第85話 飲み比べ

 本日は『翠』で鷹見さんと関前さんと酒を飲む日。落ち着かず自宅ダンジョンの攻略を進めた。


 そして事件発生。72層のスライムがビールを落としました! 


 『ボヘミアン・ピルスナー』『ジャーマン・ピルスナー』『ペール・エール』。海外のビールっぽい。欲を言えば、キンキンに冷やして飲む日本産ビールが欲しい。ちょうど夏に差し掛かったところだし。


 間に『近江牛』が出ているのだが、ビールの前に霞んでいる。スライム、スライムも殲滅せねばいけなかったのか。


 いや、階段から階段までに出たスライムは倒している、今まで酒が出たことはない。日本酒もドロップし始めたのは63層からだし、これからだ。


 飲み会を前に大興奮であるが、それはそれとして準備。日本酒をせっせと『開封』、基本四合瓶ドロップのようで一升瓶よりは扱いやすい。


 最初のドロップは『山口の地酒・1』『三重の地酒・2』『福井の地酒・1』。最後についている数字はなんだろうと思いつつ、魔物が復活するたびに殲滅した結果、数字が小さいほど出やすいようだが、今のところ34まで確認している。


 まだとび番もあるのだが、全種類持っていこうとすると100本近い。車に乗らない、ついでに飲みきれない。


 そして今、同じ県名同じ番号でも瓶の色が違うことが発覚。流石に手に負えないんだが? 


 とりあえずビールを数本と、あとは載せられるだけ載せて『翠』に向かう。食材も持っていこうかと思っていたが、無理である。


 ◇ ◆ ◇


「こんばんは」

「いらっしゃい。鷹見さんもいらしてますよ」

本日『翠』は店休日なため、裏口からお邪魔。


「こんばんは」

声が聞こえたのか、鷹見さんもこちらに来た。


「ああ。――すまんが、車から下ろすのを手伝ってくれんか?」

「ええ。もちろん」


 というわけで、車から酒を運び出す。


「は……?」

「これはまた……」


 箱に入れた酒の量を見てびっくりする二人。


「実はまだあるのだが、車の重量制限があるのでな」

あと、地下のパニックルームからの階段の往復がきつかった。運動はバッチリしてきたとも。


「飲み比べとおっしゃってましたね、これ全部違う銘柄ですか?」

「おそらく」

鷹見さんに答える。


 私も確認できていない。2、3本開けたが、それだけなので検証は無理だ。


 関前さんが台車を持って来てくれていたので、運び込むのは早かった。私の手書きのメモが貼られた瓶が並ぶ。


「カードには産地と番号しかなくてな。同じ産地番号でも瓶の色が違うので違うものだと思うのだが……」

走り書きでもメモをつけておかんと、飲み比べの結果を持って帰れない。


「瓶の色は数からして日本酒の分類か? 大吟醸酒、吟醸酒、純米大吟醸、純米吟醸酒――」

関前さんが言う。


「なるほど。では番号は蔵元かもしれませんね」

「……それだと、1つの蔵元で9種類にならんか?」

鷹見さんに聞き返す。


 瓶の色が欠けて揃っていない番号のものもあるが、酒蔵によって9種類に絞っているのか?


「滝月さんの出品する魚も、同じカードで大きさや季節がまちまちですからな」

さらりと言う関前さん。


「もしや凄い種類があるのか……?」

「今までのドロップ傾向を見るに、その県の地酒全種類出てるんじゃないですかね?」

ちょっと唖然としたところに鷹見さんが止めを刺してくる。


「料理をお出しします。今日は自分も飲ませて頂けるそうなので、ある程度並べさせてもらいます」

関前さんの話し方はぶっきらぼうと丁寧を行ったり来たり。


 素がぶっきらぼうなのだろうが、客とのやり取りで丁寧語が出るようだ。私も鷹見さんも、店外での関わりがあるのでどっちも出る。楽な方で話してもらっていいのだが、習性のようなものかもしれない。


 小鉢や皿が次々と出される。時間に合わせて用意してくれていたのだろう。普段は一品ずつ間を置いて出されるのだが、私と鷹見さんしかいないカウンターにどんどん並ぶ。


 イワシと分葱わけぎと切り干し大根の酢味噌がけ、鰤のカマ焼き、レモンを添えた甘エビの揚げ物、焼きシメサバのおろし和え、アサリの酒蒸し。刺身が数種、そして小ぶりの握り寿司。


 どれもこれも美味しそうで酒が進みそうだ。


「これは美味しそうな。さすがですね」

鷹見さんが料理を前に言う。


「何かリクエストがあれば飲みながら作ります」

関前さんは、カウンターの中の調理場に背の高い椅子を持ち込んでいる。


 そこに浅く腰掛けて、自分の分の料理――私と鷹見さんの前に並ぶものよりも、品数が少ないが――を前にしている。


「日本酒も楽しみにしていました。ダンジョンまでですが、帰りの足も手配してあります」

糸目をさらに細めてにっこり笑う鷹見さん。


 鷹見さんがネクタイを緩め、私も上着を隣の椅子に掛ける。


 楽しみは楽しみだが、量が量である。ちょっとだけ戦いに赴く気分になっている。


 カウンターの内と外、いつもの配置だが、いつもと違う雰囲気。カウンターの空いた場所には酒瓶がずらりと並び、いるのは3人だけ。


 料理とまだ何も入っていない小さな猪口ちょこが3つ。猪口に一杯ずつ飲み比べて、瓶に余った酒は『翠』に置いてゆく。


「では『福井の地酒・1』青瓶から――」


 鷹見さんが言い、飲み比べが始まる。



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本日3/8、プライベートダンジョン1巻発売です!

よろしくお願いいたします

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