第73話 作業中

 朝、ビスケットを食べながら牛乳を飲む。


 バターも小麦粉も手に入れたし、好みなビスケットを自分で作るのもいいかもしれない。後で他に何を使うのか調べよう。


 胃を刺激して目を覚ましたら、朝の散歩というか沢登り。行きも帰りも小走りである。最近は慣れてきて、足場にする石も決まってきた。


 さすがに早朝はイレイサーたちと山の中で鉢合わせることもなく、快適である。


 家に戻って、草取りと庭木の手入れ。今年は葉ネギを植えるつもりだったんだが、ダンジョンで出たんだよな。何か他にあるか? 


 野菜の植える時期には疎いが、ホームセンター的なところに行けば、この時期に植えるべき野菜の苗が並んでいる。ついでに土も買い足しておこう。


 トマトとキュウリを収穫して朝の業務は終了。


 シャワーを浴びるついでに洗濯、洗濯機任せなだけだが。さっぱりして、洗濯の完了を待つ間、掃除をしたり布団を干したり。


 洗濯物を干した後はしばしソファで伸びる。沢歩きはともかく、庭と菜園の手入れで色々削られる。


 朝が軽かった分、昼を早めに。


 卵を茹でて、パンを焼く。バターを塗り、一つは粗く潰した卵サンド、一つはキュウリとトマトとチーズとハム。トマトは少し水っぽい気がするが、キュウリが美味い。キュウリだけのサンドイッチでもいいかもしれない。


 ちなみにパンは鷹見さんに連れていってもらった、フレンチ系の創作料理『ODA』で譲ってもらっている。パンも自分の店で焼いて提供しており、とても美味しい。


 普段持ち帰りはやっていないのだが、そこは食材を卸している者の特権と、鷹見さんの顔である。


 サンドイッチ用に食パンも欲しいのだが、食パンはどこのパンだ? イギリス? 


 茶を飲みながら調べる。うん、日本の食パンの原型はイギリスでよさそうだが、フランスにもあるな?


 フランスの食パンは『パン・ド・ミ』。パン・ド・ミの『Mie』は 中身のこと。フランスはバゲットとか皮を楽しむパンが多いから、わざわざこう言う名前がついとるのだな? バゲットの端が一番人気らしいので、国によって好みが色々だなと思う。


 フランスにも食パンポジションのものがあるのはわかったが、よく考えれば『ODA』が作っていないなら意味がない。イギリス料理屋なんかあるのか? 


 いや、普通にパン屋が美味いパンを焼いてくれればいいのだが。今のところ、『ODA』の方が美味しいのである。


 それはともかく、ユキからメールが届いている。面倒だが仕方がない、読むか。呉越同舟というのとは少し違うが、一応同じ目的……いや、違うな? 私の目的は対象の消去ではなく、家のダンジョンを継続させることだ。


 イレイサーと対象が存在しておらんと、効率が悪くなる。強化もそうだが、ドロップ率やらそのあたりも普通に戻ってしまう。なるべく長く、今の状態のダンジョンであってほしい。


 ユキからのメールは短かった。


 内容は謝罪と要望と報酬の提示だ。


 金はいらん、自分で稼ぐ。昨夜結論を出した通り、メールを返す。少し条件がきついだろうが、配信に顔出しはごめんこうむる。かといって、イレイサーのダンジョンに付き合うのも、1人で相手をするのはとても面倒なのである。


 さらに譲歩することになりそうだが、月に2度くらいなら付き合ってやってもいい。


 さて、返事も出したことだし、ダンジョンへ行こう。装備ができてくるまでは、と自分で決めたこととはいえ、同じ場所をぐるぐるしていると飽きる。頼みを引き受ける気になったのは半分そのせいかもしれない。


 おっと、その前に布団と洗濯物を取り込んでおこう。夏のいいところは洗濯物がすぐに乾くところだな。


 で、ダンジョン。すっかり慣れた行程をこなす。完全に作業なので飽きる、沢登りのほうがちょっとした自然の変化が楽しめていい。


 布系の素材や『火炎鹿』の素材が溜まってきたし、ツツジさんとアイラさんに会うか。圧にならない程度に顔見せに。


 それにしても豚やら牛やら出ているのに、食材が落ちるせいで皮系のドロップが極端に少ない。ツツジさんには『火炎鹿』で諦めてもらう方向で。いや、もう少しダンジョンを進めれば、きっと皮も……とか言っておけばいいか。


 出て欲しいのは酒だが。


 つらつらと考えながら、敵を倒してゆく。【正確】が効いているせいで、周回するたび無駄や遊びがなくなり、本当に作業になる。効率はだいぶいいのだが。


 人間やはり楽しみがないといかんな。せめて日本酒かビールが出る階層が混じっていれば、楽しみにできたのに。

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