第28話 試行錯誤
昼を食べ、ダンジョンへ。
13層の魔物はシルエット的に猪……いや、背の形を見る限り小型の豚。丸のままかどうかが分かる時が来た。
もそもそと地面の匂いを嗅いでいるようなしぐさ。こちらにはまだ気づいていない。魔物に対して久しぶりにどきどきするのだが。
わざと音をたてて近づき、魔物がこちらに気づいたところで【幻影回避】を回避目的ではなく使用して、距離を詰める。私の幻影に向かって突進して来た豚がすれ違った瞬間、刀を振り下ろす。
この魔物の生命がいくつか知らんが、浅い層の現実世界の生物と似た姿を持つ魔物は、体の構造も似たようなもの。首を落とせば死ぬ。強化していない武器なんで、思いのほか手に反動が来たが、魔物は光の粒に。
そしてドロップカード。
『白トリュフ』
――肉じゃないだと!? だいぶ予想外だが、これはこれでいい。ただ食ったことがないので、喜んでよいのかどうかは微妙。ダンジョン以前の記事を読む限り、珍重された旨いものらしいが、味より香りの印象を受けている。好き嫌いというか、好きとどうでもいいの差がありそうだ。
豚か犬が地中から探し出すもののはずなので、この層の魔物は豚で確定。小さいが魔物に「子ども」というのはないので、「子なんとか」と呼ばれる魔物でも育つことはない、最初からそういう魔物だ。
テンションが微妙に下がっているが、再び遭遇した豚を倒す。【幻影回避】の学習だと割り切ろう。
そして豚の絵。
……そうだな、ドロップは数種類あるな。なんとなく食材は1種類というか、同じ系統のものだと思っていた。
『子豚』の文字、数は1。絵のシルエットは開いてぺたんと伏せたような豚の絵。内臓抜きの1頭かこれ? 丸焼き用?
豚の丸焼きには少しあこがれるが、絶対1人では無理なことも理解している。解体は、ダンジョンに入っている業者に頼めばいいだろうか。ただ、市のダンジョンは、ある程度部位に分かれてドロップするので果たして解体ができるかどうか。スライスするだけな気がそこはかとなく。
今後、でかい豚や牛が出た場合のためにも解体ができる食肉業者を探したい。確か設備、人共に資格が要ったはずだ。見つかるまで、カードを売ることはできても自分で食べることは無理そうだ。
カードの状態でとっておけるので、後の愉しみにしよう。市のダンジョンのリトルコア以降に出た豚肉とどちらが美味しいだろう?
豚のドロップは『子豚』(おそらく内臓無し)、【開封】する勇気はなかった。『白トリュフ』『オータムトリュフ』『ウィンター黒トリュフ』『ビアンケットトリュフ』『サマートリュフ』。
トリュフ出過ぎじゃないか? トリュフの魔物なのかこいつ?
いや待て。『ベーコン』『ハム』『生ハム』『ソーセージ』ってなんだ。加工食品も出るのか? ドロップ多すぎでない? いや、もしや同じ豚の魔物だと思っていたが、別な種類の豚の魔物が混じっている?
色違いの豚だとか言われたらわからん!
こっちの居場所をアピールして、豚が走り出したら【幻影回避】、回避は斜め前に進み出て、幻影に向かって突進してくる豚の首をすれ違いざまに斬る。これの繰り返しをして、【正確】に最適な動きを上書きしてゆく。
豚の違いはさっぱりわからんままだったが、【幻影回避】と刀の修練にはいい、かな?
豚の加工物は市内に出回っているが、自宅で賄えるのはいい。食べてみねばわからんが、もしかしたら胡椒もたっぷり使われてるかもしれん。生ハムは何か台のようなものが要ったはずだ、なにせカードに描かれているのは立派なモモが1本のシルエット。
14層、はスライム。相変わらず真っ黒なので遭遇しても細かな種類は分からん。私はこんなにも見た目に頼った攻略をしてきたのか。いや、普通頼るよね?
通常のスライムの間合い、観察を諦めて踏み込もうとしたとき、何かが飛んでくる。何かを確認しないまま、上体を逸らして避ける。
なるほど、ロックスライム。今までのスライムは体当たりが主な攻撃手段だったが、これは石を飛ばしてくる。赤黒くなければ、半透明の灰色で中心に石が浮いているはずだ。
やはり赤黒いシルエットのみというのは難易度がだな。まだ浅いので攻撃を受けても惨事にはならんだろうが、深い層のスライムもこれか? 【幻影回避】を初っ端に使って、相手の攻撃手段を確認するなど考えねばならん。
刀を振り下ろすと、かすかな手ごたえの後、がきんと硬い物があたり、スライムが光の粒になる。
ドロップは鉱石類。浅い層のスライムと同じく、鉛や銅、鉄などだが、不純物が少なくそれなりの塊を落とす。
攻撃よりで使用していた【幻影回避】を、ロックスライムの攻撃を誘発しながら回避するために使う。通路は狭いし、放射状に広がる攻撃を想定するなら、やはり前に動いて距離を詰めてしまった方が傍に避けやすいだろうか。
だが、投網のように広がるスライムもいるんだよな。苦無で相手の攻撃範囲の外から突いて様子をみるのが無難か。
今のところは力任せ、速さ任せに倒せるが、色がわからんだけでここまで難易度が上がるとは。
15層へ降りる階段を見つけたところでレベルが上がる。淡く光るカードは【椿】、『火』『力』。【杜若】、『水』『気力』。【藤】、『地』『頑健』。【菊】、『光』『体力』。
ダンジョンに長くいたいので、『体力』『気力』『頑健』ともに欲しい。だが刀を振るうために、『力』ももう少しあった方がいい気がする。今までは苦無だったため、『力』は後回しにしていた。
迷った末に【椿】と【藤】。
『椿、力』
『藤、地』
濃緑に赤い花の絵と、薄紫と白と黄緑の花の絵が光になって飛び散り、『変転具』に吸い込まれる。
【藤】は目論見から外れて『地』属性が上がった。私は魔法のような属性を使う類のスキルを持っておらんので、任意で利用はできない。だが、属性が上がると属性付きの攻撃を食らった時のダメージの相殺や、能力などの補正が少しあるので無駄というわけではない。
この刀、せっかくだからそっち方面に育てるか。――武器をなくした後、強化分は『変転具』に転化されるのは聞いたが、攻撃力と武器の進化で得た能力はどうなるのか。知っているか謎だが、イレイサーに聞いてみるか。
階段を無視して、層を周り『白地図』を埋める。
15層を少し覗いて本日は終わりにしよう。
で、15層の敵なんだが、なんか枝のようなものが歩いている。長野のダンジョンに行った時にいたやつか? 『リビングブランチ』とか、そのまま『歩く木の枝』とか呼ばれていたはずだ。私が戦ったことがあるものより、太さが均一な気がするが。
……ネギでした。ネギの魔物なんて初めて遭遇したぞ!? いや、どこかのダンジョンにはいるのだろうが。赤黒いシルエット、本当に難易度高いな!?
『根深ネギ』『赤ネギ』『九条ネギ』『あさつき』。ネギだな? わかった、今日の夕食は鶏とネギでネギマを作る。
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