第15話 支度

 飲んだ後はパニックルームで映画を――スクリーンを買ってこねばいかんのだった。レコードを聴きながら読書。


 風呂に入って、弾丸製作について予習と調べ物。本とネット。


 ネットは海底ケーブルがぶちぶち切断されとるので、衛星頼り。海外のサーバーにあるデータをせっせと日本のサーバーに移しつつ、今ある衛星がダメになる前になんとか新しい衛星を打ち上げるため、努力中のはずだ。


 海と空からの魔物の迎撃に向いた冒険者を雇い、頑張って海底ケーブルの引き直しにも挑んでいるらしく、そちらの方が早そうかな?


 モノについては、作る技術も知識もあるのに、資材の確保がネックになっているんだったか。何かの理由で光ファイバーではなく銅の同軸にもどすとかなんとか。


 弾頭、薬莢、発射薬、リム――いや、リムはダンジョン限定でなら、なくてもいいのか。多少の大きさの違いは、武器防具と同じくダンジョン内では補正される――雷管。基本の弾丸は鉛、銅、亜鉛、発射薬は火薬ではなく魔石の粉とダンジョン産の土や石の粉との混合物。


 魔石の粉を増やしたり、属性石と呼ばれる各属性を内包する石の粉を使い、威力を増すこともできる。その場合、弾頭や薬莢を含め全体的に強化しないと成立しない。弾頭を強化した場合も同様に他の部分の強化が必須。


 魔法と一部のスキルを込めることができる弾丸もあるようだ。この辺はおいおい。これならば高レベルもいける気がする。分量を守る系は得意だ。


 生産用の道具あれこれは目の毒だ。格好いいのがシリーズでたくさんある。薬品作りのほうはそこまで気を惹かれなかったのだが、弾丸制作の道具はやばい。趣味の世界だろうこれ。


 弾丸といえば、氾濫で押し寄せた魔物相手に、最初は電気がなくても動く兵器で攻撃したそうだ。しかし、やっぱりというかリトルコア近くでは威力が落ちたらしい。まあ、落ちなくても戦車程度なら、勇者レベルが『変転』して能力を使った方が効率がいい。


 なによりリトルコアの影響範囲外には、能力の影響が及ばないので、周囲に被害が少ない。――リトルコア相手に使える弾丸というか、バズーカみたいなのを政府がダンジョンでせっせと作り、ほかの【収納】持ちに現地に持ってかせてたが、あれはうまくいったんだろうか? 大々的に報道されていないということは、結果は微妙だったんだろうな。


 自分にしては少々早寝をして、少し早めに起きる。そろそろ暑くなってきたので、朝食前に家庭菜園の手入れ。主に水やりと草取り。さらに庭の草取り。庭と畑は草との戦いだ。


 こう、田舎の引きこもり生活はもっとのんびりしたものだと思っていたのだが。だが、沢もあるし山歩きは結構楽しい。春には山菜採りができるはず……。今年は、思っただけで結局やらずじまいになりそうだ。


 朝飯は、卵かけご飯に味噌汁、頂き物の漬物、緑茶。簡単な料理だが、朝はこれくらいでちょうどいい。


 味噌汁は米味噌で、じゃがいもと玉ねぎ。赤味噌には合わない気がするが、米味噌ならば悪くない。じゃがいもも玉ねぎも保存が効くので便利だ。


 佐々木さんの漬物はさすがのおいしさ。出した漬物は、半分は食後にお茶で食べる。


 朝っぱらから炊いて余った飯は、鰹節と胡麻をたっぷり、醤油と混ぜておにぎりにして冷凍。――する前に、一つ食べる。冷凍したものは、解凍後に焼いて焼きおにぎりになる予定なのだが、焼く前の状態でもおいしい。


 醤油と味噌は柊さんに分けてもらっている。鰹節といいだいぶ贅沢――今の世の中、肉は安いが他は大体高い――だが、私は食い道楽なのだ。好きに飲み食いしたいがために、政府の仕事をしていた程度には。


 数日は草と格闘しつつ、家のダンジョンに潜って過ごした。そろそろ豚肉と牛肉を買いに行きたい。あとラードも。


 建具屋から棚と作業台が届いたのでダンジョンに運び込む。パニックルームへの階段はいささか狭いので、少々苦戦。コートに【収納】したいと思いながら頑張る。


 定説では、化身での運動量の百分の一くらいは、こっちの体にも還元されるはずなんだが。いかに最小限の労力で倒すかを追求していたところがあるので、仕方あるまい。


 運び終えて、組み立て。ダンジョン内なので、さっさと『化身』に代わり、【正確】のスキルを発揮しつつ、済ます。『化身』なら生身より腕力もあるのだが、板を支えてくれる人がおらんのでこれも結構苦闘した。


 一応床の水平も測ってみたが、問題なく平。棚も机もがたつきはない。机に早速生産道具を並べ、棚に素材を入れるための空箱を並べる。


 棚は戸のない実験棚のような形で頼んだのだが、木製なこともあって、喫茶店のカウンターの後ろにありそうな棚になっている。作業台と同じ高さに、生産の時に素材や瓶を並べるスペースがあるのだが、コーヒーでも淹れるスペースのように見える。棚に並べるものがコーヒーカップなら完璧だ。


 大きな木箱は、受け渡し用の木箱の隣に。誰もダンジョンに入れる気はないが、念の為。うむ、いい雰囲気だ。


 余裕ができたら絨毯に寝椅子でも置くか。蓄音器もこっちに移動して――パニックルームよりも天井が高いのでこちらの方が開放感がある。


 レコードの棚も移せば、壁が空くからスクリーンを買わなくてもいいな。いや、イレイサーがやらかしたらこのダンジョンは消えるのか。コレクションが消えたら泣く。

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