第72話 種族特性

 ――寝ろ。同じ内容になってもかまわんから、昼間に改めてメールをしろ。ダンジョン何日目だ? 多少危険な魔物に遭遇せんと多分レンは学習せんぞ。とりあえず自分が煮詰まってるのをなんとかしとけ。


 これが私からの返事。


 悩みの解決法を探ることを、夜にやるとロクな結果にならない。そしてイレイサーがどこまでダンジョンを進めているか知らんが、今は力押しで何とかなってしまっているのだろう。


 ……と、思うのだが。イレイサーのダンジョン内で、『イレイサーの化身』の生命が0になっても化身を失うことがないというのは本当だろうか。


 レンが突っ込んで行っては死に戻っているなら、ユキの心配もわかる。別に痛みが軽減されとるわけではないしな。


 イレイサーのダンジョンの特性はわかっていないことが多い。情報を得るにはイレイサー自体が少ない上、私が関わったイレイサーはさらに少ない。それに政府が得た情報の全てを、私に開示してるわけがない。


 で、メールの返事は返事として。


 内容への返事はどうするか。正気に戻っても、希望内容はたいして変わらんだろう。


 レンの暴走の制御。イレイサーのダンジョンでレンの戦闘を見るか、市のダンジョンでレンの戦闘を見るかのどちらか。


 暴走制御は無理では? 突っ込んで行く前に、暴力で止めていいなら考えるが。


 イレイサーのダンジョンには少し興味があるが、おそらく一度入って見れば満足してしまう。食材落ちそうにないし。


 私的には丸々5年かけて強くなってもらい、ギリギリで対象を消してもらえれば万々歳だ。


 ストーカー案件は法的にあれこれしているようだし、こっちに移動してくるようなら連絡が入るだろう。それに極端な話、生身の蓮花と雪杜が攫われて監禁されても、対象の化身を私が消せば私的には問題ない。


 困るのはダンジョン内でイレイサーが対象に負けて失敗すること。


 イレイサーのダンジョンは関係者以外立ち入り不可なので無問題、そもそも『化身』が消えないので勝ちもないかもしれないが、負けはない――万一があるとしたら、市のダンジョンで。


 現在イレイサーはまだ弱い。ツバキとカズマがいるので多少マシだが、今の時点では4人より対象の2人の方が強い。


 レンとユキが市のダンジョンに通うのはどの程度の頻度だ? 梅の収穫の時にツバキたちとしていた会話を聞く限り、本来の『化身』は市のダンジョンで鍛えることにしとるっぽいので、日参に近いのか?


 まあ、ストーカーがいきなり殺しにかかってくるってことはない、と思うが。

青葉の配信を見た限り、どうもレンに触りたいらしいことが滲み出ている。色っぽい話ではなく、だ。


 レンがつい最近までダンジョンで活動できなかったことと考え合わせると、黒猫だんじょんが青葉の2人の排除を決めた理由に関わることなのだと思う。


 市のダンジョン。配信、配信か。


 私の性格的には向かないんだが、イレイサーのダンジョンの方は3人で――テンコも来るかもしれんが――何を話せばいいのか謎だ。配信こっちならカズマが手フェチ以外の相手を一手に引き受けてくれそうな気がする。


 ツバキとカズマは本業(?)の攻略配信があるからだろう、こちらの配信頻度は月に1度か2度の予定だと書いてあったな。


 思ったよりイレイサーが生産の要求をしてこないので、その程度なら付き合ってやってもいい。生産の要求が増えたら、それを理由にダンジョン攻略に付き合うのはやめる方向で。


 私の姿は手を含めて映さないこと、テンコからの付与石の購入を仲立ちすることを条件でつけるか。それでもいいというかは謎だが。


 どうでもいいが、手フェチは私のせいではないよな? 『自分に惹かれる性質の者に、影響を与えることができる』という吸血鬼の特性があるが、昼間だったし違うはず。


 吸血鬼ならばある程度コントロールできる――代わりに力が強すぎてすぐバレる――が、ダンピールの私のこれはごくごく弱く、制御も相手の誘導もできない。何より、特性の強くでる夜にしか影響がない。


 ちなみに夜は、「何となく嫌!」とか「近づきたくない」とかの第一印象を持たれることも多い。これは私の愛想が悪いせいもある気はする。


 特性は私に向けられた、何かに頼りたいとか、何かを愛でたいとか、執着する気持ちを増幅してしまう程度。


 そもそもものすごく弱いので、私に興味がなかったり、普通に生活している人には影響はないのだ。スーツスキーは私と会う前から、私以外にもスーツスキーだったし、手フェチは私に関係なく最初から手フェチだ。この特性が出るのは夜で、昼間は影響外!


 ユキもメールで、写真コレクションを見せられたと書いていたし。きっと元々だ。元々だと、それはそれで周りにフェチが多すぎ問題が発生するのだが。


 足フェチはあれだ、私がちょっと心を折った後だったのでこう……弱った心の隙で本人も自覚がなかったフェチを引き出してしまったらしい。絡んできたのが悪いとは思うが、正直すまんかった。

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