第78話 オーグリス
仮眠から起きる。
伸びをして食事。ダンジョン内では顔も洗わず、着替えもしない。そういう余裕や装備はない――こともない、私は【収納】持ちなので。まあだが、よほど長逗留する予定でもない限り、用意していない。
鮭おにぎり、ホタテの炊き込みご飯のおにぎり、卵焼き、ウィンナー、ロメインレタスをちぎって、ラディッシュの輪切りとクリームチーズを混ぜたサラダで、野菜を摂ったと主張しておく。
心持ち薄めの塩加減のふんわり握ったおにぎりは、具の塩鮭と混じっていい具合。炊き込みご飯は、貝柱をほぐし入れたところに小さなホタテをいくつか投入、舞茸少々――隠し味というほどでもないが、最後に落とした少量のバターがいい仕事をしている。
茶を飲んで食事を終え、リトルコアの部屋に入る。
「オーガか」
中にいたのは巨大なスライムのオーガ。いや、胸らしきものと腰のくびれがあるからオーグリスか。額にツノが2本、厚い唇から突き出た牙。
なめし革のような皮膚や肌の色は、赤黒いスライムなんで確認できないが、形状的に間違いないだろう。日本式の鬼とは少し違う。
二階の屋根を越しそうな巨体が斧を振りかぶって迫ってくる。迫力ある巨体だが、踏み込む足音はつきたての餅を叩きつけるような音。ぴたんぴったん。
ついた足と、踏み込みの衝撃に飛び散ったスライムの体の一部が触れた場所が溶けている。白煙が上がっているのでおそらくだが。
相手の図体が大きくなってもやることは変わらん。近づいて【天地合一】で核の場所を探り――心臓か頭な気もするが――、そこに届く攻撃を行う。
本物のこのサイズのオーグリスであるのならば、足首の腱を斬り動きを止め、膝を斬り上半身を下げる。が、スライムは斬ってもすぐに戻るし、あまり意味がない。喉も意味がないだろう。
日本刀は強化してだいぶ使えるようになって来たが、つい以前使っていたモノの気で扱ってやらかす。同じ日本刀なのに、癖がなさすぎて落ち着かない気分になる。
振り下ろされた斧と、衝撃にスライムの腕から飛び散る欠けらを避け、その斧を足掛かりに腕を登る。岩盤のような床を割り食い込んだ斧、柄を持つ伸びた腕、屈んだ姿勢。
立ち上がる前に肩にたどり着き、オーグリスの背に日本刀を差し込む。でかいが胸板はそう厚くない。
狙うは心臓の位置。心臓よりもはるかに小さい核。
うん。【天地合一】と【正確】はスライムと相性がいい。わかりやすい弱点持ちは楽だ。
ドロップは68層で出た銃弾と、64層の布が中心。68層、楽ができると思って隈なく回ってしまったのだが。……まあ、リトルコアの方が断然楽だしうれしい。
銀のダガーは幽霊系が出た時のために、金の必中は特殊効果で攻撃をすり抜けたりする相手用に保存。鉄、銀、金と名付けられているが、もちろん外の世界と同じものではないので、そのまま持ち出すと消える。
だいたい20ずつ『ブランクカード』に詰めて売られている。県内に幽霊系が出るダンジョンは確認されていないので、銀はこの辺では値が安い。金は投げつければ必ず当たるので、生産者、回復や魔法職に人気。
ちなみに金は矢も弾丸も投げれば当たる。ただ、与えられるダメージが微妙なだけで。弱点に当たるとも言ってない。ダガーを投げても、下手くそならば刃物の腹がべしっと当たるなんてこともある。
その点、物理ダメージが大きくなる鉄ならば、当たれば大きさに比べて理不尽なダメージが与えられる。まあ、近接職が剣やら拳やらで与えるダメージほどではないが。
とりあえず矢は売り払い、弾は定期的にイレイサーの箱に突っ込もう。ダガーは【収納】に99でひと枠使うので、その数ストックしとこう。
どうせこのダンジョンでしか使わないし、ダガーの残りは箱にでも入れて保管しとくか。カードの数字が786本とかだしな。
布はどうだろう? 340から863と幅広い数字なんだが、布がどれくらい嵩張るものか想像がつかない。アイラさんのスペースで足りるのか、会議室なのか、『開封ダンジョン』行きなのか。
……アイラさんにカードのまま丸投げしよう。
楔を打ち込んで、来た道を戻る。時々通路に移動して来た魔物を倒し、上を目指す。黒猫を呼び出して、このダンジョンの一部屋目に移動もありだが、呼び出し権利はもっと深い層で使いたい。
どうやら酒の出るダンジョンに行かずとも、このダンジョンで出るし、深層から戻るために使ってもいいかな、と。
1層に戻れるアイテム、『帰還の翼』が大量に出てくれれば悩まずに済むのだが。
戻ったら酒が飲めるのである。走るような早足になるのは仕方がない。
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