第107話 お手本or憧れ

 草と戦い、虫を殲滅し、ダンジョンを巡る日々。


 自宅のダンジョンは、魔物を倒すと復活するまで5日かかる。すぐ生えてくる草にも、どこかからいてくる虫にも負けている。


 規則的に復活するので、対処しやすい。79層までの間を、1日10層前後のペースで周り『強化』のカードを集めている。ほとんどずっと走りっぱなしである。


 ボス部屋にいるボスはパスしているのだが、末尾5の層に出る野良ボスが邪魔だ。浅い層の方がストレスなく回れるが、70層からにも大分慣れてきた。レベルも上がり、私自身の基礎能力が底上げされたのもあり、完全に作業と化してる。


 慣れ過ぎて、攻撃に使う気力よりも走る疲労のほうで減る方が多い気がする。体力が減ると気力も減り始めるので、適度なところで『回復薬』を飲んでいる。


 『体力』が上がる【菊】は、もうひとつが『光』なので敬遠している部分もあって、 体力は最低限しか上げていなかったがこれを機に少し上げた。


 レン用の『金の弾丸』『銀の弾丸』『鉄の弾丸』も、アイラさん用の布の類もだいぶ溜まった。ツツジさん用の革――すぐ使える状態に加工されたもの――や、皮――鞣したり使える状態まで加工しなくてはならない――のほうは芳しくない。


 食材が落ちる代わりに、一般的な魔物素材のドロップ率が極端に少ない。皮は、牛や豚がそのままドロップしているのであるといえばあるのだが。


 仕方がない、50層の火炎鹿を……いや、まて自分。何人かで攻略している風を匂わせていることだし、あまり大量のドロップを持ち込むのもどうか。


 特にレンが調子に乗って無駄弾撃つ癖がついても困る。というか、弾は真面目に作らんと、私の生産の腕が上がらない。――物はあるというのになかなか上手くいかないものだ。


 そうして過ごすうち、2度目の配信収録。


 市のダンジョンの貸し会議室に集まり、軽い打ち合わせ。むしろ集まる場所として使っているだけな気もする。


 ツバキたちは真面目な攻略は別でやっているからな、こちらはもともと緩くやる方向のダンジョン攻略、むしろ予想外の事件が起こった方がいいのだろう。そう深い層ではないし、命に関わるようなことはない。


「よろしくお願いします!」

相変わらず元気なレン。


「よろしくお願いします」

控えめなユキ。


「おう」

ぶっきらぼうに挨拶してくるカズマ。


「ん、ん〜……今日も防御力が高い……」

スズカの視線は私の手元。


 スズカの言う防御力、イコール手袋で手を覆い隠しているということである。


「でもチラ見できる手首もイイ……」

ため息を吐く様にしょうもないことを言い出すスズカ。


 貴様の手の範囲はどこまでだ。


 確か、草取り用に袖付きの手袋が売っていたな? 帰りにホームセンターに寄ろう。


「揃ったな」

ツバキ。


 私が一番最後、何故なら待つ間何をしゃべっていいかわからんので、時間ギリギリに来ているから。草取りマスターとする草の話題ならば有意義に過ごせる気はするが、他は無理である。


 それはともかく、レンがグローブをはめている。


「諦めました!」

いい笑顔で顔の前で片手の拳を握るレン。


「どうしても近接つーか、殴りたいみたいだからな」

カズマが言う。


 まあ、うん。イレイサーの戦い方との切り替えが上手くいっていなかったようだし、いいのではないかな……。身バレや手の内うんぬん以前に、強くならねばどうしようもない。


 そのままツバキとカズマに鍛えてもらうといい。二人とも格闘系ではないので微妙なところもあるが。


「拳を使う勇者の動画でも見たらどうだ? 冒険者ギルドが出してるだろう」

銃は覚えがないが、拳の勇者は出ているはずだ。


「買いました! 政府直属【03】勇者スメラギ!!」

顔のそば、開いた指に力を入れてポーズを取るレン。


 スメラギの真似である。恥ずかしいからやめておけ。『政府の勇者』、ちなみに【01】は天魔。


 拳でも体型や基礎能力から戦闘スタイルは分かれるだろうに。ましてや銃も使うのでは、スメラギの戦闘スタイルに当てはめるのは難しくないだろうか。


 基礎能力の方は、レベルアップ時の選択で整えることができるかもしれんが、何より性格的にスメラギのスタイルはレンには無理では。


 政府の勇者シリーズの他にも、その辺の勇者の動画も出ている。わかりやすい動きで、基礎的なことを学ぶにはいいのではないかと思うのだが。


 あと、草取りマスターが傷ついてるようなので、誰かフォローして差し上げろ。

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