第14話 ダンジョン2層
家に戻ってダンジョン2層。
下へ降りる階段は昨日見つけている。偶数層はイレイサーとドロップを揃えるためのスライムのはずだ、あまり用はない。浅い層のドロップは、どうせ冒険者の酒場で安く買えるものだ。
性格的に一度は全部回るが、以降は全て回ることはしないだろう。さて、さっさと回ってしまおう。
「スライム……?」
スライムまで赤黒い影になってるのだが、何故だ。赤黒い姿をとるのは、外の世界にいる存在だと理解していたのだが、どうやら違ったらしい。
それはそれとして、全部赤黒いとスライムの種類がわからん。予想ではグリーンスライムなのだが……。グリーンもレッドもスライムは形が変わらんので、これはドロップで判断するしかない。
苦無を投げてさっさと仕留める。スライムを倒すのは慣れているので効率よく倒せる。市のダンジョンは、浅い層はスポーツがてら入る人が多いため、むしろ倒す魔物を探している時間の方が長いくらいだ。
スライムは多少のバリエーションはあるものの、基本の動きがある。慣れれば次の動きを読むのは簡単なので、苦無でも倒すことに苦労はない。深い層になると酸を吐いたり、能力を使い出すので厄介だが。
ドロップはやはり『薬草』のカード。加工前の薬草はよく揉んで草の汁を出し、傷口に貼り付ける使い方をする。傷が治る訳ではないが、小さな傷ならば血止めにはなる。傷薬を持っていない場合の応急処置だ。
薬草を落とすということは、グリーンスライムで間違いない。
三時間ほど歩き回って、2層を終える。1層2層は狭めだったので、少なくとも十層まではこのままの規模だろう。
タイミング的にもそろそろ終了して戻る時間。3層のドロップ――ではない、敵を見てから上がろう。
一応、下に降りる階段の前で帰路の確認をする。『白地図』は白といいつつ、黒色で、通ったところの色が抜けてゆく。
幸い1層に上がる階段もそばにある。3層に降りて、周囲を見渡す。慣れた場所ではないので注意が必要だ。
敵は……鶏?
色が単色でほぼシルエットしか分からんのは、なかなか辛い。
鶏は他のダンジョンでも良く出る部類で安め。豚肉と牛肉を優先した所以だ。だが、何時でも唐揚げの肉が手に入るのは素晴らしい。
鶏と見せかけて他のものの可能性もあるが……まあ鶏だろう。
苦無を投げて仕留める、3層も余裕。おっと、日本刀を使ってみよう。それこそ浅い層で練習しなくては。
ドロップは予想通り鶏。
肉の類は部位単位だと思っていたのだが、カードには羽根をむしられた丸どりの絵が描かれている。絵から文字に目を移せば『若鳥』と。
丸のままなのか? 鳥は羽根をむしり、頭と足を落とした状態。頭と羽根と足先を取り除いてあるものは「丸どり」、そこから内臓が抜かれているものが「中抜き」だったか。絵からはどちらかわからん。
それに大抵のドロップはもっとおおざっぱな表記だ。『鶏肉』だったり『鳥の胸肉』だったり。種類や産地の記載があるカードは、ものによるところもあるが高い。3層で種類記載のカードなら、深い層のドロップはとても期待できる。
それにしても丸のままかと不思議に思いながら、次の敵を探す。
結果、やはり丸のままの絵が描かれた『若鳥』がドロップした。
なお、羽根は羽根でドロップ、他に卵。鉱石が少しに武器の強化カード。魔石が少し。
本当に丸のままドロップするようだな?
テンションを上げる私――だが、もし牛が出てコレだったら解体はどうすればいいのか。まあ、ドロップしてからの話だな。
しまった。「丸どり」に気を取られて、日本刀を忘れた。武器を持ち替える――苦無は左でも使えるよう練習するべきか? 余裕がでたらしよう。というか、そこまで本格的に潜る気はない。
いや、深い層の食材は魅力的だ……。おかしいな? 当初の予定では、気楽に適当に危険なく、だったのだが。欲、欲が。
「【魔月神】」
真っ黒な鶏に向けて剣を構え、振り下ろしながらスキルを放つ。
振り下ろされた刀身は黒く消え、刀身のあるはずの場所の周りに
説明によれば状態異常がつく。――あかん、オーバーキルでどんな効果か全くわからん。3層の魔物にスキル使用って大人気がなさすぎた。
うっかりまた時間を忘れそうになって、帰宅。『若鳥』を一つ【開封】、絵の通り丸のままの鶏だった。ぶら下げて外に出る。
台所に行って動画を見ながら捌く。ダンジョン産の物のいいところは血抜きを含め、締め方が完璧なところ。血なんか最初から無かったような具合だ。
ツボ抜きした内臓は部位ごとにバットに並べて、捌いた肉も部位ごとに。そのうち丸焼きもやってみたいが、流石に一人ではちょっとな。
今日は焼き鳥にしよう。ネギマはネギがない。モモ、皮、砂肝――一つを半分に切って――レバーとか砂肝とか一羽分では微妙だが、ちょっとずつ色々食えるのでよしとしよう。
うーん、冷蔵庫をもう1台入れるべきだろうか……。丸のままでドロップされると、さすがに一回で食べ終わらない。
それにキャベツをはじめ、野菜を肥料の空き袋にこれでもかと突っ込んだような量で頂くので、冷蔵庫がいつも満杯なのだ。野菜庫をはみ出て、通常の冷蔵場所を野菜が占拠している。
柊さんのところは納屋にも冷蔵庫を置いてるんだよな。酒の冷蔵庫より、2台目の普通の冷蔵庫が先に必要なようだ。
以前の母屋に通し土間があり、自給自足を目指していた身には便利そうに見えたため、この家にも土間がある。大きめのタイル敷きで、一部板の間にしたのだが、十分広いし、流しはつけてある。冷蔵庫を置くなら土間にだろう。
こう、梅酒や漬物などの保存場所も作ったし、家だけは整えたのだが、肝心の畑に挫折という体たらく。いや、大丈夫だ。ダンジョンのおかげで活用できそう、結果オーライ。
生産や攻略のための準備に出費がかさむが楽観的。魚の買取価格が良かったことが大きい。まだ倒した魔物の復活までどれくらいかかるか分からないのであれだが。
魔物の復活速度はダンジョンによって違う。だいたい3日から5日くらいで復活することが多く、記録された最も早い復活は6時間、遅い復活は1月。ドロップを手に入れるためには早い方がいいような、攻略を進めるためには遅いほうがいいような……。
さて、焼き鳥はグリルに突っ込んだ。一応、サラダでも作るか。あとはビール! ああ、少し高い日本酒も欲しいな。――それは5層に到達したらにしよう。さすがに財布の紐が緩すぎだ。
魚のドロップで舞い上がっていたが、手に入れたカードの確認もしておかねば。武器強化のカードはさっさと日本刀に使った。正直、3層の鶏では強化の度合いは違いがわからんが。
出来上がった焼き鳥は、塩と酒を振っただけだというのに、とてもおいしい。ももは柔らかく、ぱさつかず、皮はカリッと。梅肉を塗って、柊さんからもらった青紫蘇を巻いた胸肉もいい。
ビールが美味しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます