第51話 望む能力カード
50層リトルコア。相変わらずの赤黒い影、形は鹿。
スライムは他の魔物の姿や能力を取り込むことがある――というか、深い層に出るスライムはそういうモノが多い。私はまだ遭ったことはないが、こちらの姿を盗むモノもいると聞く。
とても木の皮をひっぺがして食っているヤツとは思えないような叫びを上げて、突進してきた。鹿って鳥食うやつもいたな、そういえば。
その前に魔物だしな。
私の倍以上ある体高、張り出した肩、4本の大きなツノ、そのツノの重さに揺らがない首の筋肉。……いや、スライムなので筋肉は変か。赤黒いので本物の鹿の魔物と勘違いしそうになる。
鹿のツノに火球がいくつも
苦無を投げて鹿に傷をつけ、スキルを止める。『スキル奪取』は対象がスキルを使う準備に入ったタイミングで、どこかに傷をつけることが条件だ。もちろんスキルが完全に発動する前にだ。
傷をつけるのは、苦無の貫通力を重点的に上げたおかげで、だいたいなんとかなる。スキルの準備から発動まで、ほぼノータイムの魔物もいるが、有難いことにリトルコアが使用するスキルは大技が多く、準備動作がある。
この鹿の場合は、ツノに火球が灯ること。多分スキルを奪わなければ、こっちに向かってあの火球を飛ばしてきたのだろう。
スキルを奪うということは、スキルを止めること。対象が遥かに強いと上手くいかないこともあるが、便利な能力だ。
なんというか、戦闘補助には大変向いている。問題はソロでは倒す決め手が弱いこと。他のリトルコアから奪ったスキルを使えば簡単なんだが、それだとカードがどんどん減ってくだけだ。
そういうわけで、まずやるのは道中で奪った毒やら溶解やら細かいスキルカードの在庫一掃。【収納】整理ともいう。弱点と思しき場所への苦無の投擲――どっちが悪役なのか怪しいひどい絵面な戦闘だが、見ている者もおらんし気にしない。
弱点がもう少し小さいといいのだが。魔物らしく、例えば心臓を貫通しても半分以上を潰さねば倒せないパターンが多いのだ。そしてこの鹿は、鹿と見せかけてスライムなため、心臓というか弱点である核を、おそらくどこかに移動させた。
日本刀を強化せんと時間がかかってダメだな。くっそ面倒だ。『魔月神』は大技系を選択し鍛えれば、おそらくもう少しまともな戦闘になるはず。……私自身の能力が、速さと気力を中心に選んできたので、物理系の大技は力が乗らずに使いこなせないかもしれんが。
レベルアップがまた可能になったとはいえ、十数年かけて上げたものに早々追いつけるわけもなく。上乗せされているのだから文句はないが。
仕事を辞める時、装備一式返してしまったが、武器は知らんふりして持ち出せばよかった。このダンジョンは『強化のカード』が出やすいとはいえ、果たしてあのレベルまで強化ができるのかどうか。
代々受け継がれ、その時々の持ち主が強化を繰り返した政府管理のダンジョンの武器。50年前に突然現れたダンジョン、だが政府の所有していた武器はもっと前から存在していた。
おそらく、ダンジョンは一般に知られるもっと前からあり、各国の政府によって隠されていた。民間より強い装備、早い順応……、まあ、混乱が抑えられてなによりなので、それを糾弾するつもりはない。
政府に信頼をよせてるわけじゃないが、個人や民間会社が変に主導権をとるよりはいい。建前でも一応全国に意識を向けとるしな。
退職金代わりに使っていた武器をくれれば、もっと敬ってやってもいいんだが。あれがあれば――いや、待て。スローライフ、スローライフ。
草と虫の襲来さえなければ、理想的な家と理想的な環境で、自分の時間を使っているんだ。今はこのダンジョンで忙しいが。
見晴らしのいい山の家、空、遠くに海。ほどよい距離感のご近所、気ままな一人暮らし。旨い食材、採れたての野菜、遠い大地の肉、深い海の魚――。それらを食うことは、まさに自然と一体!
いや、違うが。
考え事をしながら、鹿から慎重に距離を取って苦無を投げることを繰り返していると、鹿が光の粒になって消えた。
このスライムのドロップはこの前後の層で出そうな物を落とすこともあれば、姿を盗んだ魔物のドロップを落とすこともある。本当に雑多なのだ。
まあ、このダンジョンには法則がある。奇数層は俺が望む物、偶数層はイレイサーが望んだか、イレイサーの役に立つ物。おそらく薬か、弾丸に使う材料が中心。
――が、あのイレイサー、ダンジョン攻略が初めてと言う変わり種で、必要とする物の方向性が曖昧だったようだ。黒猫が一回修正してくれたわけだが、それはイレイサーのダンジョンであって、私のダンジョンではない。
私のダンジョンの修正は、私の望み。その望みに従い、末尾5の層にスライム以外のリトルコアが出るようになった。
そういうわけで、当初のふんわりしたイレイサーの願いのまま、このダンジョンのスライムのドロップは本当にカオスで何が出るかわからない。
もう偶数層はどうでも良くなっているのでいいのだが。
目の前に浮かぶ5枚のカード、リトルコアの倒れた場所に浮かぶ15枚のカード。近くに浮かぶ物は個人カードで他のものには見ることも叶わない。
ここに黒猫との約束の能力カードが浮かんでいる。おそらく、これで赤黒い魔物相手でも、弱点の場所がわかりやすくなるはず。
「『
なんの能力だこれ?
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