第108話 レア?ドロップ

 10層はまた討伐済みだった。規模の大きいダンジョンではありがちなこと。そして再びの20層『ビッグボア』。


 イノシシが2頭、縦横無尽に走り回っているこの光景も2回目である。1回目と違うのは、レンがビッグボアを殴っているところ。


 正面から向かってくるビッグボアに、轢かれるすんでで弾丸を叩き込み、避ける――という前回の戦い方ではないので、多少ましになった。


「華奢な白い手が!」


 そもそも弾丸を叩き込んでいたビッグボアの正面は、頭蓋も肩も固くダメージが通りづらい。正面から殴りに行ったら吹っ飛ばされるのがオチだ。流石のレンも突進を正面から殴りには行かず、側面から殴っている。


 撃って、自分の方に誘導し、突進すると真っ直ぐしか進めないビッグボアを横から殴り、距離をとる時にもう一度撃つ。


「カズマの節が目立つ大きな手との対比……っ!」


 練習としてはいいのか? 少なくとも身の安全は前回よりは考えているようで、多少ましに。


 嬉々として殴っているが、ダメージは大して入っていない。イレイサーと違って、それなりの基礎能力しか持っておらんのだろうし、『運命の選択』で得た武器グローブでもないしな。


 イレイサーとして強くなるのなら、私的には今この時はどうでもいい。カズマとツバキ的には何で殴るのか疑問だろうが。いや、レンの趣味だと思って諦めている可能性もあるな。


「ああ……ツバキの長い指もステキ」


 イレイサーの基礎能力は、この普通の『化身』に上乗せになる。イレイサーは確か、通常4枚中2枚選びとることができるレベルアップのカードを3枚選べると聞いたので、おそらく力と速さは上げているのだろう。


 通常、レベルアップのカードを引いても、望む能力が上がるとは限らない。中には属性ばかりが上がって、攻略を諦めて属性付与系の生産に進む者もいるくらいだ。


 協力者も優遇されているが、イレイサーは破格の待遇。ただ、今まで見聞きしてきたイレイサーは、育った普通の『化身』があって――だった。どちらも最初からのレンとユキは、戦闘スタイルの確立が大変そうだとは思う。


 リミット5年の中で頑張ってほしいところ。


 ユキの方は、レンが少しマシになったお陰で落ち着いたようだ。遠慮がちではあるが、味方の立ち位置や動きをよく見て魔法を放っている。


「ユキの魔法を放つ前の魔物に向ける指も、伸ばしたせいで袖が引かれて尺骨頭しゃっこつとうが見えるのもいい……」


 魔法を使って気力を減らすユキ、無茶な動きで体力を減らすレンに該当する『回復薬』を投げる。


 カオスは少し減った。


「手袋をしていても美しい指先。チラ見え手首……」 


 スズカの手フェチはカオスのままだが。せめて口は閉じて、脳内だけで発言してくれんか?


「よっしゃ、完了!」

カズマが力強く宣言する。


 ビッグボアは2頭とも倒れ、そしてドロップカードへと変わる。ちなみに2頭いてもリトルコアのドロップカードの枚数は変わらない。


「お疲れ様!」

「お疲れ様でした」

レンとユキが笑顔で言う。


「お疲れ、1度目より大分安定した」

ツバキが2人に告げる。


「おー! やった」

ツバキに褒められ、喜ぶレン。


「ホッとしました」

長い息を吐いて胸を撫で下ろすユキ。


 宙に浮く20枚のカードのうち、自分の周囲に現れた5枚をさっさと回収する。ショートカット用の『鍵』はすでに前回手に入れているのでなし。


「『ブランクカード』『覚えのくさび』『猪の薬草』『ビッグボアの肋肉』『ビッグボアの牙』――『ブランクカード』が当たりだな」

私の場合、リトルコアのカードを【開封】して、小分けにする時に使う。


「おめでとうございます。僕のほうは楔とビッグボアの素材系だけです」

ユキ。

「私もだ」

「右に同じ」

ツバキとカズマ。


「私もですね。薬草系は価格が安定していますし、皮は防具にいいので他よりはお高めですよ。お肉系はその日にどれくらい持ち込まれたかで変わるので、分散して売った方がいいかもしれません」

スズカが自分のドロップカード、ツバキのドロップカードと撮しながら言う。


 他の冒険者の他の肉の販売数もあるが、リトルコアの素材ドロップは1枚のカードに1から999入っている。ここにいる奴らが全員一緒に肉のカードを売ったら値下がるのはしょうがないだろう。


「おめでと〜! 私の方も似た感じかな」

5枚のカードを開いて見せるレン。


 個人カードは似たり寄ったり。


 ボスを倒した周辺に浮いている、残り15枚のうち2枚をそれぞれ選ぶ。滅多に出ないからレアなのであって、特に期待はしない。


「お、コアのカード来た」

カズマが少し明るい声を出す。


「確定レア!! おめでとう!」

レンが笑う。


 確かに必ず入っているカードで、1枚しかでない高いカードではある。レアといえばレアか? 暴利は貪れんが。


 それぞれの冒険者ギルドの支部で、ダンジョン1部屋目の運用と配送車用、市や県への納品用にコアの確保が必要になる。リトルコアのコアは公共のために使われるという建前で、冒険者ギルドが全て買い上げる。他への売買も、許可のない実験や使用も禁止だ。


 ――うちのダンジョンのコアのカードは1部屋目の棚に放り込んだままである。鷹見さんにそれとなく足りているか聞いてみよう。5層目、15層目あたりのコアなら提供しても問題ない。


「あれ、私の方なんか変なの出た」

笑っていたレンが真顔に戻る。


「何だ?」

そう言いながらカズマが覗き込み、ツバキもレンの持つカードを見る。


「『両手剣設計』――生産で作り方を学習するためのカードだな。素材と道具を揃えて、このカードを使うと手が勝手に動く」

ツバキが説明する。


「おめでとう。20層ここのコアより高く売れるかもしれないぞ」

「ありがとう!」

「おめでとう。レン、あとで僕にもよく見せて」


 それぞれ短く祝いの言葉をかけて、本日は平和に終了。

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