第34話 リトルコアの悩み

 問題が発生した。


 リトルコアのドロップカード、数が……。これ、個人では開けられないだろ! 『地鶏の卵』689個とかどうしろというのだ。


 おそらく、まだ相談事ができる。魚のリトルコアが出たら、肉よりさらに足の早い生物なまものの扱いになるのだろうし。毎回毎回鷹見さんに相談になるわけだが、少し相談事がまとまってからの方がいいだろうか。忙しい人だしな。


 よし、50層まで行った後で相談しよう。


 浅い層のリトルコアは、大きさが変わることが多いが、深い層の普通の敵として出る。個人で気軽に楽しむ分については、深い層まで進んでからになる気配がする……。先の楽しみということで!


 ダンジョンを戻る。5層はどうするか、おそらくリトルコアがいると思うのだが、階段までの間に遭わなければ隅々まで探すことになる。帰ってゆっくりするつもりだったのだが。


 10層が鶏だったということは、順番的には魚なんだよな。また開けられないカードになることは確定しているのだが、さて。


 『強化』のカードをさっさと使い、足を進める。


 黒猫のダンジョン移動能力は、リトルコアを倒した後、1部屋目に戻してもらうという使い方もありか? 行って戻るまでの時間が関係ないのなら、翌日に元の場所――リトルコアを倒した場所に戻してもらえる……かもしれん。


 いやだが、酒が出るダンジョンへの移動。同じダンジョンから1部屋目にもどるだけなら高いとはいえ、戻るためのアイテムはあるわけだし。酒の在庫と、このダンジョンで酒が出るかで決めるか。


 黒猫の使い方も50層まで保留だな。


 前方の角をよぎる赤黒い影。――うまい具合に遭遇したようだ。そう広いダンジョンではないので遭遇率は高いだろうとは思っていたが。


 一応【隠形】を使い、角から覗く。赤黒い大きな魚の下、黒い水溜りが一緒に移動している。


 口が尖っており、背鰭が大きい。長いが幅はそうない。


 だが、あの水溜りに踏み入るのはあまりよろしくない気がする。リトルコアの体の幅はそうないが、床の大部分が黒い水溜り。とりあえず苦無、魚が振り返る前に続いて【魔月神】。


 怯むが、リトルコアが逃げるということはない。向かって来たところを斬りつけ、斜め上に飛びながら壁を足場にもう一度刀を振るう。


 うーん、ダメージは負わせたものの、思ったほど手応えがないというか、刃が少し滑った。アクロバティックな体勢から刀を振るうのは慣れない。


 このリトルコアの攻撃法は、突進からの体当たり、尻尾の強打くらいか? なにせ5層だし、こんなものか。生命だけは多いようで、少し時間がかかったが、特に何事もなく。


 ドロップカードが並ぶ中、レベルアップカードも現れた。【椿】【杜若】【藤】【梅】。【椿】と【杜若】を選び、『力』と『気力』が上がる。


 ドロップカードは、『マカジキ』『シロカジキ』『クロカジキ』『バショウカジキ』『メカジキ』――。カジキです。


 無理だろう? 家で捌くの。いや、その前に数があれなので、そもそも【開封】が無理だが。深い層で遭遇して、気軽に獲れても無理だな?


 困惑しつつ、戻る。鮭、鮭ならなんとかなるだろうか……?



 風呂に入って、動画をチェック。やっぱりでかいぞ、鮭。『新巻鮭』はなんとか切り身に出来そうな気もするが……。さすがにこのサイズを捌いたことがないので、一度間近で捌くところを見たい。あと、カジキは無理。


 鮭は『翠』の関前さんに頼もう。菜乃葉さんにお伺いを立てるメールを入れる。親父さんはメールも含め、ネット関係は苦手でやっていない。


 少し遅いが夕食に。関前さんの都合がつけば、明日は魚なので肉にするか。豚は食べたので、牛か?


 玉ねぎがあるので、玉ねぎの牛すき照り炒め丼にした。生姜を少しきかせた牛の脂の溶ける、濃い目のタレ。柔らかな新玉ねぎ。アサツキが使い放題になったので小口切りにしてたっぷり散らす。


 漬物、絹さやと豆腐の味噌汁。


 豆腐や油揚げは柊さんに紹介された豆腐屋で買っている。午前中ですぐに売り切れてしまうので、買い損ねることも多い。


 御飯と甘辛い味は罪の味。遅めの時間だというのにおかわりです。2杯目は、熱々なところに卵の黄身を落として。


 地鶏の卵、早くダンジョンを進もう。出るよな、地鶏。出なかったら泣く。

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