第67話 環境の変化
収穫を終え、柊さんの家でお茶をいただく。
さすがに6人がかりだったので、昼を少し回ったくらいで終わった。ネットやらケースやら、事前準備が済んでいたからもあるが。梅をメインでやっているところはもっとすごいんだろうな。
梅は数日塩に漬けられ、赤紫蘇を加えさらに数日、天日干しを数日。出来上がるのは四週間ほど先らしい。
「梅のヘタを取るのが面倒なんだよな」
「私、取るの割と好き。竹串でこうとるんだよね」
蓮花が竹串を持つ真似をして、手首をひねる。蓮花も細かい作業をするのが意外だ。
「蓮は竹串握るのやめてほしい、いつか貫通しそうで見てると不安で」
「……」
雪杜の言葉に無言で視線を逸らす椿。
待て。貫通って梅の実と手とどっちのことだ?
「ああ。この2人はな……」
また微妙な表情になる一馬。
椿、お前もか!
お茶を飲み終え、解散。これから一馬たちは話題の梅のヘタ取りらしい。
梅干しは減塩タイプと普通のもの、蜂蜜漬けを作ってくれるそうだ。赤紫蘇で赤く染まった梅と見せかけて、蓮花と椿の血だったらどうしよう。呪いの梅にならんことを祈る。
そして持たされる肥料の空袋に入れられた野菜。
大変ありがたいが、一人暮らしに容赦のない量である。肥料袋は丈夫であるが、持ち運びしやすいようにできていないので、感覚的に重さ倍増。
私の握力と腕力は70代の老人に負けるのだろうか。一応、生身でも素振りやらなにやらやっていた経験があるのだが。うん、他の体育会系のノリについていけず、最低限のノルマをこなしてあとは素振りと称して隅でサボってただけだな。
ただの素振りより、土に打ち込む鍬の方が力が入りそうだし順当かもしれん。というか、柊さんも剣術はやっていそうだ。
佐々木家はもともと道場をやっており、ダンジョン出現後の格闘や剣術教室の流行りに乗った。椿と一馬の両親は、道場を街に移してそちらにいるらしい。
その話を聞いた時、柊さんの体型や姿勢から、その道場に通っていたのではないかと思ったのだ。親戚だし、近いし。
佐々木家には今でも黒光する床の道場があるらしく、椿がそこで型をなぞっている動画があった気がする。
ようやく家に到着し、土間で肥料袋をひっくり返す。ビニール袋に詰め替えて冷蔵庫、紙に包んで冷蔵庫。冷蔵庫圧迫問題が解決しない。
いつもより雑に処理をして、シャワーで汗を流し着替えてソファで伸びる。履いていた靴の手入れは後だ。ようやく横になって体を伸ばせる!
そして寝落ちた。
もそもそと起き出し、軽いストレッチ。さて、完全に昼の時間からズレているが、飯を食おう。
チャーシューと煮卵を作ってあるので、チャーシュー丼で簡単にすませることにする。飯を炊く間、タレと白髪ネギを作る。頂いた、砕いた梅をつけたカリカリ梅を出して準備は完了。
……一人分とはいえ、流石に炊き上がるまでもう少しあるな。味噌汁もつけとくか。野菜が不足してる気がするが、本日はもう面倒なことはしたくない。うん、アサリの味噌汁は具材を切る工程がないので楽。
炊き上がったごはんにチャーシューを載せて、タレをかけ、白髪ネギと半熟の煮卵を載せる。鰹だしも昆布だしも好きなだけ使えるようになったので、美味しくできている。
塩と砂糖は出ているので、醤油もほしい。酒は最悪、黒猫にダンジョン移動を頼んで取ってこよう。そのダンジョン、『覚えの楔』が打ち込んである場所は、それなりに深い階層なので新しい装備が出来上がってからだが。
味噌汁に散らすアサツキを刻み――カードから【開封】したものが多めだったので、残りも全部刻んで容器に入れて冷蔵庫へ。
厚く切った柔らかなチャーシューとごはん、ねっとりと流れる黄身、しつこく感じる前にカリカリとした甘酸っぱいような味の梅で口直し。あさりの味噌汁もいい具合。
……柊家は誰が飯を作っているのだろう? 柊さんか雪杜なのか? 柊さんは一人暮らしをしていたので、料理はできるはず。
冷蔵庫の圧迫具合を考えると、酒や氷砂糖ではなく、魚の半身やらを調理しやすい切り身にして贈った方がいい気がしてきたのだが、許されるだろうか。
市のダンジョンに流しているものだし、行ける気がする。肉を贈るのが定番だったのだが、変更を考えている。
今までほとんど交流がなかったので思い至らなかったが、よく考えると市のダンジョンの深い層の牛肉やらは、ツバキとカズマが狩っている本人なのだ。私だって、私が市場に流した魚が返ってきたら微妙な気になる。
イレイサーが柊家に戻ってきてからというもの、佐々木家の2人もちらちらと姿を見かけるようになった。
一馬は一人暮らしも女遊びもやめて、戻ってきているっぽい。椿はあまり外歩きをしなかったのが、イレイサーと一馬の3人につられて外出が多くなった感じか。
徒歩圏に3家しかないせいで、交流を持たないのは田舎暮らしには難易度が高すぎる。お前ら、畑やら手伝ってないで若者らしく繁華街に行け、繁華街に。ダンジョンに通い、金を得て遊ぶのが若者だろう。
――イレイサーの二人のメインダンジョンは家だったな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます