第30話 増えてゆく欲望

 朝は暑くならないうちに草取りタイム。少しさぼっていたら大変なことになっとる。魔物にも再出現まで時間があるのだから、草にもその期間を設けてほしい。この季節、新緑が美しいが、草が元気すぎる。


 小さな虫には捕食者であるオニヤンマが効く、手軽だし疑似オニヤンマとしてトラロープを切って下げとけ! という記事を見て実践中。市販や自作の虫よけより効く……気がする。が、蚊には効いていないような気もする。


 昼飯はトリュフ入りオムレツ、ベーコン、ベビーリーフといえば聞こえはいいが、間引いたレタスのサラダ。そのうちチーズを買って、トリュフ入りチーズリゾットを作りたい。ああ、調べた時の動画の影響をもろに受けているとも。


 マアジと同じくトリュフは大きさがさまざまだった。カードから出したあとは正直見分けが怪しい。白が2種類、あとは黒だ。


 白が外皮が薄く、柔らかく繊細で、一番高い。虫食いや木の根の影響で変色したり欠けたり――このへんはダンジョン産には関係がない。『ビアンケットトリュフ』も白くて、こちらは春先に一部地域でしか採れないらしい。


 黒は名前からして採る季節が違うだけで同じものだな? と思っていたら違うものだった。サバからのフェイントがひどい。基本的には白も黒も同じトリュフってことで……。同じ削りたてで比べれば別だが、香りの嗅ぎ分けなどきかんわ! 


 松茸の香り、海外の人は土臭いだけなんだろう? 慣れんキノコの香りは分からん。


 それにしても、ダンジョンのドロップは「日本でとれる食材もの」だとなんとなく思っていたのだが、どうやら違う。『ビアンケットトリュフ』は一部地域――イタリアで採れるものだ。


 胡椒などと同じく、日本での栽培にチャレンジした過去から続く埋もれた偉人がいるのかもしれんが。実際『黒トリュフ』と『白トリュフ』は、日本の森で採れたものとダンジョン産とがごく少量出回っている――と、今回調べて知った。


 これは香辛料への期待を高めてもいい感じだろうか? 好きな時に好きなだけカレーを食えるチャンスが!


 昨日に続いてダンジョンに行きたくなったが、今日は市のダンジョンへ行ってオークションへの登録と生産をせねば。『翠』の開店日は明日だし、豚の丸焼き……ではなく、子豚のこととトリュフのことを鷹見さんに相談したい。


 『翠』で飲んだ時に、以降も食材が増えることは確定しているし、そのあたりは連絡が欲しいと言われている。


 食材で、私がどの層まで攻略しているかバレそうだが、そこは10層以降は広くなったとか、1度に出る魔物の種類が増えたとかそれとなく言っておこう。すでにスライム分、少なく見積もってくれる気もするが。


 さて、出かける準備。


 到着後、食材以外の不要なカードを売り払い、さっさとオークションに登録。鷹見さん待ちの時間にカードの補充と生産。そして鷹見さんと呑む。


 餌付けされている自覚はある。プロの作った白トリュフ(私の持ち込み)のチーズリゾット、美味しかったです。チーズの塩気と米が絡んで黒コショウがきいて――トリュフも薫り高かった、ような気がする。


 まだ在庫はあるが、ブラックペッパーの新しいものも欲しくなった。新しいものは香りの強さが段違いだ。この市には扱う店があるので、まえのように大量買いする必要はないだろうし。だが、その前に在庫を使い切らねば。


 それにチーズ美味しいですチーズ。これはトリュフと物々交換してもらった。オレンジっぽいラズベリー色のスパークリングワインが、辛口でチーズリゾットによく合っていたのでそれも。こちらは封を切ったものしかなかったため、次回私の分も取寄せてくれるそうだ。


 珍しいことは珍しいが、使い勝手の悪そうな『子豚』については、解体業者探しとともに、店も選定してくれるそうだ。中華と沖縄料理屋が候補にあるらしい。ただ、丸焼き状態で出す機会は少ないので、店主の人柄が大丈夫そうであれば両方、とのことだ。


 柑橘も薬味の類としてどの店にも喜ばれるだろうから、取引の出来た店には売る方向で。野菜の類も、農家が降ろしている季節は遠慮して、他の季節に売ればいいとのこと。それなら競合しないし、高く売れそうだしで確かにいい。


 ほろ酔いで市のダンジョンへ、鷹見さんと別れていつもの生産ブース。ここの生産設備、外から持ち込んだものが混じっている。その方が安いしそれでいいと思ったのだが、失敗だった。


 ダンジョン産のものに全部取り換えて、【収納】できるようにすれば、ソファかベッドなんかをこう……。また自分の生産ブースを眺めながら考える。


 アイラさんやツツジさんは、趣味のものを飾ったり壁紙を貼ったりしている。貸出ブースは時間貸しで、当然物を飾っておくということはできない。私は生産を終えたら、さっさと出るので特に何もするつもりがなかったのだが、個人ブースの所持者は荷物を置きっぱなしにしたり、「飾れること」も一種のステータスではあるらしい。


 個人ブースを区切るパネルは、音消しの付与がかかっているし、荷物を置いておく関係で鍵もかかる。仮眠する環境的にはとてもいい。


 ちなみに共有ブースは音消しの付与がないので、ハンマーや、魔石を粉砕する機械の音でかなりうるさい。


 私のブースは狭いが、作業台も含めて全部【収納】してしまえばシングルベッドとちょっとした家具程度なら入る。寝るかだらだらするだけなら上等だろう。


 ……買い替えか。過去の私がケチらないで【収納】できるものにしておけば! 個人ブースの話を受けた時、まさかこんなに外で酒を飲む機会に恵まれるとは思ってなかったんですよ。


 トリュフはそう大量に使うものではないので、ダブつくようなら購入者指定ではなく、普通にオークション形式で出してはどうかと言われた。他のダンジョンでも産出されないような珍しいものならば、おそらくそれなりの値がつく。


 ――が、匿名とはいえ、送料の関係でどこのダンジョンで登録したカードかはだいたい分かる。このダンジョンのギルドは鷹見さんをはじめ、守秘義務を尊重してくれているが、他の場所のギルドも一律こうかといえば、そうではない。


 もしそういうやからが湧いたとして、最初に色々言われるのはここのギルドになるだろう。鷹見さんに面倒をかけそうだ。


 それも承知でオークションを勧めている風でもあった。魚系は公開していても、他に出る場所はあるしスルーされるだろうが、丸どりや子豚など、目立つものも混じる。


 ちょっとオークションを覗いて、どんなものが出品されているか、やりとりがどんな状態か確認しよう。


 飯以外で、自分にこんなに物欲があるとは思わなかった。

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