第145話 コア

「ワインはここと『ODA』で種類をデータ化することはすでに了承いただきましたが、アクアビットとブランデーは後回しになりそうです。ブランデーは産出国の別もありましたが、一部メーカー名も混ざっていましたので、そちらだけ先に中身を確かめたそうです」


 そう言って、既に判明した酒の一覧記載の書類を渡される。ワインには色と炭酸のあるなし、簡単な味の特徴と肉に合うか魚に合うかが書かれ、ブランデーの方も何行か。


「小田様に紹介いただいた菓子店に投げていたカカオですが、こちらが試作品です。いくつかいただきましたが、できはいいかと思います。正直、甘い物には疎いので許可があればギルドの職員に試食させ、聞き取りをしたいです」

「ああ、それはもちろん」


 アンティパストのいいところは、いろいろな味を少しずつなところ。足りないくらいがもっと貪りたい欲を刺激して、次の料理への期待を高める。


 スープ、炭水化物――パスタやピザやリゾット――と続くのだが、その前に新しいグラスで次なるワイン。本日はワインの種類の探求も兼ねているので、全て違うワインなのである。


 一応、手元に色と味などを記入する紙があるのである。すでにカードに記載されていた名称と、瓶の色、瓶底の番号は書き込まれており、その順番で提供される。


 炭水化物はトリュフを散らしたゴルゴンゾーラの平打ち生パスタ。たっぷりのゴルゴンゾーラがよく絡んで濃厚さが口に広がる、多めの胡椒がいいアクセント。


 ワインを一口。


 酸のバランスがよくて力強いという表現になるのか、赤ワイン。渋みやらなにやらも感じるが、濃い味の赤だ。


 とりあえずゴルゴンゾーラに負けない味ということはわかった。


 一応、ネットで予習はしたのだが、スモーキーな香りとかベリーのうんぬんとか、よくわからん。私が書き入れるのは、色、軽いか重いか、渋い、酸っぱい、辛い、甘いくらいである。


「ワインにハマると複雑な味の方へ進むらしいですが、私のような初心者には分かりやすい味の方が美味しく感じられます」

「同感だ。分かりやすい方がいい」


 鷹見さんもワインに詳しくないようで少しほっとした。


「ところでリトルコアのコアの納品は不足はないか?」

とりあえずリトルコア丸ごとドロップ問題の前に鷹見さんというか、市のダンジョンの益になりそうな話をふる。


 薬の依頼の前に、補填の話をふってきたツバキの思考が少しわかる。


「50層までのものは余裕ですね。ツバキ様たちのパーティーが順調なので100層のコアを期待しているところです」


 冒険者ギルドの県支部へのコアの納品は90層以下のもの、100層以上のコアは政府直下のギルド本部に直接納品できるようになる。


 50層以上でも納品数によっては、ダンジョン運営の自由度が高いのだが、100層以上のコアの納品ができるようになれば、間の県支部の監査監督を飛ばすことができるので、運営がだいぶ自由になったはずだ。


「設備を整える予算の方が不足です。リトルコアのコアを官公庁に売ってもそう儲かりませんし。長距離輸送にも使いますので、なるべくストックはしておきたいですが」

「なるほど」


 リトルコアのコアの扱いはさまざまな制限があり、冒険者の販売先はギルドに制限されているし、買取価格も一定。買い取ったギルドの方にも制限があり、販売先は官公庁か別のギルド支部で、売買というより譲渡と言ったほうがよさそうな金にしかならない。


 リトルコアのコアの実験がダンジョンの禁忌に触れかねないため、なかなか制限が厳しいのだ。


 輸送も官公庁とギルドと運輸会社で3社契約だった気がする。勝手にトラックを増やすわけにもいかないのだろう。というか、鷹見さんが交渉でいける上限まで増やした後な気がする。


「100層のコアまで届けば、条件をクリアした企業に売れるようになるのですが。そうしたら輸送を増やせるし、歳入が増えれば設備投資に回せる……」

欲しい設備を思い浮かべているのか、鷹見さんが遠い目になって黙る。


「――勇者スメラギの後を追うようにツバキ様たちパーティーがダンジョンに入りました。通路の魔物との戦いとはいえよい経験になるでしょうし、期待しましょう」

笑ってワインを飲む鷹見さん。


 リトルコアのコアは今のところ必要がなさそうなのはわかった。


 鷹見さんがグラスワインを飲み干したところで、肉料理が運ばれてきた。イタリアンのコースは、食前酒とつまみ、地域や季節の特色の出る前菜、炭水化物の皿、タンパク質の皿、サラダ、チーズ、デザート、エスプレッソの順だったか。


 肉料理の次にサラダ? と何か変な順番な気がしたためなんとなく覚えている。肉料理で酸性に傾いた体をサラダでアルカリ性にするとかなんとか、順番にも確か理由がつけられていたような?


 肉を切り、口に運ぶ。シンプルな味付けだが、焼き加減が素晴らしい。そして新しいワイングラスに手を伸ばす。


「食材以外の相談があるのだが」

「なんでしょうか? 生産ブースの拡張ですか?」

鷹見さんが笑顔で聞き返してくる。


「私のダンジョンは牛や豚が丸のままドロップするだろう?」

「ええ。ホルモンは人気ですよ、毎回高値がついています」

「『火炎鹿』――リトルコアがそのままドロップしたのだが、どうしたらいい?」

 

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2024年12月25日 11:00
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プライベートダンジョン じゃがバター @takikotarou

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