第24話 慎重さとは
ぶらぶらと来た道を戻り、最初の部屋に着く。
部屋に扉がある。
「……」
物を送り合う『箱』を覗くと、やはりカードが詰めてある。
ため息をついて扉を叩く。
「はーい!」
元気のいい声が返ってくる。聞き覚えるほど聞いてはいないが、レンかユキの2択ならレンだろう。
「失礼」
扉を開けて、隣の部屋に入る。
この扉はノックの音と、それに対する返事だけ音を通すらしい。相手の了承がなければ扉は開かない。【生産】で手が離せん時もあれば、これからは気力回復などのために寝ていることもあるだろうから妥当だろう。
「久しぶり!」
「お久しぶりです」
レンは元気いっぱい、ユキは物静か、相変わらずの二人。イレイサー側のひと部屋目には、絨毯とカウチが運び込まれていた。どうやら休憩用家具の設置中らしい。
レンは
二度目ましてだか三度目ましてだかの感想を抱きつつ、問題の確認に入る。
「箱にカードが入っていたが、あれは?」
「あ、運びきれないし、自由に使って! 売っちゃってもいいし!」
「すみません。僕たちは生産をしませんし、溜まってしまって」
あっけらかんと言うレンに、少し申し訳なさそうなユキ。
別に悪いことはされとらん。おじさんちょっと心配になっただけですよ。稼いで自身を強化してもらわないと困るし。
「車の積載量が足りないのか?」
詰めてあるカードは鉱物系や魔物の牙、皮など。
「そう!」
「乗るのは二人でですし、荷物はそう載らないんです」
「あと車まで運ぶのもキツかった! 階段死ぬ」
ああ、うん。私も作業台と棚を運び込んだ時にぷるぷるした。イレイサーのダンジョンの入り口も、地下のパニックルームにあるのだろう。車の積載量の前に、階段の往復は死ぬ。
「……」
少々眉間を押さえて考える。黒猫、【収納】つけてやれよ。
「ダンジョンの登録はしたのか?」
「した、した!」
「しました。助言のとおり、秘匿で」
登録したということは、ドロップカードを売る気はある、と。
うーん。強化カードを買う金は幾らあっても足らんはずなんだが。イレイサーに頑張ってもらわねば、私のダンジョンが……。
「……そちらのダンジョンに私を登録してもらえれば、代わりに――いや、リトルコアの初討伐はしたのか?」
出会った時に、レベル1。ならば、初めてのリトルコア討伐となるはずだ。代わりに売りに行くのは精算が面倒くさい。
「まだ!」
「今はレベル上げを。町のダンジョンで、一度4人で討伐してみてから、と思っています」
4人……。ツバキとカズマだろうか? あの二人ならば、10層どころか20層のリトルコアでも安心だ。
「なるほど。聞いているかもしれんが、初めてのリトルコア討伐は能力カードのドロップ率が上がる。それで【収納】が出れば楽になるはずだ。カードを他のダンジョンに持ち出せるからな」
「おー! 猫もそんなこと言ってた!」
言ってたのか。
「なるほど【収納】があれば楽になりますか」
ユキが呟く。
ユキの反応からすると、どうやら黒猫が言ったのはドロップ率が上がる説明のほうのようだ。この2人は本当に今までダンジョン関係からは離れて生活していたようだ。
「このダンジョンで初討伐を果たした方が、ドロップする確率が高いんじゃないのか? いや、あれは『強化』のカードだけの話か」
イレイサーのダンジョン、能力カードも出やすいだろう? 知っているが、黒猫からは聞いてないことなので濁す。
あまり【能力】を増やしすぎると、カードでとった【能力】は成長しづらくなるとか、色々言いたくなるが、ダンジョンのことについてはツバキたちが教えているだろう。
「鬱陶しいことになりそうなので、公言はしていないが私は【収納】持ちだ」
いずれはばれそうなので先に。ついでにやんわりと隠したいことをにおわせる。
「【収納】ってバレると面倒なの?」
レンが首をかしげる。
「ダンジョン攻略で頼られることは少ないが、代わりに他のダンジョンでの買い出しとか、な」
「ああ、現地で買ったら安いもんね。うっわ、車に長く乗ってるの無理! オレも聞いたこと内緒にしとくね」
表情のくるくる変わるレン。顔が半分隠されているにもかかわらずよくわかるほどに。
「ああ。頼む――そういうわけで、【収納】が出なければ販売の代行をしてやってもいいが、そちらのダンジョンに私の登録が必要になる。ギルドに私とそっちの交流がある、と認識される」
私は、
「むう?」
「同じダンジョンに関わっているのは、登録と売りに出したドロップカードでバレますものね。市のダンジョンで会って、オオツキさんに挨拶しないのも変だ」
ピンとこなかったらしいレンと、思い当たったらしいユキ。
本来の化身の姿で私に係るつもりがあるのかどうか。
「色々隠しておきたいのなら、私との接点もなるべくこの部屋だけに留めておいた方がいいだろう」
私の方はやんわり外での交流を断る。
「おー? まあ、リトルコアから【収納】が出れば解決ってことだな!」
笑顔全開のレン。
簡単にしてポジティブ!
「前向きだなあ、レンは」
呆れ半分憧れ半分みたいな顔でレンを見るユキ。
まあ、2人のうちどちらかに出ればいいな。
「……リトルコアから出なかったら、また相談しよう。今まで箱に入れてあった物は、提供する生産物に回す。使えん物は戻しておく。そういえば、もう一人の協力者は見つかったのか?」
「オオツキさんは律儀? あ、協力者は見つかったよ! 付与の人! そっちに扉が出るんだ」
レンが私のダンジョンへと繋がる扉がある方とは、逆の壁を指す。
「扉がそろった時にはご紹介しますね」
ユキが言う。
「ああ」
防具系の生産者を選んだのかと思っていたが、違った。
イレイサーとしては神父服みたいな上着が専用の防具のはず。本来の『化身』の防具もあるはずで、ズボンか靴か、上着の下に着ているものか――。二つ性能のいい服があるなら、他をとなったのかもしれない。
それに布や革系の装備なら、町のダンジョンで揃う。ツツジさんとアイラさんの装備を手に入れるには、ツテと金がいるだろうが、ツテはツバキたちがいるし金もこのダンジョンで十分稼げると判断してもおかしくはない。
修理も二人に依頼すればいい。町のダンジョン攻略も真面目にやって、名を売っておけば大手を振ってそうできる。
「弱いうちに目立って、対象に返り討ちにあうなよ?」
「うん、わかってる!」
「接近禁止令は半年有効です」
ん? ユキが何かさらりと言ったが、すでに外でやらかした後なのか?
「あんのストーカー、絶対ボコにするっ!」
レンが自分の顔の前で拳を握って燃えている。
ストーカー……?
「対象はレンと僕の、自称幼馴染の兄妹なんです。まとわりついてだいぶ迷惑を被りましたので、司法的警告を出したところです」
にっこり微笑んでユキ。
なんだか笑顔が黒い。
「今は引っ越して距離的にだいぶ離れてるから。勇者サマだし、簡単にはあっちのダンジョンから離れられないから大丈夫。大体、幼馴染はこっちにちゃんといるっての!」
対象は勇者クラスか。勇者もピンキリだが、とりあえず強いと想定しておいた方がいいだろうな。
勇者とは、氾濫によって現れたリトルコアの討伐に参加して、目立った冒険者が呼ばれる。目立つということは、活躍したとかトドメを刺したとか、顔がいいとかだ。公称ではないが、名誉といえば名誉な名称だ。
そして大抵通うダンジョンのギルドや市町村から支援を受ける冒険者だ。支援を受けるからには、リトルコアが現れた時に討伐に参加する義務があり、支援を受けたギルド、市町村のある場所を届け出なく1日以上離れられない。
ダンジョン以前は1日あれば日本全国いけたらしいが、今の交通事情でそれは難しい。そして司法手続きをしているのなら、対象が移動の届け出を出した時点で連絡が来るはず。
「――挑む前に連絡をくれ」
ダンジョンの一部屋目の物を片付けるから。
「分かった!」
「よろしくお願いします」
誤解された気もするが。まあ、その時は薬の類は手ぬかりないよう整えるつもりでもいる。年単位で先の話になるだろうが。
対象者は、レンとユキのこちらに越す前の近所にいること。そこはこの場所から少なくとも1日以上離れた地域であること。勇者と呼ばれる者――おそらく兄妹でパーティーを組んでいる――であること。
レンとユキの年齢を考えれば、特定が容易だなこれ? というか、もしかしたら聞いたら対象を教えてくれるのか? 私が思っていたよりもオープン?
面倒なんで聞かないが。
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