地鶏でできるのか。楽しみすぎる。


 茄子とシシトウのピリ辛、こちらは「辛い」。わざと塊を残した挽肉が、口の中でホロリと崩れる。茄子を紫蘇で包んで食べるのも味が変わっていい。こちらもうっかりごはんが進んで足らなくなる。


 ニンジンサラダはオレンジが爽やかで、口の中がさっぱりする。弁当にすると料理が2割増美味く感じるか、2割増残念な感じになるかのどちらかなのだが、今日はうまくいった。


 さて、食休したらリトルコアだ。

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