第27話 悩み

 本日はまた一層から。


 普通のダンジョンであればくまなく回る必要はないのだが、マアジ確保のためきっちり回る。『白地図』で地図を作ってあるのだが、道を全部覚えてしまいそうだ。


 スライムの出る偶数層はスルー、階段から階段までの最短を行く。ここまでのスライムのドロップは、珍しいモノでも高価なモノでもないので買った方が効率がいい。もしくは10層のリトルコアをやるか。


 鶏は回るが、玉ねぎは微妙だ。早く新しい階層を見たいので、今はパスするか。近隣の畑で作っているのと、葉物などに比べて保存がきくので手に入りやすい野菜だ。階段から階段へ移動する間に、自分で使う分には十分な量が集まる。


 12層。こちらもブルースライムで、町のダンジョンでは10層に到達する前に出てくる魔物。


 相変わらず赤黒いので、ブルーなことはドロップから判断している。たぶん、町のダンジョンのスライムより強めなのか? 正直違いがよく分からんのだが。


 ドロップは変わらず『青い薬草』がメイン、気力の回復薬に使う。あとは鉄と粘液とか。


 ……そっとブラウンスライムを混ぜるのはやめろ。倒す手間は変わらないが、ドロップでびっくりするわ! 


 『茶色の粘液』『茶色い薬草』『鉛』など。粘液は上と下が茶色い瓶が出来る。毒薬や毒消しなどを入れる瓶だ。普通の瓶に入れると溶ける、中に入れるものによって、瓶も変えるのだ。


 『茶色い薬草』は回復薬系を混ぜるために使う。例えば『生命』と『気力』がひと瓶で回復する。100回復するうち、50:50や30:70など調整もできる。ツバキたちの依頼で、時々作っている。


 13層の階段を見つけたところで戻る。この戻るのが微妙に面倒なのだが、仕方がない。昼飯を食べて出直す予定だ。


 ……そろそろ弁当を持って入ることにしよう。作るか? 流しはつけたが、他の設備を入れる必要がある。だが、可能だ、な? 足りない食材は市のダンジョンで買えばいい。


 また金がかかる。冷静になれ、私。市のダンジョンで弁当を買えばいいんだ。たとえそれがあまり美味しくなくても! 


 ……シャケ、シャケがこのダンジョンから出たら考慮しよう。うん。どうにも財布のひもが緩い。貯金はあるが、このダンジョンは消えるかもしれないのだし、それには手を付けず賄いたい。前借りだめ、絶対。


 イレイサーが倒すべき対象はほぼ確定した。SNSや動画で配信をしているやつらが多いので、昔のツテを使うまでもなく少し調べたらすぐだった。


 個人情報ばら撒きすぎだろうと思いつつ、ありがたく情報を拾わせてもらった。


 まずイレイサーはひいらぎ蓮花れんか、柊雪杜ゆきとの双子。名前から言っても確定、人のことはいえんが、もう少しひねれ。


 倒すべき対象は青葉あおば正義せいぎと青葉さくらのどちらか片方か、あるいは2人。


 レンの反応から青葉兄妹のどちらか片方は確定。ダンジョンの不正利用の末の研究成果・・・・ならば若くても理解できるが、実際に研究した者は年齢的に別にいると思われる。対象のもう1人は、その研究者の可能性もある。


 研究で生み出されたモノが対象なのか、その研究をした者が対象なのか――まあ、私はユキではなくレン側の協力者っぽいので、対象は青葉兄妹のどちらかだ。


 青葉の2人は1度、氾濫の時にリトルコアを仕留めている。県と協定を結んだ勇者で、そのためその県、特に青葉の通うダンジョン周辺では絶大な人気。


 大元の投稿は削除済みだが、『心配しています、少しでも情報を教えてください』で、柊双子の情報を募っていた跡がある。


 レンとユキの話からすると、青葉のどちらか、もしくは2人ともがストーカーで、身を隠しても青葉の信者と、善意のあんぽんたんのせいで居場所がバレるを2度ほどやっているらしい。おそらく個人情報も垂れ流されていたのだろう。


 なお、この辺りは青葉のアンチによりまとめられており、簡単に情報が拾えた。一応、裏付けもとったが、まあ、なんというか双子が可哀想と書きつつ、柊たちの情報もあげているのだから、どっちもどっちだ。


 柊たちがこちらに越して来たのは、両親が事故で亡くなったのをきっかけに、ストーカー優位な周囲から脱却してきたようだ。隣の家だったらしいし、ストーカーの立件も難しかったろう。


 こっちに引っ越す前に2度転居して、2度押しかけられてるようなので、弁護士を入れたのはその後のようだ。


 青葉の通うダンジョンは某大企業の持ち物だが、冒険者ギルドのダンジョンと同じく一般に開放している。その企業は、青葉、柊両家の親の勤め先の企業でもある。ダンジョンの禁忌を犯して何をしたいか知らんが、組織ぐるみなんだろうな、これ。


 この情報を政府側に流したとして、政府やつらはすぐイレイサーまで探り出しそうだ。黒猫の条件的に、イレイサーが誰だかバレるような行動は慎むべきだろうな。それに復帰しろとかまた絡んできたら面倒だ、黙っておく方向で。


 5年内になんとかなりそうもなければ私が倒したい誘惑にかられつつ、とりあえず情報だけは集めておく。自分の存在は隠した上で、相手のことをよく知っていれば、暗殺者に強さは必要ない。


 いや、もう引退したし。身分証も装備も返納したし。でもダンジョンから胡椒とか酒とかドロップしたらどうしよう。落ち着け、私。イワシのカードからシラスを選び出す作業に戻るんだ。


 シラスはマイワシやカタクチイワシの稚魚だ。集めておいてちりめんじゃこや釜揚げシラスを作りたい。あと薄く敷き詰めて焼きたい。


 カードの整理を終え、ダンジョンから出て昼の準備。白飯、汁物、シラスを生のまま生姜醤油で。翠を真似て、サバの味噌煮、卵焼きに漬物。


 うん、シラスの生は少し苦手だ。サバの味噌煮はご飯が進んだのだが、1匹分をいちどに食えないので残りは冷凍保存。


 やはりこう、2台目の冷蔵庫が欲しい。私の冷凍庫、正月にいただいた切り餅も入っているし、容量が足らん。


 柊さんにお裾分けできれば解決するんだが。料理済みを藤田さんやアイラさんに差し入れるのは微妙だし。もともと濃い人付き合いをするタイプではないので、お裾分けの相手がいない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る