第22話 誘惑

「この度、海のそばのギルドから定期的にカードを運ぶ契約を取り付けました」


 おお? 海産物が今より出回るのか! 


 続いた説明に喜ぶ。私のダンジョンのドロップの値が下がりそうであれだが、旨い外食の選択肢が増えるのは嬉しい。


 この市のダンジョンの特産品の豚などは、ある程度カードのままストックし、【収納】持ちによって、豚の出ない地域のダンジョンに運ばれ、代わりにそのダンジョンの特産物のカードが運ばれてくる。


 そのやりとりに、海産物の出るダンジョンのギルドが加わったのだろう。というか、災害見舞いついでに鷹見さんが契約を取り付けてきたかんじか。種類や量についてはそちらで問題がなさそう? 


「そうたくさんは出回らないと思いますよ、行き来の回数が少ないですから。カードの形でまとめて購入して、小出しに特定の店に卸すことになります」

私の顔色を読んだらしい鷹見さん。


 だから紹介する店との取引を、と目で促してくる。


「……個人と直接やりとりするのは面倒なんだが」

買取額は抑えられているが、契約やら人同士のやりとりやら、面倒がないのがギルドとの取引のいいところ。


 あと、ダンジョン持ちなのがばれる心配が少ない。攻略させろとか絡まれるのは面倒だ。


「オオツキさんならそうですよね」

薄く笑う鷹見さん。


「ギルドとしては専売になるわけだし、いいのでは?」

私がギルドに売って、ギルドが店に売ればいい。


「ギルドとしては。町起こしとしては、生産者・・・と提供者が直接やりとりをしていただいた方が、ギルドを挟むより印象がいい。――それに、おそらくオオツキさんは通うことになると思うんですよ、その店に」


 通う……?


「味的に、立地的に、料理人の人柄的に。腕はいい、寡黙、場所はダンジョンから少し歩きますが、生産ブースで酔い覚ましが可能。寿司が専門ですが、海辺でないここでは他の日本料理も提供」


「う……っ」

すごく通い詰めそう。


「紹介をしてしまった方が、お互い色々都合が良さそうでしたので」

にっこり微笑む鷹見さん。


「……」

鷹見さんがひっぱってきた店なら絶対美味しい店だ。取引、一店くらいならいいだろうか……。誘惑がひどい。


「ではこうしては? 最初に顔合わせをして、その後はギルドのオークションブースを使う。使用料金はかかりますが、値段設定は自由に――ギルドの買取価格のプラス20%で値段設定をして、即決・対象者限定にすればよろしいかと」


 相場を調べて値段をつける作業が面倒というのが顔に出たらしく、鷹見さんが言い直した。


 ギルドのオークションブースというのは、その名の通りオークションのためのもの。私書箱のようなカードを入れられる引き出しが並んでおり、匿名でやりとりができる。


 登録は個人だが、引き出しに入れるのも出すのもギルド職員で、ブースの使用料とカードの売り上げの10%がギルドに入る。


 ある程度高いものでないと、ギルドに売るか、直接売買した方が良くなる値段設定で、利用希望が多くなるほど基本の使用料が高くなる。大抵運良く高額になるものがドロップした者か、有名な生産者が使うことが多い。


 オークションは一応全国対象だが、遠いほど送料がバカ高くなるので、必然的にギルドに直接引き取りに来られる範囲での入札が集まる。


「ギルドとしては、販売物をオープンにしていただければ宣伝になります。登録とカードの預かりも生産者ブースで受けております。ギルドの買取よりは時間をいただくことになりますが、オークションでもオオツキさんの手間はそう変わらないかと。食の街として定着するまでの数年、いかがですか?」

立て板に水の説明と、営業スマイル全開の鷹見さん。


 正直胡散臭く見える笑顔なのだが、私にも利がある条件を提示してくる。ギルドに利用されるにしても悪い話ではない。


「身バレには全力で配慮いたします」


 ドロップ品を開示するのは、人の興味を惹く。が、そこはギルドが全面的に上手くやってくれるようだ。


 私のような食い道楽に安価で食うチャンスを与えるという意味では、ダンジョンでギルドに売った方がいいのだろう――買取カウンターでギルドが買い上げた内の何割かは、必ず一般に流すことになっている。


 ただ、その場合、料理できるかどうかも問題になってくる。多分この町に住む人の多くは、魚を捌くことどころか触れることに馴染みがない。肉のダンジョンドロップが、部位ごとに出ることが多いおかげで、鳥を解体するのも難易度が高い。


 どう考えても、提供する店が増えた方が有難いだろう。


「オオツキさんが他の店とも直接やりとりしたい場合もご自由に。ギルドに声をかけてくだされば、下心コミですが契約等はお手伝いしますよ」

にっこり微笑む鷹見さん。

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