第66話 梅の実の収穫

 動画に微妙に精神を削られたが、気にしないことにしよう。時々情報は拾うが、関わらない方向で。


 が。


 本日は、柊さんに梅の実の収穫に誘われている。昨年梅干しを頂いていて、本年も期待している身としては参加一択である。虫除けも塗ったし、準備は万端。


 約束の時間に柊さんの家に行くと、柊さんの他、イレイサーの二人、椿と一馬までいた。半分予想はしていたが、勢揃いだ。


「よろしくお願いします」

「おう。こっちこそ頼む」


 柊さんはプラスチックの四角い折り畳みのケースを車に積み終えたところ。梅は結構大量で、自家消費分を取り分け、余ったものは市のダンジョンの物産販売に卸しているのだそうだ。


「改めて孫の蓮花と言います、よろしくお願いします」

「雪杜です」

「滝月です」


 にこやかに挨拶を交わしながら観察する。生身のイレイサーも双子なだけあってよく似ている。


 そして納得いかんことに、蓮花がおとなしやかに見える。というか、話し方も落ちついていて控えめだ。何故だ。


 貴様、山から滑り降りて来ただろう? 祖父向け孫演技か? いや、山の中でも後半は割と静かだったような……?


 雪杜の方の印象はあまり変わらない。なんかこう、線が細く色白、憂いを含んで整った顔。その憂いはもしかしてレンのやらかしのせいか? 配信でも見た表情なんだが。


「よろしく」

「今日はよろしくお願いします」

一馬が短く、椿が薄い笑顔を浮かべて言う。


 薄い笑いに今日も圧がある。親戚の行事に混ぜてもらってすまんな。一馬を盾にしよう。


 それぞれ挨拶して、梅林に向かう。私は通ってきたので、戻るような状態だが。柊さんは車で向かうので別行動。


「匂いは甘いのに、かじったらちょっと酸っぱいし苦いよね」

「皮を剥けば、そうでもないぜ」


 蓮花と一馬の会話。


 食ったことあるのか……。言葉からして、蓮花は拾い食いの気配がする。


 しばらく前、いい匂いをさせていた白い花は今は実にかわり、黄色く色づき所々赤く、今度はそのまま齧りたくなるような美味しそうな匂いをさせている。


 青梅は毒だが、完熟は食べられる。だが、生で食う話はあまり聞かんのを考えると、そう美味いものではない気配。いい匂いだが、杏やスモモ系の味で加工向きなのだろうな。


 梅の木の下にはそれぞれ青いネットが張られており、自然に落ちた梅が溜まっている。まずはこれを集めてプラスチックケースに入れてゆく。あと、ちょっと揺らして落ちるものは、同じくネットの上に落として詰める。


 単純な仕事だ。


 うん。かがんだり、中途半端な中腰やらでキッツイ。ケースがいっぱいになったら、車に積み込み、新しいケースを受け取ってまた詰める。広い見事な梅林は、当然ながら実をつけた梅の木が立ち並び――無限地獄か何かか?


 重量があるので、柊さんは車で家と往復を何度か。自家消費分は、佐々木家に運び込まれ、漬物上手の佐々木さんが梅干しにするのを一手に引き受けてくれるらしい。


 ちなみにネットを張った時、青梅を収穫して梅酒と梅のシロップ漬け、カリカリ梅を作ったそうで、それはすでにひと瓶ずつ頂いている。酒も氷砂糖も高いのに。


 来年は梅の花が咲く頃に、酒と氷砂糖を贈ろう。――催促に思われるかな? 難しいところだ。腐るものでもないし、いっそのことすぐに贈ろうか。


「疲れませんか?」

「大丈夫です」

ダメです。


 椿の問いかけにそう答えるが、本音はダメだ。長時間かがんだまま前進するとか、なんの障害物訓練なのだ? 


 だがしかし、一馬と椿が普通にしているのでダメとはいえない何か。年のせいにしたい気もするが、柊さんは私の倍以上である。


 普通、普通の筋トレ的なものであればなんとかついていける気はするんです。でもこの格好は痛いと言うか、膝と腰が固まる……っ!


 蓮花と雪杜は暑さに負けて、木陰で休んでいる。一緒に休めばよかったのだが、イレイサーとはなるべく距離を置きたいので、話す機会は潰しておきたい。それといらん見栄もあり作業を続けている。


 疲れたのには、椿との間に一馬を挟むか、距離をとるように動いたせいもある。いい加減自然に見せかけるには無理がある気がして、途中で諦めたが。


 別に悪感情はないのだが、よくわからん圧と、向けられる視線が探られているようでどうも落ち着かん。あと、なんで椿は汗をかいておらんのか謎だ。


 一馬曰く、好意を持たれているらしいが、とてもそんな気配とは思えん。


「……本当だ。椿が丁寧に話してる」

「単純に年上だからじゃないかな?」

「だって、顔に力が入ってるよ?」

「……なんであんな固まった顔になるんだろうね?」


 蓮花と雪杜が言い合うのが聞こえてくる。やはり私に向けてくる顔、おかしいよな? 薄い笑顔の能面というかなんというか。和風美人なことが、ますます圧に拍車をかけている気がする。


 2人の会話を聞いた一馬がこっちを見てきたのだが、なんでそんな憐れむような微妙な顔なのだ? お前の姉だろう?

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