第52話 肉と酒

天人合一てんじんごういつ」ならばともかく、天地?


 天と人とは理を媒介にして一つながりだと考える、古代中国の思想。天と人間とは本来的に合一性をもつ、あるいは、人は天に合一すべきもの。


 それの一字違い。似たような意味か? どんな能力かさっぱりわからんのだが。

 

 レベルアップと能力のカードは、【収納】ができない。というか、触れようとして触れるとカードが開いはつどうしてしまう。


 それは指先でもコートの裏地でも一緒――だと思う。レベルアップカードでは実験しているのだが、能力カードでは試したことがないので断言はできない。


 リトルコアからの能力は『変転具』に登録される。登録された能力の数で強化が割られる感じなため、覚えた数が多いほど個々の能力は育ちが遅い。


 『強化カード』が落ちやすいとはいえ、できれば覚える能力は絞りたい。触れずにこの層を出てしまうか? この能力はパスする?


 「報酬のダンジョンでは対象を倒す上でアンタらが必要だと思うカード」だと黒猫は言った。一応リトルコアの倒れた場所にある、共通のドロップカードも覗いてみたが、他に能力カードは見当たらない。


 ついでに能力カード以外を回収。『火炎鹿の魔石』『リトルコアの魔石』あたりは必ず、誰でも触れられる15枚のカードの中に出る。代わりに『鍵』はその個人にしか触れられない5枚のカードの中だ。


 『火炎鹿の皮』『火炎鹿の角』『火炎鹿の薬角くすりつの』『火炎鹿の火薬』『ファイアオパール』『火炎鹿』『火炎鹿の――。


 ん? 『火炎鹿』? 


 これが丸のまま出るのはまずいのではないのか? いや、角やら皮やら解体された肉は出ることが普通だし、いい、のか?


 とりあえずこれは外に出さんようにしよう。自分が動揺するようなものを、食い物ならともかく外に出すつもりはない。ダンジョン1部屋目の棚にでも放り込んで保留だ。


 本題に戻ろう、能力カードだ。


 「報酬のダンジョンでは」という限定が微妙だが、ダンジョンでは聖獣の言葉には従っておいた方がいい、はず。今のところ細かいところはともかく、このダンジョンは私の望み通りだ。


 コートの裾を翻す。


 コートに包まれるカードに【収納】を発動。



『【天地合一】。己れを天地と一体化させ、気配を探る』



 いやまて。


 私は魔物の弱点の場所が知りたかっただけで、そんな壮大な物は望んでいない。というか、リトルコアから出た能力カードのものは成長がくっそ遅い。これは名前的に絶対晩成型というオチだろう? 


 覚えてしまったものは仕方がない。せいぜい活用させてもらおう……活用できるまで育つといいな。


 それにしても予想通りの検証結果だったな。触れる意思があれば、触れたのがコートの裏地でも能力カードは開いてしまう。触れるというか、そのカードを望む意思と言ったほうがいいか。


 『帰還の翼』が出た。レアだが、初めて踏み入れるダンジョンの一度目の50層では必ず出る。使いたい気持ちを押し留め、次回のために楔を打って歩いて戻る。


 帰りに地鶏がいるしな! とりあえずの目的は達成したので、狩って帰ろう。魚も仕入れておかんと。


 【天地合一】はよくわからんかった。高レベルな魔物相手にはまだ弾かれているのかもしれないが、それより範囲が狭すぎる。触れていないと効果がない。さすがに魔物と密着する気はないので、これも強化待ちである。


 49層でせっせとワイルドターキーを狩り、タコを狩り、キチジを狩り――いや、狩ったのは魔物だが。酒が出ることが分かってしまったので、50層以降も早く進めたい。


 だが安全のためにも、ある程度レベルアップと強化をせねば。


 時間が許す限り食材を狩りながら、上に戻る。1部屋目でカードの整理、スライムから出た『リトルコアの魔石』は毎回棚に放り込んでいる。


 素材はほぼ自分で生産に使って消費しているし、ダンジョンの進捗が半分の25層だと思われているといいな、という姑息な判断だ。


 で、ワイルドターキーを【開封】。封のしてある瓶、中の琥珀色の液体。ドロップした瓶を棚に並べて悦に入る。そのうちこの棚を酒でいっぱいにしたい。


 樽も3つ出してみた、こちらはイレイサーとアイテムのやり取りをする木箱のそばに積み上げた。さすがに開ける気はないが、ディスプレイとしていい感じだ。


 で、ステーキで飲んでいる。検索して、どうやら鹿肉や羊肉など少しクセというか野生の匂いがあるほうがいいと出た。牛でも分厚いステーキは合う、とも。


 で、すぐ食べられる状態のものが牛肉しかなかった。夜もだいぶ遅いのだが、初めて飲む酒だし、仕方がない。分厚いステーキだ。


 ミディアムレアのステーキ、こんがり焼けた外側、中は綺麗な赤。脂は少なめを選んだので、分厚く切った肉はもちっとした噛みごたえがあって、肉汁が広がる。


 そこにワイルドターキーをロックで。肉の余韻が酒の匂いと混じって口内に広がる。


 それにしても、これ、グラス買わんといかんな。また欲しいものが増えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る