第23話 リトルコア
昨夜は代行で帰宅したのち、風呂に入って寝た。一人暮らしの気ままさよ。
鷹見さんの話はほぼ受ける方向で。いやだって、私の心配な点を丁寧に埋めてきた挙句、取引する店の紹介=美味い店の紹介なんだもん。
そして装備が揃ったところでリトルコア。9層までの魔物は倒してあるので、なんの気配もないダンジョンを最短で進み、10層へと続く階段を降りる。1層から3層の魔物は明日には復活するはずだ。
リトルコアのいる部屋の前、念の為体力と気力を回復させる。完全に回復オーバーだが、この層には扉の先のリトルコアしかいないため、魔物が集まってくることもない。
リトルコアのいる大きな扉の前から離れた場所に、小さな扉がある。これは一度中のリトルコアを倒すと、開けるようになる。中はリトルコアを回避できる通路だ。
リトルコアは倒した者が部屋の外に出ると、直ぐに復活する。だが、一度倒したことのある者ならばスルーできるようになっている。
ダンジョンを進むための能力、聖獣の存在、この仕組み。ダンジョンそのものが攻略されたがっていると言う者もいる。
もっとも攻略されたがっている理由は、なるべく強い『化身』をできれば生身ごと、ダンジョンが食うためという説が有力だ。聖獣はダンジョン内では――攻略を進めるためには、『良いモノ』として扱われているが、未だダンジョンには謎が多い。
それにしても、10層とはいえ、未知のリトルコアの相手は緊張する。ソロでリトルコアに対面するのは、政府にこき使われていた頃以来だ。
私の仕事はイレイサーへの陰からの助太刀か、対象の暗殺。イレイサーの持つダンジョンの産出物が有益だった場合は前者、イレイサー共々無用の場合は対象のやっていることの裏が取れた後、さっさと仕留めてダンジョンの崩壊を防ぐ。
イレイサーは別に正しい者が選ばれるわけではない。対象とどっちもどっちな存在もいる。対象に虐げられて歪んだのかもしれんが、周囲にとって害悪な者に過ぎた力を持たせておくのも迷惑だ。
魔物は深い階層でないと能力持ちがでんが、人間はレベル1から能力持ちだからな。『スキル奪取』は対人有用。
能力自体を奪い取るのではなく、対象が使える状態の能力――例えば、ファイアが気力的に10度使える相手から、最大10のファイアを奪える。奪うと対象はその分の気力を無くすが、気力が回復すればまた撃てるし、奪える。
まあ、戦闘中に気力を無くしたらひどいことになるわけだが。必ず奪えるわけではないが、忍び寄って奪うことも可能なので。魔物との交戦中など、奪われていることに気づかん輩もいた。
奪ったスキルは、カードの形になるのだが、これはレベルアップのカードと同じように、私しか触れられない。そしてレベルアップのカードと違い、その場で使う必要はない。通常、ダンジョンの外には持ち出せないが、【収納】と大層相性が良い。ダンジョンから出るとリセットされるはずのものが、ストックし放題。
冒険者ギルドに混じっていた政府関係の【鑑定】持ちに鑑定されたらしく、スカウトされたことが始まりだった。ダンピールという種族的に他者の命に対する執着も薄い、とても暗殺者向きです。
私の性格もあるが、暗殺の仕事がメインすぎて、助太刀コースの時も堂々と表にでるのが憚られたため、ダンジョンはずっとソロ。当然リトルコアもソロで何度か倒している。
あまり長くやるものではないと思ったので、年数を決めて仕事を受けたのだが――。だって、条件がよかったのだ。今は一般人です。
そんなわけで久しぶりに緊張して、扉に触れる。触れた場所から光がゆっくりと漣のように広がり、城門のような大きな扉が開く。この漣が消えるまでに扉に触れた者が全員部屋に入ると、扉は消え、リトルコアを倒すまで部屋の外には出られない。
扉の先に待っていたのは巨大なスライム。
……。おい。
偶数層はスライムだって聞いたけど、確かに聞いたけど! リトルコアまでスライムでなくてもよくないか!?
こちらに気づいた真っ黒な巨大スライムがぼよんぼよんと跳ねてくる。正直遅い。
「【魔月神】」
こちらからも近づき、間合いに入ったところで刀を振り下ろす。
消える刀身と糸のような月。
スライムの私の攻撃が当たった場所が溶け出す。一瞬痛みを堪えるかのように潰れるスライム。
新しい能力はまだ強化していないので、日本刀より苦無の方が強い。せっかく一撃で死なないのだから、【魔月神】を連発する。幸い気力はたっぷりあるし、回復薬もある。
能力は使用時に望んだことが、分岐先として出現する。一定まで【強化】をすると、どの方面に進化させるか選ぶことができるのだが、どんどん同じ系統の進化の先に進むこともできるし、出現済みの分岐を選ぶこともできる。
武器防具の能力は『強化』のカードで行える。武器防具はついている能力だけでなく、攻撃力や防御力も上がるのだが、能力の分岐地点まであげるのは、時間か運か金がかかる。
『強化』のカードは出やすく、家にあるダンジョンなだけに時間はたっぷりかけられる。張り切って通うとも。
【隠形】も使いつつ、能力だけで倒す。すまんな、スライム。
巨大スライムを倒すと、20枚のカードが浮かび上がった。このうち5枚は個人にしか触れることができず、15枚は部屋にいる全員が触れられる。
ちなみに個人カードの5枚中1枚は、リトルコアのショートカット用の扉の『鍵』で確定だ。
仲のいいパーティーならば、取得後に話し合ってカードを分配し、即席のパーティーならば個人のものは個人に、共有のカードは中身がわからないまま、一枚ずつ順番に取ってゆくのが普通だ。
カードの中身は触れるまでわからないので、全員が触れられるカードに能力カードが混ざっていた場合、それは触れた人のものだ。
レアの出現率への影響と相俟って、パーティーの人数は5人が多い。5人が仲良く分ければ、リトルコアの討伐で個人カード5枚、共通カード3枚の1人当たり8枚のカードが手に入る。ソロな私は当然20枚全部。
カードに触れて回収してゆく、『粘液』『麻』……まあ、ほとんどが素材なんだが。
普通のスライムから出るものも混じっているが、カードの角に書いてある数字の桁が違う。リトルコアから出る素材のカードに封入されている数は1から999の間。浅い層で出る素材については、大きな数字が出がち。
例えば『麻』のカードは1枚だが、手に入れた麻の数は764個だ。麻は使わんので売り払うが、粘液、薬草などは薬の生産に使う。しばらく素材に困らない。
粘液やら薬草やら素材を除くと、『強化』『白地図』『魔物避け』、ほぼ必ず出る『覚えの
入ってきた扉が消えて、もう一つの扉が開いている。
部屋から出て、11層に続く階段の前で『覚えの楔10』を使うか迷う。明日からアジが復活する。アジも狩りたいし、先のドロップも早く見たい。
……。
とりあえずアジを倒すか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます