第29話 下調べ
たぶんもう1種類別な魔物がいるはずだが、なんだ? またシルエットが同じか? 色違いか? 通路を先に進むと、またネギ。いや微妙に節があるし先が細い。リビングブランチ、お前もいたのか!
カタカタ動いて枝をしならせ、打撃攻撃や貫通属性の攻撃を仕掛けてくる。ネギには貫通属性の攻撃はなかったが、リビングブランチにはある。枝を振るい、突き出す速度は速い。だが、その前にカタカタと前振りをするので、とてもわかりやすい。
こちらも刀で弾く訓練には良さそうか? わざわざ刃を合わせにゆき、跳ね上げる。枝が逸れたところで本体に一撃。うん、まあまあか。
ドロップは『ユズ』『カボス』『スダチ』『ライム』『レモン』『木材』。柚子のお裾分けは柊さんから冬に頂いた。冬という季節を楽しんだ記憶。季節感とは……っ!
いや、夏でもゆずぽんで豚しゃぶができるな? それに魚に絞って……、アジフライにレモンもいいな。うん、よしとする。ダンジョンに季節感を求めるのは間違っている。
1部屋目に戻って『根深ネギ』と、朝食用に『ベーコン』を【開封】。『ベーコン』は絵で分かってはいたが、ブロック。……想像以上にでかいんだが? 1キロくらいないかこれ?
市内に流通しているベーコンは、ベーコンとしてドロップしたものではなく、ダンジョンのドロップ肉から加工されている。微妙にメーカーで味が違うのだが、これはどうだろう?
今は作業台で出しているが、イレイサー側への扉を囲む棚、そこに【開封】する場所を確保する予定だ。
トリュフの類は、料理の仕方を調べてから開ける。『子豚』はここで開ける勇気がない。開けたら食い切る自信が全くないぞ。
鷹見さんにまた相談するかと思いつつ、台所に向いネギマの準備。太くて白い根深ネギは、包丁を入れた時に柔らかさが分かった。
鳥のもも肉と交互に刺して、塩を振って魚焼き器で焼く。焼いている間に、ベーコンを何とかする。
スライス、パスタ用に長方形、ポトフ用に大きめなど。ついでに分厚く、四角く切ったベーコンを串に刺して、焼き鳥の隣に突っ込む。
パン切り包丁についた脂を拭い、1週間中に使い切りそうな分だけとりわけ、残りは冷蔵庫へ。冷凍庫、冷凍庫が圧迫される……っ! 冷凍庫がパズルのようになったんだが? これ、出す時にわかるだろうか。
さて、ビールだろうか? 日本酒だろうか? ビールにしようか。焼き鳥は、肉の旨味にネギの甘さ、塩気がとてもいい。ベーコン串は焦げた脂と塩気で酒がすすむ。
晩酌しつつ動画のチェック。プライベートダンジョンは結構公開している人が多い、持ち主本人ではなく配信者に貸しているパターンも多いらしいが。
1部屋目の紹介は、おしゃれなガレージ自慢やDIY部屋自慢のようなものだが、ダンジョン特有の注意点などもある。
その中に「魔石の動力機構は魔石1つのものだけ」というものがある。2つ以上のものを使うと、1層の魔物が現れないはずの1部屋目に来てしまうことが理由だ。魔石1つだけのものなら、たとえ部屋の入り口から見えるところに居ようと、影響はないそうだ。
魔石の動力機構は強いほど、魔物を呼び寄せる範囲が広くなるらしい。魔石から動力を吸い出す仕組みそのものが魔物を引き寄せるという。ついでに機械や昔使われていた石油製品の類は魔物の破壊衝動を高めるため、留守の時に1部屋目に侵入されたら、置いておいたものは全て諦めろ、という話だ。
市のダンジョンのように一般に開放されているダンジョンは、24時間1層に冒険者がいない状態の方が珍しいし、ギルド職員が1部屋目にいるため、ほぼ使い放題なのだが、プライベートダンジョンでそれは難しく、留守の時に魔物が復活して部屋を荒らす確率が高い。
復活の時間を正確に測って対処する方法もあるが、現実的には難しい。1層の魔物を全部倒してしまえばいいのだが、倒しているうちに別のルートから部屋に移動される可能性もある。
魔物を倒していく間、入り口についているもう1人いないとダメということだ。一本道のダンジョンであればいいのだが、生憎分岐も合流もある。
どうしても2つ以上の魔石を使う動力機構を置きたいのなら、ダンジョンの入り口の外に置いておいて、使う時だけ運び込め、という……。
そういうわけで、「魔石1つの動力機構で快適調理!」とかいう動画をですね……。将来的には場所を整えたいので、今のうちに無駄なものを買わないように知識を入れておきたい。――知識を入れておくだけです、今すぐ買い揃えるわけではないです。
続いて本日のドロップについて調べる。予想通り、ネギ類はけっこう他でも出ている。子豚の開きはなし、海外で内臓付き丸のままはある。
うちのダンジョン、ドロップする形態がやはり特殊のようだ。
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