第65話 動画視聴
一撃で倒せる層では、足を止めることもないので、魔物を倒しているというよりは、マップを隈なく回るために走っている気になる。
新たに得た能力も使って行きたいところだが、とりあえず『強化』のカードを集めることを優先。
それに【収納】はともかく、能力は弱い敵相手よりも、強い敵相手に使用したほうが、どんな分岐先が望ましいかはっきりする。
浅い層はさっさと済ませるに限る。
先の層のために、能力を集めねばならん場所は少々面倒。奪うためには、魔物が能力を使ってくるのを待つなり誘発しなければいけない。
決して酒のドロップに期待して、50層をこえないこと。誘惑に負けるのも、飽きるのもダメ。何も考えずに回るんだ、私!
そういうわけで、週に1度は市のダンジョンに行き、薬の生産と納品、買い出し、外食。2週間に1度は弾丸作り。その他の日は、庭と菜園の手入れ、家のこと、ダンジョンである。
ちゃんと生身の運動もルーティンに入れている。たるんたるんは回避されつつある……はず。もともと着痩せするので外から見てもわからんだろうが。
で、イレイサー周りの情報収集も弾丸を作った日にするようにしている。というか、弾丸を作っていて思い出して、ネットを覗くプレイ。
イレイサーがツバキ、カズマと配信を始めたぞ? イレイサーの姿ではなく、基本の『化身』でだが。
ダンジョン初心者の2人と攻略者2人の市のダンジョン攻略動画。
艶のある真っ黒な直毛でスレンダーなツバキ。ピンクラベンダーの柔らかくうねる髪、小柄な割りに胸のある肢体にハイネックの白いローブをまとうレン。
短髪でススキ色――じゃないごく淡い金髪、厚みのある巨漢のカズマ。柔らかな黒髪で女性と見間違いそうな線の細さを持つ儚げなユキ。
絵面的な対比は悪くない。
「レンです! ようやくレベル10になったよ!」
鈴を転がす声でレン。
「ユキです。レンと同じく、レベル10になりました」
落ち着いた声でユキ。
ユキの印象はより女顔だが、まあ、そう変わらん。問題はレンだ、姿と声が変わるとこうも印象操作を受けるのか。
視聴者の入れたらしい字幕に、可憐やら健気やらおかしな文字が踊っている。誰だか知らんが、大丈夫かお前たち?
というか、隠したいのではなかったのか? 何故身バレする危険を冒す? いや、隠したいのはイレイサーだということで、生身の情報はいいのか? お前らストーカーがどうとか言ってなかったか?
いや、家族ぐるみで付き合いがあったのなら、青葉の2人はそもそも
もしかしたら、勇者としてあっちの県内で人気な青葉に対抗して、こっちで周囲に味方を増やす気なのかもしれんな。
過去をざっと調べた限り、知らない住民まで周りは青葉の味方っぽい雰囲気で、イレイサーが以前住んでいた場所は完全にアウェイ。
それを経験して、青葉がちょっかい出してくる前に、周囲に味方を増やしてホームにしようと画策しているのかもしれない。
「ツバキだ。ダンジョン攻略の合間にあげる、友人との気楽な動画2本目、よろしく頼む」
相変わらずあまり表情を変えずに話すツバキ。
「カズマだ。よろしくな」
短い挨拶の中にも何故か困ったような気配が漂うカズマ。
どちらにも黄色い歓声的な字幕が流れる。この2人、この市のダンジョンでは有望な冒険者であるし、この県で配信含めて名前が上がる冒険者と比べて、見栄えがいい。
それぞれ自分の住む県の冒険者を県民が推して、競っているようなところがあるので、ツバキとカズマが配信を始めたのならば盛り上がるし、喜ばれるだろう。
配信で有名になって味方を増やす気ならば、人選は正しい。そして、いつ撮ったのだか知らんが配信は2回目らしい。
見た目おとなしやかなレンが、あの単純明快そうな中身そのままに敵に突っ込んでいって、カズマが悲鳴をあげているが。なるほど、カズマの困惑の理由はこれか。
イレイサーはこの基本の『化身』分もステータスが底上げされ、その能力も使える。レベルアップもしやすく、上昇値もイレイサーの値だけだが高い。
イレイサーは強い。が、基本の『生身』は一般と同じ条件である。
つまり、動画をいつ撮ったのだか知らんが、レンとユキはレベル10の初心者だ。そして世間一般よりもダンジョンの知識に乏しい。
レンは二丁銃――中距離での闘い方の方が向いているはずなのに、近接職並に前のめり。魔物との位置関係が近い。
カズマが慌て、字幕には悲鳴と笑いが溢れる。
ツバキは基本手を出さず、レンのフォローはカズマに任せているらしい。時々カズマの慌てように愉快そうにしている。
ユキは困った様子でレンを諫めているが、基本の『化身』は魔法特化らしく、こちらはきちんと距離をとっているため、ドタバタしていないと言うか、カズマよりは冷静に見える。
レンの位置取りのクセは、もしかしてイレイサーでの武器がグローブだからか? あれは殴るのだから、近づかんとだめだからな。
イレイサーとしての方が、ダンジョンにいる時間が長いことによる
0距離射撃やめろ。
――何を見せられているのだろう、私。
情報は拾いたいが、なんか遠い目をしたくなる。カズマ、がんばれ。ちゃんとレンが適切に動けるよう、指導してやってくれ。ソレに強くなってもらわんと、私の都合が色々悪いのだ。
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